漢文

項王の最期(4)『我何面目見之』原文・書き下し文・現代語訳

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 史記『項王の最期』まとめ

 

イテ項王乃シテラント烏江

(ここ)()いて(こう)(おう)(すなわ)(ひがし)して()(こう)(わた)らんと(ほっ)す。

※「於イテ」=そこで。こうして。

そこで項王は東へ進んで烏江を渡ろうとした。

 

 

烏江亭長、檥シテ。謂ヒテ項王ハク

()(こう)(てい)(ちょう)(ふね)()して()つ。(こう)(おう)()ひて()はく、

 

烏江の亭長(=宿駅の長)は船を用意して待っていた。項王に向かって言うことには、

 

 

「江東雖ナリト、地方千里、衆数十万人アリ

(こう)(とう)(しょう)なりと(いえど)も、()(ほう)(せん)()(しゅう)(すう)(じゅう)(まん)(にん)あり。

※「雖 ~」=仮定、「 ~と雖(いへど)も」、「たとえ ~としても」

「江東は狭いといっても、土地は千里四方もあり、人口も数十万人はいます。

 

 

タルニ(なり)。願ハクハ大王急ランコトヲ

()(おう)たるに()るなり。(ねが)はくは(だい)(おう)(いそ)(わた)らんことを。

※「願ハクハ ~(セヨ)」=願望、「どうか ~させてください/どうか ~してください」

また、王となるにも十分な土地です。どうか大王よ、急いで渡って下さい。

 

 

今独ノミ船。漢軍至ルモ、無カラントルコト。」

(いま)(ひと)(しん)のみ(ふね)()り。(かん)(ぐん)(いた)るも、(もっ)(わた)ること()からん。」と。

※「独 ~ノミ」=限定、「ただ ~だけ」

今、(ここでは)私だけが船を持っています。漢軍がやってきても、渡る方法はないでしょう。」と。

 

 

項王笑ヒテハク、「天()ボスニ、我何ルコトヲサン

(こう)(おう)(わら)ひて()はく、「(てん)(われ)(ほろ)ぼすに、(われ)(なん)(わた)ることを()さん。

項王はそれを聞いて笑って言うことには、「天が私を滅ぼそうとしているのに、どうしてこの川を渡ったりしようか。(いや、しまい。)

 

 

()江東子弟八千人、渡リテ而西セシモ、今無一人ルモノ

()(せき)(こう)(とう)()(てい)(はっ)(せん)(にん)(こう)(わた)りて西(にし)せしも、(いま)(いち)(にん)(かえ)るもの無し。

※而=置き字(順接・逆接)

その上、私は江東の子弟8千人と共に、江東を渡って西に進んだが、今一人も無事で帰ったものはいない。

 

 

江東父兄憐ミテ而王トストモ、我何面目アリテカエン

(たと)(こう)(とう)()(けい)(あわれ)みて(われ)(おう)とすとも、(われ)(なん)(めん)(ぼく)ありてか(これ)(まみ)えん。

※「(たと) ~トモ」=仮定、「たとえ ~だとしても/仮に ~であっても」

※而=置き字(順接・逆接)

たとえ江東の父兄たちが憐れんで私を王にしてくれたとしても、私はどんな面目があって彼らに会えるのか。(いや、面目なくて会えない。)



()トモ、籍独()ラン於心()。」

(たと)(かれ)()わずとも、(せき)(ひと)(こころ)()じざらんや」と。

※「(たと) ~トモ」=仮定、「たとえ ~だとしても/仮に ~であっても」

※「独 ~ (セ)ン乎(哉)」=反語、「独り ~ (せ)んや」、「どうして ~だろうか。(いや、~ない。)」

たとえ彼らが何も言わなくても、私はどうして心に恥ずかしく思わずにいられようか。(いや、いられない。)」と。

 

 

ヒテ亭長ハク

(すなわ)(てい)(ちょう)()ひて()はく、

 

そこで(項王が)亭長に向かって言うことには、

 

 

「吾知長者ナルヲ。吾騎ルコト五歳、所タル敵。

(われ)(こう)(ちょう)(じゃ)なるを()る。(われ)()(うま)()ること()(さい)()たる(ところ)(てき)()

 

「私はあなたが徳の高い人だということが分かった。私はこの馬に乗ること五年、向かう所敵はなかった。

 

 

一日クコト千里ナリ()スニ。以ハント。」

(かつ)(いち)(にち)()くこと(せん)()なり。(これ)(ころ)すに(しの)びず。(もっ)(こう)(たま)わん。」と。

 

かつては一日に千里も駆けたものだ。この馬を殺すのは忍びない。だからあなたに与えよう。」と。

 

 

()ヲシテ皆下リテ歩行、持シテ短兵接戦

(すなわ)()をして(みな)(うま)()りて()(こう)せしめ、(たん)(ぺい)()して(せっ)(せん)す。

※令=使役「令ヲシテ(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」

短兵=刀剣などの短い武器

そこで(項王は)騎兵を全員馬から下ろして歩かせ、短い刀剣を持って接近戦を行った。

 

 

項王漢軍、数百人ナリ。項王身ヅカラモ十余創

(ひと)(こう)(おう)(ころ)(ところ)(かん)(ぐん)(すう)(ひゃく)(にん)なり。(こう)(おう)()づからも()(じゅう)()(そう)(こうむ)る。

 

一人で項王が殺した漢軍の兵は、数百人であった。項王自らもまた十数か所の傷を負った。



ミテ騎司馬呂馬童ハク、「若故人()。」

(かえり)みて(かん)()()()(りょ)()(どう)()()はく、「(なんじ)()()(じん)(あら)ずや。」と。

※騎司馬=官名、騎兵を指揮する隊長。呂馬童=もとは項王の部下だったが、現在は沛公側にいる。

※乎=や、疑問

振り返って漢の騎司馬の呂馬童を見ていうことには、「あなたは私の旧友ではないか。」と。

 

 

馬童面、指サシテ王翳ハク、「此項王(なり)。」

()(どう)(これ)(めん)し、(おう)(えい)(ゆび)さして()はく、「()(こう)(おう)なり。」と。

※面=顔を向ける、顔をそむける。王翳=漢の騎将灌嬰(かんえい)の配下の武将、現在項王を追撃している

呂馬童は[顔を見てor 顔をそむけて]、項王を指差して王翳に言った。「この人が項王です。」と。

 

 

項王乃ハク

(こう)(おう)(すなわ)()はく、

 

項王はそこで(呂馬童に)言った。

 

 

「吾聞、『漢購フト千金邑万戸。』吾為セシメント。」

(われ)()く、『(かん)()(こうべ)(せん)(きん)(ゆう)(ばん)()(あがな)。』と。(われ)(なんじ)(ため)(とく)せしめん。」と。

※購=賞を懸けて求める

※使役=「~(セ)シム。」→「~させる。」 文脈から判断して使役の意味でとらえることがある。

「私が聞いたところによると、『漢が私の首に千金と戸数一万ほどの土地を懸賞にしている。』ということである。私がお前のために恩恵を施してやろう。」と。

 

 

自刎シテ而死セリ

(すなわ)()(ふん)して()せり。

 

そこで(項王は)自ら自分の首を切って死んだ。

 

 

 史記『項王の最期』まとめ

 

 史記『鴻門之会』まとめ

 

 

 

 

-漢文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5