フロンティア古典教室

源氏物語『明石の姫君の入内』現代語訳(2)(3)(4)

   

「黒=原文」・「青=現代語訳

 解説・品詞分解はこちら源氏物語『明石の姫君の入内』解説・品詞分解(2) 

 

「御参りの儀式、人の目おどろくばかりのことはせじ。」と思しつつめど、

 

「(明石の姫君の)御入内の儀式には、人目を驚かすようなことはするまい。」と(光源氏は)ご遠慮なさるが、

 

 

おのづから世の常のさまにぞあらぬや。

 

自然と世間一般のものではなかったことだよ。

 

 

限りもなくかしづき据ゑ奉り給ひて、

 

(紫の上は明石の姫君を)この上もなく大切にお世話申し上げなさって、

 

 

上は、「まことにあはれにうつくし。」と思ひ聞こえ給ふにつけても、

 

紫の上は、「(明石の姫君のことを)本当にしみじみとかわいい。」と思い申し上げなさるにつけても、

 

 

「人に譲るまじう、まことにかかることもあらましかば。」と思す。

 

「他人に渡したくなく、本当にこのようなこと(=実の子が入内する)があったとしたら(どんなに良いだろうか)。」と思いなさる。

※紫の上と光源氏との間に子供をできておらず、明石の君と光源氏との間にできた女の子(=明石の姫君)を紫の上が代わりに育てている。

 

 

大臣(おとど)(さい)(しょう)の君も、ただこのこと一つをなむ、「飽かぬことかな。」と、思しける。

 

太政大臣(=光源氏)も宰相の君(=夕霧)も、ただこのこと一つだけを、「不満なことだなあ。」と、思いなさった。

※夕霧(ゆうぎり)=光源氏と葵上との間にできた子供。葵上は夕霧を生んでまもなく亡くなっている。

 

 

三日過ごしてぞ、上はまかでさせ給ふ。

 

(結婚の儀を)三日間過ごして、紫の上はご退出なさる。

 

 

たちかはりて参り給ふ夜、御対面あり。

 

(紫の上と)入れ替わって(明石の君が)参内なさる夜、(紫の上と明石の君との)ご対面がある。

 

 

「かくおとなび給ふけぢめになむ、年月のほども知られ侍れば、

 

(紫の上は、)「このように(明石の姫君が)大人らしく成長なさった節目に、(姫君を預かった長い)年月のほども知られますので、

 

 

うとうとしき隔ては、残るまじくや。」と、

 

よそよそしい隔たりは、残らないでしょうね。」と、

 

 

なつかしうのたまひて、物語などし給ふ。

 

親しみやすくおっしゃって、お話などをなさる。

 

 

これもうちとけぬる初めなめり。

 

これも仲よくなった始めのようである。

 

 

ものなどうち言ひたるけはひなど、「むべこそは」と、めざましう見給ふ。

 

(明石の君が)何かちょっとしゃべっている様子など、「なるほど(明石の君が光源氏の寵愛を受けるはずだ)。」と、すばらしいと(紫の上は)御覧になる。

 

 

また、いと気高う盛りなる御けしきを、かたみにめでたしと見て、

 

また、(明石の君の方でも紫の上の)たいそう気品高く女盛りであるご様子を、お互いに素晴らしいと見て、

 

 

「そこらの御中にもすぐれたる御心ざしにて、並びなきさまに定まり給ひけるも、いとことわり。」と思ひ知らるるに、

 

「大勢の御方々の中でも誰よりも勝っているご寵愛を(光源氏から紫の上は)受けて、並ぶ者がいない地位に(紫の上が)おさまりになったのも、まことにもっともなことだ。」と納得せずにはいられないが、

 

 

「かうまで立ち並び聞こゆる契り、おろかなりやは。」と思ふものから、

 

(明石の君は、)「(自分も)これ(=紫の上の地位)ほどまで立ち並び申し上げる宿縁も、いいかげんなものであろうか。(いや、いいかげんなものではない。)」と思うものの、

 

 

出で給ふ儀式のいとことによそほしく、御()(ぐるま)など許され給ひて、

 

(紫の上が宮中から)ご退出になる儀式がたいそう格別に厳めしく美しく、御輦車などを許されなさって、

 

 

女御の御ありさまにことならぬを、思ひ比ぶるに、さすがなる身のほどなり。

 

女御のご様子と異ならないのを、(明石の君自身と)思い比べると、やはり異なる身のほどである。



(3)

 

いとうつくしげに、(ひひな)のやうなる御ありさまを、夢の心地して見奉るにも、

 

たいそうかわいらしい様子で、ひな人形のような(明石の姫君の)ご様子を、夢のような心地で見申し上げるにつけても、

 

 

涙のみとどまらぬは、一つものとぞ見えざりける。

 

ただただ涙が止まらないのは、(悲しい時の涙と)同じ涙とは思われないのであった。

 

 

年ごろよろづに嘆き沈み、さまざま憂き身と思ひ屈しつる命も延べまほしう、

 

長年何かにつけて悲しみに沈んで、あれこれとつらい我が身なのだとふさぎこんでいた命も(今では)延びてほしく、

 

 

はればれしきにつけて、まことに住吉の神もおろかならず思ひ知らる。

 

晴れ晴れしく思うのにつけても、本当に住吉の神(の霊験)も並々でないと思わずにいられない。

 

 

思ふさまにかしづき聞こえて、心およばぬこと、はた、

 

思うようにお世話申し上げて、行き届かないことは、また、

 

 

