「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
ゆき=カ行四段動詞「行く」の連用形
ゆき=カ行四段動詞「行く」の連用形
て=接続助詞
駿河の国=名詞
に=格助詞
いたり=ラ行四段動詞「至る」の連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
ゆきゆきて駿河の国にいたりぬ。
(それから東へと旅を)さらに進めて行って駿河の国に到着した。
宇津の山=名詞
に=格助詞
いたり=ラ行四段動詞「至る」の連用形
て=接続助詞
わ=代名詞
が=格助詞
入ら=ラ行四段動詞「入る(いる)」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
する=サ変動詞「す」の連体形
道=名詞
は=係助詞
いと=副詞
暗う=ク活用の形容詞「暗し」の連用形が音便化したもの
細き=ク活用の形容詞「細し」の連体形
に=格助詞
宇津の山にいたりて、わが入らむとする道は、いと暗う細きに、
宇津野山に着いて、自分が踏み入ろうとする道は、たいそう暗く細い上に、
蔦(つた)=名詞
かへで=名詞
は=係助詞
茂り=ラ行四段動詞「茂る(しげる)」の連用形
もの心細く=ク活用の形容詞「もの心細し」の連用形、なんとなく心細い、頼りなく不安である。「もの」は接頭語であり、「なんとなく」と言った意味が加わる。
すずろなる=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま
目=名詞
を=格助詞
見る=マ行上一段動詞「見る」の連体形
こと=名詞
と=格助詞
思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形
に=接続助詞
修行者=名詞
会ひ=ハ行四段動詞「会ふ」の連用形。主語は修行者であり、「修行者が(やって来て、男に)出会った。」という訳になる。
たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
蔦、かへでは茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。
つたやかえでが茂り、なんとなく心細く、思いがけない(つらい)目に合うことだと思っていると、修行者が(やって来て、男に)出会った。
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
道=名詞
は=係助詞
いかで=副詞、(反語で)どうして
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
いまする=サ変動詞「います」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。いらっしゃる、おいでになる。「あり・居り・来・行く」の尊敬語である。動作の主体である男を敬っている。修行者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
「かかる道は、いかでかいまする。」
「このような道に、どうしていらっしゃるのですか。」
と=格助詞
言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形
を=格助詞
見れ=マ行上一段動詞「見る」の已然形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
見=マ行上一段動詞「見る」の連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
人=名詞
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
と言ふを見れば、見し人なりけり。
と言うのを見ると、(なんとその修行者は、以前都で)会ったことのある人であった。
京=名詞
に=格助詞
そ=代名詞
の=格助詞
人=名詞
の=格助詞
御もと=名詞
に=格助詞
とて=格助詞
文=名詞
書き=カ行四段動詞「書く」の連用形
て=接続助詞
つく=カ行下二段動詞「付く」の終止形
京に、その人の御もとにとて、文かきてつく。
都にいる、あの恋しい方のもとにと思って、手紙を書いてことづける。
※都にいる恋しく思っている人への手紙を男が書いて、知り合いだった修行者にその手紙を届けるよう頼んだということ。
駿河=名詞
なる=存在の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形。「なり」は直前が名詞である時、断定の意味になることが多いが、その名詞が場所を表すものであれば今回のように「存在」の意味となる。
うつ=名詞
の=格助詞
山辺=名詞
の=格助詞
うつつ=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。地名の「宇津」と「現」を掛けている。一つの語に二つ以上の意味が込められているわけではないので、掛詞ではない。
に=格助詞
も=係助詞
夢=名詞
に=格助詞
も=係助詞
人=名詞
に=格助詞
あは=ハ行四段動詞「会ふ」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば
駿河なるうつの山辺の(一句・二句)=「うつつ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは三句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。
序詞を探すときのポイント(あくまで参考)。
①掛詞の直前
例:春日野の/若紫の/すりごろも(ここまでが序詞)/しのぶの乱れ/かぎりしられず(しのぶ=掛詞、しのぶずりの「しのぶ」と恋い偲ぶ「偲ぶ」が掛けられている。)
②句の末尾が「の」
例:あしびきの/山鳥の尾の/しだり尾の(ここまでが序詞)/ながながし夜を/ひとりかも寝む
③同じ言葉が繰り返して使われている部分
例:多摩川に/さらす手作り(ここまでが序詞)/さらさらに/なにぞこの児(こ)の/ここだかなしき
駿河なる うつの山辺の うつつにも 夢にも人に あはぬなりけり
駿河の国にある宇津の山辺に来ましたが、「うつ」と言うと、現(=現実)にも夢にも恋しいあなたに会わないことだよ。
※当時の平安時代では、自分のことを強く思う人がいれば、自分の夢の中にその人が現れるということが信じられていた。つまりこの和歌では、女が自分の夢に現れないのは、その女が自分の事を忘れてしまったのだろうと勝手に考えて恨めしく思う男の気持ちが込められている。
富士の山=名詞
を=格助詞
見れ=マ行上一段動詞「見る」の已然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
五月(さつき)=名詞
の=格助詞
つごもり=名詞、末ごろ、月の下旬・最終日。晦日(つごもり)。対義語は「朔日(ついたち)」
ついたち=名詞、月の初め、上旬。月の一日目。朔日(ついたち)
に=格助詞
雪=名詞
いと=副詞
白う=ク活用の形容詞「白し」の連用形が音便化したもの
降れ=ハ行四段動詞「降る」の已然形
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
富士の山を見ると、五月の末なのに、雪がたいそう白く降り積もっている。
時=名詞
知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
山=名詞
は=係助詞
富士=名詞
の=格助詞
嶺(ね)=名詞
いつ=代名詞
とて=格助詞
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
鹿の子まだら=名詞
に=格助詞
雪=名詞
の=格助詞
降る=ラ行四段動詞「降る」の終止形
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
時知らぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪のふるらむ
時節をわきまえない山は、富士の嶺だ。今をいつと思って、鹿の子模様のまだらのように雪が降っているのだろうか。
そ=代名詞
の=格助詞
山=名詞
は=係助詞
ここ=代名詞
に=格助詞
たとへ=ハ行下二段動詞「たとふ」の未然形
ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。
比叡(ひえ)の山=名詞
を=格助詞
二十(はたち)=名詞
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
重ね上げ=ガ行下二段動詞「重ね上ぐ」の連用形
たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
訳:「積み重ねた(ような)ほどの高さで」
ほど=名詞
して=格助詞、①共同「~とともに」、②手段・方法「~で」、③使役の対象「~に命じて」の三つの意味があるが、ここでは②手段・方法「~で」の意味。
その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ねあげたらむほどして、
その山は、ここ都に例えて見ると、比叡山を二十ほども積み重ねたほどの高さで、
なり=名詞、形、姿
は=係助詞
塩尻=名詞
の=格助詞
やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。
なりは塩尻のやうになむありける。
形は塩尻のようであった。
続きはこちら伊勢物語『東下り』品詞分解のみ(3)