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源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(5)(6)(7)

「黒=原文」・「青=現代語訳

解説・品詞分解はこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(5)

 

年ごろ、さもやあらむと思ひしことどもも、

 

長い間、そのようなこと(=光源氏が起こす女関係のいざこざ)もあるだろうと思っていた事なども、

 

 

今はとのみもて離れ給ひつつ、さらばかくにこそはと、うちとけゆく末に、

 

(光源氏は)今はもうとばかり遠ざかりなさって、それならばこのように(問題ないだろう)と、安心するようになった結果、

 

 

ありありて、かく世の聞き耳もなのめならぬことの出で来ぬるよ。

 

あげくの果てに、このように世間の外聞も悪い事が出て来たのだよ。

 

 

思ひ定むべき世のありさまにもあらざりければ、

 

安心できる夫婦仲の様子ではなかったので、

 

 

今より後もうしろめたくぞ思しなりぬる。

 

(紫の上は)これから先も不安にお思いになるのだった。

 

 

さこそつれなく紛らはし給へど、候ふ人々も、

 

そのように平静に気持ちを紛らわしていらっしゃるけれど、お仕えしている女房たちも、

 

 

「思はずなる世なりや。

 

「思いがけない世の中であるよ。

 

 

あまたものし給ふやうなれど、

 

(光源氏には夫人が)大勢いらっしゃるようだけど、

 

 

いづ方も、皆こなたの御気配には方()(はばか)るさまにて過ぐし給へばこそ、事なくなだらかにもあれ。

 

どの方も、皆こちら(=紫の上)の物腰には一目置いて遠慮する様子で過ごしていらっしゃるからこそ、何事もなく平穏でありましたのに。

 

 

押し立ちてかばかりなるありさまに、消たれてもえ過ぐし給はじ。

 

(女三の宮の)我を張ってこれほどの様子に、(紫の上も)圧倒されてお過ごしにもなれないでしょう。

 

 

また、さりとて、はかなきことにつけても、安からぬことのあらむ折々、

 

また、そうかといって、ちょっとした事につけても、心穏やかでないことがあるような時には、

 

 

かならずわづらはしきことども出で来なむかし。」

 

きっと面倒な事などが起きるでしょうよ。」

 

 

など、おのがじしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知らぬやうに、

 

などと、(女房たちが)おのおの話して嘆かわしげな様子であるのを、(紫の上は)少しも気づかないように(ふるまって)、

 

 

いと気配をかしく物語などし給ひつつ、夜更くるまでおはす。

 

たいそう機嫌よくお話などをなさりながら、夜が更けるまで起きていらっしゃる。

(6)

 

かう人のただならず言ひ思ひたるも、聞きにくしと思して、

 

このように女房たちが(女三の宮と紫の上の関係について)穏やかでないことを言ったり思ったりするのも、(紫の上は)聞きづらくお思いになって、

 

 

「かくこれかれあまたものし給ふめれど、

 

「このように(光源氏には)だれかれと大勢いらっしゃるようですが、

 

 

御心にかなひて、今めかしくすぐれたる際にもあらずと、

 

(光源氏の)お心にかなって、現代風で優れた身分でもないと、

 

 

目馴れてさうざうしく思したりつるに、この宮のかく渡り給へるこそめやすけれ。

 

見慣れて物足りなくお思いになっていたところに、この宮がこのようにお越しになったのは良いことです。

 

 

なほ童心の失せぬにやあらむ、我もむつび聞こえてあらまほしきを、

 

やはり子供心が抜けないのでしょうか、私も親しくさせていただきたいのですが、

 

 

あいなく隔てあるさまに人びとやとりなさむとすらむ。

 

困ったことに(女三の宮と私との間に)隔てがあるように人々が取り沙汰しようとしているのでしょうか。

 

 

等しきほど、劣りざまなど思ふ人にこそ、ただならず耳立つことも、おのづから出で来るわざなれ。

 

(自分と身分が)同等だったり、劣っているなどと思う人に対しては、平気でいられず聞き捨てならないことも、自然と出て来るものです、

 

 

かたじけなく心苦しき御ことなめれば、

 

(女三の宮が光源氏のもとに嫁ぐことになったのには、)恐れ多く気の毒な御事情がおありのようなので、

 

