「黒＝原文」・「赤＝解説」・「青＝現代語訳」
なほ＝副詞、やはり。さらに。それでもやはり。
行き＝カ行四段動詞「行く」の連用形
行き＝カ行四段動詞「行く」の連用形
て＝接続助詞
武蔵（むさし）の国＝名詞
と＝格助詞
下つ総（しもつふさ）の国＝名詞
と＝格助詞
の＝格助詞
中＝名詞
に＝格助詞
いと＝副助詞
大きなる＝ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連体形
河＝名詞
あり＝ラ変動詞「あり」の終止形
それ＝代名詞
を＝格助詞
すみだ河＝名詞
と＝格助詞
いふ＝ハ行四段動詞「言ふ」の終止形
なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中にいと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。
さらに旅を続けて行くと、武蔵の国と下総の国との間にたいそう大きな川がある。それをすみだ川と言う。
そ＝代名詞
の＝格助詞
河＝名詞
の＝格助詞
ほとり＝名詞
に＝格助詞
群れゐ＝ワ行上一段動詞「群れ居る（むれゐる）」の連用形、群がって座る、集まって座る。
て＝接続助詞
思ひやれ＝ラ行四段動詞「思ひ遣る」の已然形。思いをはせる、はるかに思う、いろいろと考える。気を晴らす、心を慰める。推察する。
ば＝接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「～なので、～から」②偶然条件「～ところ・～と」③恒常条件「（～する）といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし～ならば」である。
その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、
その川のほとりに集まり座って、（はるか遠くの都に）思いをはせると、
かぎりなく＝ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
遠く＝ク活用の形容詞「遠し」の連用形
も＝係助詞
来＝カ変動詞「来（く）」の連用形。直後に接続が連用形である完了の助動詞「に」があることから連用形だと判断して「来（き）」と読む。
に＝完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
ける＝過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
かな＝詠嘆の終助詞、～だなあ、～であることよ。
と＝格助詞
わび合へ＝ハ行四段動詞「侘び合ふ」の已然形、嘆き合う、互いに心細く思う。「侘ぶ（わぶ）」＝つらく思う、困る
る＝存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
に＝接続助詞
かぎりなく遠くも来にけるかな、とわび合へるに、
（都の京から）ずいぶん遠くまで来てしまったなあ、と（一行が）嘆き合っていると、
渡守＝名詞
はや＝副詞
船＝名詞
に＝格助詞
乗れ＝ラ行四段動詞「乗る」の命令形
日＝名詞
も＝係助詞
暮れ＝ラ行下二段動詞「暮る」の連用形
ぬ＝強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
と＝格助詞
いふ＝ハ行四段動詞「言ふ」の連体形
に＝接続助詞
乗り＝ラ行四段動詞「乗る」の連用形
て＝接続助詞
渡ら＝ラ行四段動詞「渡る」の未然形
む＝意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と＝格助詞
する＝サ変動詞「す」の連体形
に＝接続助詞
渡守、「はや船に乗れ、日も暮れぬ。」といふに、乗りて渡らむとするに、
渡し守が、「早く船に乗れ。日が暮れてしまう。」と言うので、乗って渡ろうとするが、
みな人＝名詞
ものわびしく＝シク活用の形容詞「もの侘びし（わびし）」の連用形
侘びし（わびし）＝シク活用の形容詞、つらい、苦しい、悲しい。情けない、困ったことだ。「もの」は接頭語であり、「なんとなく」と言った意味が加わる。
て＝接続助詞
京＝名詞
に＝格助詞
思ふ＝ハ行四段動詞「思ふ」の連体形
人＝名詞
なき＝ク活用の形容詞「無し」の連体形
に＝断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
しも＝副助詞。強調。
あら＝ラ変動詞「あり」の未然形
ず＝打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
皆、なんとなく悲しい気持ちになって、京に恋しく思う人がいないわけではない。
さる＝連体詞あるいはラ変動詞「然り（さり）」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
折＝名詞
しも＝副助詞。強調。ここでは「折」を強調して、「ちょうどそんな時」と訳すと良い。あるいは、「そんな時」だけで良い。
白き＝ク活用の形容詞「白し」の連体形
鳥＝名詞
の＝格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、」→「白い鳥で、くちばしと脚とが赤く、鴫ぐらいの大きさの鳥が、」
嘴（はし）＝名詞
と＝格助詞
脚＝名詞
と＝格助詞
赤き＝ク活用の形容詞「赤し」の連体形
鴫（しぎ）＝名詞
の＝格助詞
大きさ＝名詞
なる＝断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
水＝名詞
の＝格助詞
上＝名詞
に＝格助詞
遊び＝バ行四段動詞「遊ぶ」の連用形
つつ＝接続助詞、①反復「～しては～」②継続「～し続けて」③並行「～しながら」④（和歌で）詠嘆、ここでは③並行「～しながら」の意味。
魚（いを）＝名詞
を＝格助詞
食ふ＝ハ行四段動詞「食ふ」の終止形
さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。
ちょうどそんな時、白い鳥で、くちばしと脚とが赤く、鴫ぐらいの大きさの鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。
京＝名詞
に＝格助詞
は＝係助詞
見え＝ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
ぬ＝打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
鳥＝名詞
なれ＝断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
みな人＝名詞
見知ら＝ラ行四段動詞「見知る」の未然形
ず＝打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
京では見かけない鳥なので、だれも知らない。
渡守＝名詞
に＝格助詞
問ひ＝ハ行四段動詞「問ふ」の連用形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「～ところ・～と」の意味で使われている。
これ＝代名詞
なむ＝強調の係助詞、結びは連体形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「なる（断定の助動詞「なり」の連体形）」などが省略されていると考えられる。
都鳥＝名詞
と＝格助詞
いふ＝ハ行四段動詞「言ふ」の連体形
を＝格助詞
聞き＝カ行四段動詞「聞く」の連用形
て＝接続助詞
渡守に問ひければ、「これなむ都鳥。」といふを聞きて、
渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥だ。」と言うのを聞いて、
※渡し守は、「こいつら京（都）から来たのに都鳥も知らないのか。」と内心で思っている。
名＝名詞
に＝格助詞
し＝副助詞。強調。
負は＝ハ行四段動詞「負ふ」の未然形
ば＝接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし～ならば」の意味で使われている。
いざ＝感動詞
言問は＝ハ行四段動詞「言問ふ」の未然形
む＝意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
都鳥＝名詞
わ＝代名詞
が＝格助詞
思ふ＝ハ行四段動詞「思ふ」の連体形
人＝名詞
は＝係助詞
あり＝ラ変動詞「あり」の終止形
や＝疑問の係助詞
なし＝ク活用の形容詞「無し」の終止形
や＝疑問の係助詞
と＝格助詞
名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
都という言葉を名に持っているならば、さあ尋ねよう、都鳥よ。私が恋しく思っている人は都で無事でいるかどうかと。
と＝格助詞
詠め＝マ行四段動詞「詠む」の已然形
り＝完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
けれ＝過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば＝接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「～なので、～から」の意味で使われている。
船＝名詞
こぞり＝ラ行四段動詞「こぞる」の連用形
て＝接続助詞
泣き＝カ行四段動詞「泣く」の連用形
に＝完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり＝過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
と詠めりければ、船こぞりて泣きにけり。
と詠んだので、船の中の人は皆泣いてしまった。