青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
高祖還帰シ、過レリ沛ニ、留マリテ置-二酒ス沛ノ宮一ニ。
高祖還帰し、沛に過り、留まりて沛の宮に置酒す。
(淮南王黥布の反乱を鎮圧した後、)高祖は帰還して、(故郷の)沛に立ち寄り、留まって沛の宮殿で酒宴を開いた。
悉ク召二シテ故人・父老・子弟一ヲ縦レニセシム酒ヲ。
悉く故人・父老・子弟を召して酒を縦にせしむ。
※使役=「~(セ)シム。」→「~させる。」 文脈から判断して使役の意味でとらえることがある。
古くからの友人・長老・若者を残らず招いて酒を思う存分飲ませた。
発二シテ沛中ノ児一ヲ、得二タリ百二十人一ヲ。教二ム之ヲシテ歌一ハ。
沛中の児を発して、百二十人を得たり。之をして歌はしむ。
※教=使役「教二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
沛の少年たちを徴発して、百二十人集めた。彼らに歌を歌わせた。
酒酣ニシテ高祖撃レチ筑ヲ、自ラ為二リテ歌詩一ヲ曰ハク、
酒酣にして高祖筑を撃ち、自ら歌詩を為りて曰はく、
酒宴の真っ最中に高祖は筑(=琴に似た楽器)を打ち鳴らし、自ら歌詞を作って歌うことには、
大風起コリテ兮雲飛揚ス
大風起こりて雲飛揚す
※兮=置き字(語調を整える役割・強調・感嘆)
激しい風が吹き起こって、雲が舞い上がる。
※秦の時代の末期に動乱が起こったことを表している。
威加二ハリテ海内一ニ兮帰二ル故郷一ニ
威海内に加はりて故郷に帰る
(私の)威光は天下に広がって、(私は)故郷に帰ってきた。
安クンゾ得二テ猛士一ヲ兮守二ラシメント四方一ヲ
安くんぞ猛士を得て四方を守らしめん と。
※使役=「~(セ)シム。」→「~させる。」 文脈から判断して使役の意味でとらえることがある。
なんとかして勇猛な兵士を得て、(この故郷の)四方を守らせたいものだ。 と。
令三ム児ヲシテ皆和-二習セ之一ヲ。
児をして皆之を和習せしむ。
※令=使役「令二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
少年たちにこの歌を一緒に習い歌わせた。
高祖乃チ起チテ舞ヒ、慷慨傷懐シテ、泣数行下ル。
高祖乃ち起ちて舞ひ、慷慨傷懐して、泣数行下る。
高祖は立ち上がって舞い、憤り嘆き心を痛めて、涙を数行流した。
謂二ヒテ沛ノ父兄一ニ曰ハク、「游子悲二シム故郷一ヲ。
沛の父兄に謂ひて曰はく、「游子故郷を悲しむ。
沛の年長者たちに向かって(高祖が)言うことには、「旅人は故郷を懐かしむ。
吾雖レモ都二スト関中一ニ、万歳ノ後、吾ガ魂魄猶ホ楽-二思セン沛一ヲ。
吾関中に都すと雖も、万歳の後、吾が魂魄猶ほ沛を楽思せん。
私は関中に都をおいているけれども、死後、私の魂はやはり沛を懐かしむだろう。
且ツ朕自二リ沛公一以テ誅二シ暴逆一ヲ、遂ニ有二テリ天下一ヲ。
且つ朕沛公より以て暴逆を誅し、遂に天下を有てり。
また私は沛公から(身を起こし、)道理に外れた悪事を行う者を討伐し、そのまま天下をとった。
其レ以レテ沛ヲ為二シ朕ガ湯沐ノ邑一ト、復二シ其ノ民一ヲ、世世無レカラシメント有レル所レ与カル。」
其れ沛を以て朕が湯沐の邑と為し、其の民を復し、世世与かる所有る無からしめん。」と。
※使役=「~(セ)シム。」→「~させる。」 文脈から判断して使役の意味でとらえることがある。
沛を私が租税を全て私用できる領地とし、その民の租税や労役を免除し、代々(これらの負担と)関わることがないようにさせよう。」と。
沛ノ父兄・諸母・故人、日ニ楽飲シテ極レメ驩ビヲ、道二ヒテ旧故一ヲ、為二スコト笑楽一ヲ十余日ナリ。
沛の父兄・諸母・故人、日に楽飲して驩びを極め、旧故を道ひて、笑楽を為すこと十余日なり。
沛の年長者・婦人たち・古くからの友人は、毎日楽しく酒を飲んで喜びを尽くし、昔の話を語り合って、笑い楽しむことが十日余りに及んだ。
高祖欲レス去ラント。沛ノ父兄固ク請ヒテ留二メントス高祖一ヲ。
高祖去らんと欲す。沛の父兄固く請ひて高祖を留めんとす。
高祖は立ち去ろうとした。沛の年長者たちは強く願い出て高祖を引き留めようとした。
高祖曰ハク、「吾ガ人衆多シ。父兄不レラント能レハ給スルコト。」乃チ去ル。
高祖曰はく、「吾が人衆多し。父兄給すること能はざらん。」と。乃ち去る。
※「不レ能二ハA一(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)能はず」「(能力がなくて) ~Aできない」
高祖は、「私の部下は多い。皆さん(=年長者たち)は(私たちの)飲食をまかなうことはできないだろう。」と言った。そして立ち去ったのだった。
劉邦『大丈夫当に此くのごとくなるべきなり』原文・書き下し文・現代語訳