「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら大鏡『宣耀殿の女御』現代語訳(1)(2)
古今浮かべ給へ りと聞かせ 給ひて、
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である宣耀殿の女御を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変あら未然形・四段なら已然形
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
(この女御が)古今和歌集を暗記していらっしゃるとお聞きになって、
帝、試みに本を隠して、女御には見せ させ 給は で、
見せ=サ行下二段動詞「見す」の未然形
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
天皇は、試しに(古今和歌集の)本を隠して、女御にはお見せにならないで、
「やまと歌は」とあるを初めにて、まづの句の言葉を仰せ られ つつ、問はせ 給ひ けるに、
仰せ=サ行下二段動詞「仰す(おほす)」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」の意味。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
(「仮名序」の)「やまと歌は」とあるのをはじめとして、和歌の初句の言葉をおっしゃっては、(以下の句の言葉を)お尋ねになったところ、
言ひ違へ給ふこと、詞にても歌にてもなかりけり。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である宣耀殿の女御を敬っている。作者からの敬意。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
(女御が)言い間違えなさることは、詞書でも歌でもなかった。(=完璧に覚えていた。)
かかることなむと、父大臣は聞き給ひて、御装束して、
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう。
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となるが、直後に「ある(ラ変動詞・連体形)」などが省略されている。係り結びの省略。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である父大臣(=藤原師尹)を敬っている。作者からの敬意。
装束し=サ変動詞「装束す(しょうぞくす)」の連用形、正装する、着飾る。支度をする。飾る。
装束(しょうぞく)=名詞、衣服、服装、恰好。支度、用意。飾り。
このようなことが(宮中で行われている)と、父の大臣(=藤原師尹)はお聞きになって、正装して、
手洗ひなどして、所々に誦経などし、念じ入りてぞ おはし ける。
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である父大臣(=藤原師尹)を敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
手を洗い清めなどして、あちらこちらの寺々に読経などをしてもらい、(ご自身も娘のことを)心から祈っていらっしゃった。
帝筝の琴をめでたく あそばし けるも、
めでたく=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。
あそばし=サ行四段動詞「遊ばす」の連用形、サ変動詞「す」の尊敬語、なさる、なさいます。(詩歌や管弦などを)なさる。動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
天皇は十三弦の琴をみごとに演奏なさったが、
御心に入れて教へなど、限りなく時めき 給ふに、
時めき=カ行四段動詞「時めく」の連用形、(天皇の)寵愛を受ける。時流に乗って栄える、もてはやされる。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である宣耀殿の女御を敬っている。作者からの敬意。
(この女御にも琴を)ご熱心に教えるなど、(女御は)この上なくご寵愛をお受けになるが、
冷泉院の御母后失せ給ひてこそ、なかなか こよなく おぼえ劣り給へ りとは聞こえ 給ひ しか。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である中宮安子を敬っている。作者からの敬意。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ。
こよなく=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形、(優劣にかかわらず)違いがはなはだしいこと、この上なく。
おぼえ=名詞、寵愛。評判、信望、世間の評判。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である宣耀殿の女御を敬っている。作者からの敬意。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
聞こえ=ヤ行下二動詞「聞こゆ」の連用形、うわさされる、世に知られる、有名である。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体を敬っている。作者からの敬意。
しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。
冷泉院の御母后(=中宮安子)がお亡くなりになって(からは)、かえってひどく寵愛が衰えなさったとおうわさになりました。
「故宮のいみじう めざましく安からぬものに思し たり しか ば、
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
めざましく=シク活用の形容詞「めざまし」の連用形。心外で気にくわない、あきれたものだ。すばらしい、立派だ。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である中宮安子を敬っている。作者からの敬意。
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
(天皇は、)「亡き宮(=中宮安子)が、(この女御のことを)ひどく気にくわず心穏やかでない者とお思いになっていたので、
思ひ出づるに、いとほしく、悔しきなり。」とぞ 仰せ られ ける。
いとほしく=シク活用の形容詞「いとほし」の連用形、かわいそうだ、気の毒だ。困る、いやだ。かわいい、いとしい。
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
仰せ=サ行下二段動詞「仰す(おほす)」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体である村上天皇を敬っている。作者からの敬意。
られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
(そのことを)思い出すと、(中宮安子のことが)気の毒で、(この女御を寵愛したことが)悔やまれるのだ。」とおっしゃった。