 

いかで心置かれ奉らじとなむ思ふ。」

 

どうにかして気兼ねされ申し上げないようにしようと思うのです。」

 

 

などのたまへば、(なか)(つかさ)中将の君などやうの人々、目をくはせつつ

 

などとおっしゃるので、中務・中将の君などといった女房たちは、目くばせしながら、

 

 

「あまりなる御思ひやりかな。」など言ふべし。

「あんまりな(お優しい)お心づかいですよ。」などと言うだろう。

 

 

昔は、ただならぬさまに、使ひならし給ひし人どもなれど、

 

昔は、普通とは違った様子で、(光源氏が)親しく使っていらっしゃった女房たちであるけれど、

 

 

年ごろはこの御方に候ひて、皆心寄せ聞こえたるなめり。

 

ここ何年かはこの御方(=紫の上)にお仕えして、皆お味方申し上げているようである。

 

 

異御方々よりも、「いかに思すらむ。もとより思ひ離れたる人びとは、なかなか心安きを。」など、

 

他の御方々からも、「(紫の上は)どのように思っていらっしゃるのでしょうか。初めから(光源氏のご寵愛を)あきらめている私たちは、かえって気楽ではありますが。」などと、

 

 

おもむけつつ、(とぶら)ひ聞こえ給ふもあるを、

 

(紫の上に)いたわる心を示しつつ、お見舞い申し上げなさる方もいるが、

 

 

「かく()(はか)る人こそ、なかなか苦しけれ。

(紫の上は、)「このように推測する人こそ、かえって苦しいのです。

 

 

世の中もいと常なきものを、などてかさのみは思ひ悩まむ。」など思す。

 

世の中もたいそう無常なものであるのに、どうしてそんなにばかり思い悩んでいられようか。(いや、いられない。)」などとお思いになる。

(7)

 

あまり久しき(よい)()も、なら咎めと、

 

あまり長く夜更かしするのも、いつにないことで、女房たちが変に思うだろうと

 

 

心の鬼に思して入り給ひぬれば、御(ふすま)参りぬれど、

 

気が咎めなさって寝所にお入りになったので、(侍女が)夜具をおかけしたけれど、

 

 

げに、傍ら寂しき夜な夜な経にけるも、

 

本当に、独り寝の寂しい幾夜を過ごしてきたのも、

 

 

なほただならぬ心地すれど、かの須磨の御別れの折などを思し出づれば、

 

やはり穏やかでない気持ちがするが、あの須磨の(光源氏との)お別れの時などを思い出しなさると、

 

 

今はと、かけ離れ給ひても、ただ同じ世のうちに聞き奉らましかばと、

 

今となっては、遠く離れなさっても、ただ同じこの世に(無事でいらっしゃる)とお聞き申し上げるのであったら(安心であろうに)と、

 

 

わが身までのことはうち置き、あたらしく悲しかりしありさまぞかし。

 

自分自身のことまではさておいて、惜しく悲しく思った様子であったよ。

 

 

さて、その紛れに、我も人も命耐へずなりなましかば、

 

そのまま、あの騷ぎ(=光源氏が須磨に行く原因となった騒動)にまぎれて、自分もあの人(=光源氏)も死んでしまったならば、

 

 

言ふ効あらまし世かはと思し直す。

 

言うかいのない二人の仲であったろうにとお考え直しになる。

※「かは」により反語となっている。また、「まし」により反実仮想。『言うかいのある二人の仲であっただろうか。いや、言うかいのない二人の仲であったろうに。』

 

 

風うち吹きたる夜のけはひ冷やかにて、ふとも寝入られ給はぬを、

 

風が吹いている夜の様子が冷やかに感じられて、すぐには寝つくことができずにいらっしゃるのを、

 

 

近く候ふ人びと、あやしとや聞かむと、うちも身じろき給はぬも、

 

近くにお仕えしている女房たちが、変だと思いはしないだろうかと、少しも身動きなさらないのも、

 

 

なほいと苦しげなり。夜深き鶏の声の聞こえたるも、ものあはれなり。

 

やはりとてもつらそうである。深夜の鶏の声が聞こえるのも、なんとなく悲しく感じられる。

 

 

源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(5)

 

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