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源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(7)

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あまり久しき(よい)()も、 なら 、人咎めと、

 

久しき=シク活用の形容詞「久し(ひさし)」の連体形。

 

例=名詞、通例。いつもの事、普段。当たり前の事、普通。

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

あまり長く夜更かしするのも、いつにないことで、女房たちが変に思うだろうと

 

 

心の鬼に思して入り給ひ ぬれ 御衾 参り ぬれ 

 

思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

衾(ふすま)=名詞、夜具、夜のふとん

 

参り=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の連用形、謙譲語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

気が咎めなさって寝所にお入りになったので、(侍女が)夜具をおかけしたけれど、

 

 

げに、傍ら寂しき夜な夜な  けるも、

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

経(へ)=ハ行下二段動詞「経(ふ)」の連用形、時間がたつ

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

本当に、独り寝の寂しい幾夜を過ごしてきたのも、

 

 

なほ ただなら 心地すれ かの須磨の御別れのなどを思し出づれ 

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

ただなら=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の未然形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

すれ=サ変動詞「す」の已然形、する。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節。

 

思し出づれ=ダ行下二段動詞「思し出づ(おぼしいづ)」の已然形。「思ひ出づ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

やはり穏やかでない気持ちがするが、あの須磨の(光源氏との)お別れの時などを思い出しなさると、

 

 

今はと、かけ離れ給ひても、ただ同じ世のうちに聞き奉ら ましか と、

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。紫の上からの敬意。

 

同じ=シク活用の形容詞「同じ」の連体形。活用表から判断すると「同じ」は終止形のはずだが、例外として連体形として扱う。もう一つの例外として「多かり。」を終止形として扱うことになっている。

 

奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。紫の上からの敬意。

 

ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。「ましかば~まし。」あるいは「せば~まし。(「せ」は過去の助動詞「き」の未然形)」という形で反実仮想として使われる。ここでは「ましかば」の後に「うれしからまし(=安心であろうに)」などが省略されている。

 

ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

 

今となっては、遠く離れなさっても、ただ同じこの世に(無事でいらっしゃる)とお聞き申し上げるのであったら(安心であろうに)と、

 

 

わが身までのことはうち置き、あたらしく 悲しかり ありさま かし

 

あたらしく=シク活用の形容詞「惜し(あたらし)」の連用形、惜しい、もったいない

 

悲しかり=シク活用の形容詞「悲し」の連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

ぞ=強調の係助詞

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

自分自身のことまではさておいて、惜しく悲しく思った様子であったよ。

 

 

さて、その紛れに、我も人も命耐へ なり  ましか 

 

さて=副詞、そのままで、そういう状態で。接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、そして、ところで、それで、そこで。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。基本的に助動詞「つ・ぬ」は完了の意味だが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などがくると「強意」の意味となる。

 

ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。「ましかば~まし。」あるいは「せば~まし。(「せ」は過去の助動詞「き」の未然形)」という形で反実仮想として使われる。

 

ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

 

そのまま、あの騷ぎ(=光源氏が須磨に行く原因となった騒動)にまぎれて、自分もあの人(=光源氏)も死んでしまったならば、

 

 

言ふあらまし   思し直す

 

かひ(甲斐・効)=名詞、効果、効き目。

 

まし=反実仮想の助動詞「まし」の連体形、接続は未然形。

 

世=名詞、夫婦仲、男女の仲。世の中、世間。一生、生涯。時代。

 

か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。

 

思し直す=サ行四段動詞「思し直す(おぼしなおす)」の終止形。「思ひ直す」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

言うかいのない二人の仲であったろうにとお考え直しになる。

※「かは」により反語となっている。また、「まし」により反実仮想。『言うかいのある二人の仲であっただろうか。いや、言うかいのない二人の仲であったろうに。』

 

風うち吹きたる夜のけはひ冷やかにて、ふとも寝入ら 給は を、

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

気配(けはひ)=名詞、風情、雰囲気。様子。

 

ふと=副詞、さっと。不意に、急に。すぐに、たやすく

 

れ=可能の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられることが多い。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

風が吹いている夜の様子が冷やかに感じられて、すぐには寝つくことができずにいらっしゃるのを、

 

 

近く候ふ人びと、あやし聞かと、うちも身じろき給は も、

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕えする、(貴人の)お側にお仕えする。動作の対象である朱雀院の姫宮(=女三の宮)を敬っている。作者からの敬意。

 

あやし=シク活用形容詞「怪し(あやし)」の終止形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

近くにお仕えしている女房たちが、変だと思いはしないだろうかと、少しも身動きなさらないのも、

 

 

なほいと苦しげなり。夜深き鶏の声の聞こえたるも、ものあはれなり

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ものあはれなり=ナリ活用の形容動詞「ものあはれなり」の終止形。「もの」は接頭語で「なんとなく」といった意味があるが、訳には反映させないこともしばしば。

あはれなり=ナリ活用の形容動詞。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じられる、しみじみと思う、しみじみとした情趣がある。

 

やはりとてもつらそうである。深夜の鶏の声が聞こえるのも、なんとなく悲しく感じられる。

 

 

源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(5)(6)(7)

 

 

 源氏物語『女三の宮の降嫁』まとめ

 

 

 

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