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源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(5)

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原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(5)(6)(7)

 

年ごろ   あら と思ひことどもも、

 

年ごろ=名詞、長年、数年間、長い間

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

も=係助詞

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

長い間、そのようなこと(=光源氏が起こす女関係のいざこざ)もあるだろうと思っていた事なども、

 

 

今はとのみもて離れ給ひつつ、さらば かくこそはと、うちとけゆく末に、

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

さらば=接続語、それならば、それでは

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

(光源氏は)今はもうとばかり遠ざかりなさって、それならばこのように(問題ないだろう)と、安心するようになった結果、

 

 

ありありて、かく世の聞き耳もなのめなら ことの出で来 ぬる 

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

なのめなら=ナリ活用の形容動詞「なのめなり」の未然形、並々だ、並ひととおりだ、普通だ。いいかげんだ、おろそかだ。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

出で来=カ変動詞「出で来(いでく)」の連用形

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

よ=間投助詞

 

あげくの果てに、このように世間の外聞も悪い事が出て来たのだよ。

 

 

思ひ定むべき のありさまもあらざり けれ 

 

べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

世=名詞、夫婦の関係、男女の仲。世間、世の中

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

安心できる夫婦仲の様子ではなかったので、

 

 

より後もうしろめたく  思しなり ぬる

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

うしろめたく=ク活用の形容詞「うしろめたし」の連用形、心配だ、気がかりだ、不安だ

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

思しなり=サ行四段動詞「思し成る(おぼしなる)」の連用形、「思ひ成る」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

(紫の上は)これから先も不安にお思いになるのだった。



 こそ つれなく紛らはし給へ 候ふ人々も、

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

つれなく=ク活用の形容詞「つれなし」の連用形、平然としている、素知らぬ顔だ。冷ややかだ、薄情だ、関心を示さない。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕えする、(貴人の)お側にお仕えする。動作の対象である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

そのように平静に気持ちを紛らわしていらっしゃるけれど、お仕えしている女房たちも、

 

 

思はずなるなり 

 

思はずなる=ナリ活用の形容動詞「思はずなり」の連体形、意外だ、思いがけない。心外だ、気に入らない。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

や=間投助詞

 

「思いがけない世の中であるよ。

 

 

あまた ものし 給ふ やうなれ 

 

あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢

 

ものし=サ変動詞「物す(ものす)」の連用形、代動詞、「~する」、ある、いる、行く、来る、生まれる、などいろいろな動詞の代わりに使う。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。候ふ人々からの敬意。

 

やうなれ=比況の助動詞「やうなり」の已然形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

(光源氏には夫人が)大勢いらっしゃるようだけど、

 

 

いづ方も、皆こなた御気配には方避り憚るさまにて過ぐし 給へ  こそ、事なくなだらかにもあれ

 

此方(こなた)=名詞、こちら。以後。以前。

 

気配(けはひ)=名詞、風情、雰囲気。物腰、態度。

 

憚る=ラ行四段動詞「憚る(はばかる)」の連体形、障害があっていき悩む、進めないでいる

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

過ぐし=サ行四段動詞「過ぐす」の連用形

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。候ふ人々(=お仕えしている女房たち)からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び

 

あれ=ラ変動詞「あり」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び

 

どの方も、皆こちら(=紫の上)の物腰には一目置いて遠慮する様子で過ごしていらっしゃるからこそ、何事もなく平穏でありましたのに。

 

 

押し立ちてかばかり なるありさまに、消た ても 過ぐし 給は 

 

かばかり=副詞、これだけ、これほど、このくらい

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

消た=タ行四段動詞「消つ(けつ)」の未然形、消す。けなす、そしる。圧倒する。

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

過ぐし=サ行四段動詞「過ぐす」の連用形

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。候ふ人々からの敬意。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

(女三の宮の)我を張ってこれほどの様子に、(紫の上も)圧倒されてお過ごしにもなれないでしょう。



また、さりとてはかなきことにつけても、安からことのあら 折々

 

さりとて=接続詞、そうかといって、それにしても

 

はかなき=ク活用の形容詞「はかなし」の連体形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現のこと。

訳:「ある(ような)時」

 

折々(おりおり)=名詞、その時々、機会がある時ごと

 

また、そうかといって、ちょっとした事につけても、心穏やかでないことがあるような時には、

 

 

かならずわづらはしきことども出で来  かし。」

 

わづらはしき=シク活用の形容詞「わづらはし」の連体形、面倒なさま、うるさい、やっかいだ。

 

出で来=カ変動詞「出で来(いでく)」の連用形

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

きっと面倒な事などが起きるでしょうよ。」

 

 

などおのがじしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知ら やうに

 

など=副詞、どうして、なぜ。

 

おのがじし=副詞、おのおのに、それぞれに

 

つゆ=「つゆ」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる。ここでは「ぬ」が打消語

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

などと、(女房たちが)おのおの話して嘆かわしげな様子であるのを、(紫の上は)少しも気づかないように(ふるまって)、

 

 

いと気配 をかしく 物語など 給ひ つつ、夜更くるまでおはす

 

気配(けはひ)=名詞、風情、雰囲気。物腰、態度。

 

をかしく=シク活用の形容詞「をかし」の連用形、趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

物語=名詞、雑談、世間話、話、相談

 

し=サ変動詞「す」の連用形

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

つつ=接続助詞、①反復「~ては~」②継続「~し続けて」③並行「~ながら」④(和歌で)詠嘆「~なことだ」。ここでは③並行の意味。

 

おはす=サ変動詞「おはす」の終止形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

たいそう機嫌よくお話などをなさりながら、夜が更けるまで起きていらっしゃる。

 

 

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  源氏物語『女三の宮の降嫁』まとめ

 

 

 

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