フロンティア古典教室

伯夷・叔斉『天道是邪、非邪』(1)原文・書き下し文・現代語訳

   

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 

 

伯夷・叔斉、孤竹君()二子(なり)

(はく)()(しゅく)(せい)()(ちく)(くん)()()なり。

 

伯夷・叔斉は、孤竹の国の君主の二人の子供であった。

 

 

父欲テント叔斉

(ちち)(しゅく)(せい)()てんと(ほっ)す。

 

父(=孤竹君)は叔斉を跡継ぎに立てようと思っていた。

 

 

父卒スルニ、叔斉譲ラントス伯夷

(ちち)(しゅつ)するに(およ)び、(しゅく)(せい)(はく)()(ゆず)らんとす。

 

父が亡くなると、叔斉は(兄である)伯夷に(跡継ぎの座を)譲ろうとした、

 

 

伯夷曰ハク、「父(なり)。」

(はく)()()はく(ちち)(めい)なり。」と。

 

伯夷が言うことには、「父の命令である。」と。

 

 

(つい)(のが)()る。

 

とうとう(伯夷は孤竹から)逃げ去ってしまった。

 

 

叔斉()シテツヲ而逃

(しゅく)(せい)(また)()つを(がえん)ぜずして(これ)(のが)る。

※而=置き字(順接・逆接)

叔斉もまた、跡継ぎになるのを承知せずに逃げた。

 

 

国人立中子

(こく)(じん)()(ちゅう)()()つ。

 

(孤竹の)国の人々は間の子(=伯夷の弟であり、叔斉の兄である子)を跡継ぎに立てた。

 

イテ伯夷・叔斉聞西伯昌一レフヲ(なん/ざ)/ルトキテ焉。

(ここ)()いて(はく)()(しゅく)(せい)西(せい)(はく)(しょう)()(ろう)(やしな)ふを()き、(なん)()きて()せざると

※「於イテ」=そこで。こうして。

※「(なん/ざ)/ ~(セ)」=再読文字、「盍ぞ ~(せ)ざる」、「どうして~しないのか。(いや、~すればよい。)」

※焉=置き字(断定・強調)

こうして伯夷と叔斉は西伯昌(=周の国の王)がとても老人を大切にするということを聞いて、どうしてそこへ行って身を寄せないのか。(いや、身を寄せればよいと思った。)

 

 

ルニ西伯卒スルニ、武王載木主、号シテ文王、東ノカタ

西(せい)(はく)(しゅつ)するに(いた)るに(およ)び、()(おう)(ぼく)(しゅ)()せ、(ごう)して(ぶん)(おう)()(ひがし)のかた(ちゅう)()つ。

 

(そして、)西伯が亡くなった際に到着すると、(西伯の子である)武王が(西伯の)位牌を(車に)載せ、(西伯を)名付けて文王として、東の方の(殷の)紂王を討とうとした。

 

 

伯夷・叔斉、叩ヘテ而諫メテハク、「父死シテ()、爰干戈()()

(はく)()(しゅく)(せい)(うま)(ひか)へて(いさ)()く、(ちち)()して(ほうむ)らず、(ここ)(かん)()(およ)(こう)()ふべきか

 

伯夷と叔斉は、馬を引き止めて諌めて言うことには、「父親が亡くなって葬儀もせず、こんな時に戦争をする、(これを)孝と言えましょうか。(いいえ、言えません。)

※孝=親によく仕え、大切にすること。

 

 

()()。」

(しん)(もっ)(くん)(しい)す、(じん)()ふべきか。」と。

 

家臣の身で主君を殺す、(これを)仁と言えましょうか。(いいえ、言えません。)」と。

※仁=思いやりの心

 

 

左右欲セント

()(ゆう)(これ)(へい)せんと(ほっ)す。

※兵=武器を用いて殺す

側近の者が伯夷と叔斉を殺そうとした。

 

 

太公曰ハク、「此義人(なり)。」

(たい)(こう)()く、()()(じん)なり。」と。

※義=人として行うべき正しい道

太公が言うことには、「彼らは人として行うべき正しい道を守る者である。」と。

 

 

ケテ而去ラシム

(たす)けて(これ)()しむ。

※而=置き字(順接・逆接)

※使役=「~(セ)シム。」→「~させる。」 文脈から判断して使役の意味でとらえることがある。

手助けをして彼らを立ち去らせた。

 

 

武王已ラゲ、天下宗トスルモ

()(おう)(すで)(いん)(らん)(たい)らげ、(てん)()(しゅう)(そう)とするも

 

武王はやがて殷の乱を平定し、天下は周を王としたが、

 

 

而伯夷・叔斉恥、義トシテ()ラハ

(はく)()(しゅく)(せい)(これ)()ぢ、()として(しゅう)(ぞく)()はず。

※而=置き字(順接・逆接)

※義=人として行うべき正しい道

伯夷と叔斉はこれ(=周を王とすること)を恥じ、(自分たちの行いこそが)義として(周から支給される)周の穀物を食べなかった。

 

 

於首陽山、采リテ而食ラフ

(しゅ)(よう)(ざん)(かく)れ、()()(これ)()ふ。

※於=置き字(対象・目的)

首陽山に隠れ住み、(ぜんまい)を採って食べた。

 

 

ヱテ(まさ/す)一レ/ルニセント、作

()ゑて(まさ)()せんとするに(およ)(うた)(つく)る。

※「(まさ/す) ~(セ)ント」=再読文字、「且に ~(せ)んとす」、「いまにも ~しようとする/ ~するつもりだ」

餓えて今にも死にそうになった時に歌を作った。

 

ハク

()()()はく

 

その歌の詩に言うことには、

 

 

西山兮  采

()西(せい)(ざん)(のぼ)り  ()()()

※兮=置き字(語調を整える・感嘆・強調)

※矣=置き字(断定・強調)

あの西山(=首陽山)に登り、  そこの蕨を採る。

 

 

兮  ()

(ぼう)(もっ)(ぼう)()へ  ()()()らず

 

(武王は)暴力を用いて暴力(=横暴であった殷)に取って代わり、  それが道理に外れていることを理解しない。

 

 

神農・虞・夏忽焉トシテ兮  我安クニカ適帰セン矣。

(しん)(のう)()()(こつ)(えん)として(ぼつ)  (われ)(いず)くにか(てき)()せん。

※「安クニカ ~(セ)ン(ヤ)」=反語、「どこに ~だろうか。(いや、どこにも ~ない。)」

(古代の伝説上の聖人である)神農・虞・夏はたちまちに滅んでしまった。  私はどこに身を寄せようか。(いや、どこにも身を寄せようがない。)

 

 

于嗟徂カン兮  命之衰ヘタルカナト

()()()かん  (めい)(おとろ)たるかなと

 

ああ、死のう。  命運も衰えてしまったなあ。 と。

 

 

於首陽山

(つい)(しゅ)(よう)(ざん)()()す。

 

こうして首陽山で餓死してしまった。

 

 

リテレバ、怨ミタル()ザル()

(これ)()りて(これ)()れば、(うら)たるか(あら)ざるか。

※「 ~歟[邪・乎・也・哉・耶・与]」=疑問、「 ~か(や)」、「 ~か」

このことから考えてみると、(伯夷と叔斉は死に際にこの世を)怨んだのであろうか、そうではないのか。

 

 

続きはこちら伯夷・叔斉『天道是邪、非邪』(2)原文・書き下し文・現代語訳 「或ひと曰はく、「天道は親無し。常に善人に与す。」と。~」

 

 

 

 

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