「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら源氏物語『明石の姫君の入内』解説・品詞分解(1)
御参りは 北の方添ひ給ふべきを、「常に長々しう、え添ひ候ひ給はじ。
(明石の姫君の)御入内には北の方(=紫の上)がお付き添いになるはずなのだが、(光源氏は、)「いつまでも長々と、お付き添い申しなさることはできますまい。
かかるついでに、かの御後見をや添へまし。」と思す。
このような機会に、あの後見役(=明石の君)を付き添わせようかかしら。」とお考えになる。
上も、「つひにあるべきことの、かく隔たりて過ぐし給ふを、かの人も、ものしと思ひ嘆かるらむ。
紫の上も、「最後には(実の親子として一緒に)あるべきことなのに、このように離れ離れになって過ごしていらっしゃったのを、あの方(=明石の君)も、嫌だと思い嘆きなさっているだろう。
※明石の君と明石の姫君は実の親子。明石の姫君は、明石にいる明石の君に代わって、都で紫の上の養女として育てられてきた。ここは、入内の際には実の親である明石の君を明石の姫君に付き添わせようという話をしている場面。
この御心にも、今はやうやうおぼつかなく、あはれに思し知るらむ。
明石の姫君のお心の中でも、今ではだんだん(明石の君のことが)気にかかって、恋しいとお思いになってるだろう。
方々心おかれ奉らむもあいなし。」と思ひなり給ひて、
お二方から気兼ねされ申すとしたらそれもつまらないことだ。」と思うようになりなさって、
「この折に添へ奉り給へ。
(紫の上は、)「この機会に(明石の君を姫君に)お付き添わせ申し上げなさってください。
まだいとあえかなるほどもうしろめたきに、候ふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。
(姫君が)まだとてもか弱い様子であることなども心配な上に、(その姫君に)お仕えする人といっても、若々しい人ばかり多い。
御乳母たちなども、見及ぶことの心いたる限りあるを、
御乳母たちなども、目が届き心が及ぶ範囲にも限界がありますが、
みづからは、えつとしも候はざらむほど、うしろやすかるべく。」と聞こえ給へば、
私自身も、ずっとおそばにいることはできないような時、安心でしょう。」と申し上げなさると、
「いとよく思し寄るかな。」と思して、
(光源氏は、)「とてもよくお気付きになるなあ。」とお思いになって、
「さなむ。」と、あなたにも語らひのたまひければ、いみじくうれしく、思ふことかなひはつる心地して、
「そのようなわけで。」と、あちら(=明石の君)にもご相談しておっしゃったので、(明石の君は)たいそう嬉しくて、望みもすっかり叶った心地がして、
人の装束、何かのことも、やむごとなき御ありさまに劣るまじくいそぎ立つ。
女房の服装や、あれやこれやといろいろなことも、(紫の上の)高貴なご様子に劣るまいと準備を始める。
尼君なむ、なほこの御生ひ先見奉らむの心深かりける。
尼君(=明石の君)は、やはりこの(姫君の)ご将来を見申し上げたいという思いが深かったのだった。
「今一度見奉る世もや。」と、命をさへ執念くなして念じけるを、「 いかにしてかは。」と、思ふも悲し。
「もう一度(姫君を)見申し上げることもあるだろうか。」と、自分の命までも執念深くして(もう一度姫君の姿を見るために長生きするようにと)こらえていたが、「どのようにして(姫君に)お目にかかれるだろうか。(いや、もうお目にかかれまい。)」と、思うのも悲しい。
その夜は、上、添ひて参り給ふに、御輦車にも立ちくだりうち歩みなど、人わるかるべきを、
その夜(=姫君が入内する日の夜)は、紫の上が(姫君に)付き添って参内なさるが、(明石の君が)輦車にも(同乗できず)少し遅れて歩いて行くなど、体裁の悪いはずだが、
わがためは思ひ憚らず、ただ、かく磨き奉り給ふ玉の瑕にて、わがかくながらふるを、かつはいみじう心苦しう思ふ。
自分のためにはためらうことはないが、ただ、このように(大切に)磨きたて申し上げなさる(姫君の)玉の欠点になって、自分がこのように生きながらえているのを、一方ではひどく心苦しく思う。
続きはこちら源氏物語『明石の姫君の入内』現代語訳(2)(3)(4)