をさをさなき人のらうらうじさなれば、

 

少しもないお方(=明石の君)の利発さなので、

 

 

おほかたの寄せ、おぼえ よりはじめ、なべてならぬ御ありさまかたちなるに、

 

世間の人々の(明石の姫君に対する)評判をはじめとして、並ひととおりでないご容姿・お顔立ちであるので、

 

 

宮も、若き御心地に、いと心ことに思ひ聞こえ給へり。

 

東宮も、お若い心で、(明石の姫君のことを)たいそう格別にお思い申し上げていらっしゃる。

 

 

いどみ給へる御方々の人などは、この母君のかくて候ひ給ふを、

 

競っていらっしゃる方々の女房などは、この母君(明石の君)がこうして(明石の姫君に)お仕えしていらっしゃるのを、

 

 

(きず)に言ひなしなどすれど、それに消たるべくもあらず。

 

(姫君の)欠点として言ったりなどするけれども、それに(姫君の評判が)消されるはずもない。

 

 

いまめかしう、並びなきことをば、さらにも言はず、心にくくよしある御けはひを、

 

現代風で、並ぶ者がいないことは、まったく言うまでもなく、奥ゆかしく優雅さのある(明石の姫君の)ご様子を、

 

 

はかなきことにつけても、あらまほしうもてなし聞こえ給へれば、

 

ちょっとしたことにつけても、(明石の君は姫君を)理想的にお世話申し上げなさるので、

 

 

殿上人なども、めづらしきいどみ所にて、とりどりに候ふ人びとも、

 

殿上人なども、めったにない風流の才を競う場所として考えているので、それぞれにお仕えしてる女房たちも、

 

 

心をかけたる女房の用意ありさまさへ、いみじくととのへなし給へり。

 

関心を持っている女房の心構えや態度までも、たいそうよく仕込んでいらっしゃる。

 

 

上も、さるべき折ふりには参り給ふ。

 

紫の上も、しかるべき時には参内なさる。

 

 

御仲らひあらまほしううちとけゆくに、さりとてさし過ぎもの馴れず、

 

(紫の上と明石の姫君との)お間柄は理想的にうちとけてゆくが、そうかといって出過ぎたり馴れ馴れしくはせず、

 

 

あなづらはしかるべきもてなし、はた、つゆなく、

 

軽く見られるはずのふるまいも、また、まったくなく、

 

 

あやしくあらまほしき人のありさま、心ばへなり。

 

不思議なほど理想的な人の態度、心構えである。



(4)

 

大臣(おとど)も、長からずのみ思さるる御世のこなたにと、思しつる御参り

 

太政大臣(=光源氏)も、長くは生きていられないとお思いにならずにはいられないこの世にいる間にと、お思いであった(明石の姫君の)ご入内を、

 

 

かひあるさまに見奉りなし給ひて、心からなれど、

 

申し分ない様に見届け申し上げなさって、自ら求めたことであるけれども、

 

 

世に浮きたるやうにて、見苦しかりつる(さい)(しょう)の君も、

 

身を固めないでいて、世間体の悪かった宰相の君(=夕霧)も、

※夕霧(ゆうぎり)=光源氏と葵上との間にできた子供。葵上は夕霧を生んでまもなく亡くなっている。

 

 

思ひなくめやすきさまに静まり給ひぬれば、

 

(くも)()(かり)と結婚したことで)心配なく世間体の悪くない様子に落ち着きなさったので、

 

 

御心落ちゐ果て給ひて、「今は本意(ほい)も遂げなむ。」と、思しなる。

 

(光源氏は)すっかりご安心なさって、「今こそかねてからの願い(であった出家)を遂げよう」と、お思いになる。

 

 

対の上の御ありさまの見捨てがたきにも、中宮おはしませば、おろかならぬ御心寄せなり。

 

紫の上のご様子が見捨て難いのにつけても、中宮(=秋好中宮)がいらっしゃるので、並々ならぬお味方である。

(あき)(このむ)(ちゅう)(ぐう)六畳の御息所の娘。六畳の御息所の死後、光源氏の養子となる。その後、冷泉帝のもとに嫁いだ(入内した)。

冷泉(れいぜい)(てい)=光源氏と藤壺との間にできた子。表向きは光源氏の父親である桐壺帝と藤壺との間にできた子ということになっている。

 

 

この御方にも、世に知られたる親ざまには、まづ思ひ聞こえ給ふべければ、さりともと、思し譲りけり。

 

このお方(=明石の姫君)におかれても、世に知られている(表向きの)親としては、まず第一にお考え申し上げなさるであろうから、自分が出家したとしても(心配ないだろうと)、お任せになった。

 

 

夏の御方の、時にはなやぎ給ふまじきも、宰相のものし給へばと、

 

夏の御方(=(はな)(ちる)(さと))は、何かにつけて華やかになられまいけれども、宰相(=夕霧)がいらっしゃるので(安心だ)と、

 

 

皆とりどりにうしろめたからず思しなりゆく。

 

皆(=光源氏とゆかりのある女性達)それぞれに心配はないとお考えになっていく。

 

 

明けむ年、四十になり給ふ。

 

翌年、四十歳におなりになる。

 

 

 

御賀のことを、おほやけよりはじめ奉りて、大きなる世のいそぎなり。

 

(その)祝賀のことは、朝廷をはじめとして申し上げて、盛大な世をあげての準備である。

 

 

源氏物語『明石の姫君の入内』解説・品詞分解(2)

 

源氏物語『明石の姫君の入内』解説・品詞分解(3)

 

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