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源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(6)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(5)(6)(7)

 

かう人のただなら 言ひ思ひたるも、聞きにくしと思して、

 

斯う(かう)=副詞、こう、このように。  「斯く(かく)」が音便化したもの。

 

ただなら=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の未然形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

このように女房たちが(女三の宮と紫の上の関係について)穏やかでないことを言ったり思ったりするのも、(紫の上は)聞きづらくお思いになって、

 

 

かくこれかれあまた ものし 給ふ めれ 

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢

 

ものし=サ変動詞「物す(ものす)」の連用形、代動詞、「~する」、ある、いる、行く、来る、生まれる、などいろいろな動詞の代わりに使う。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。紫の上からの敬意。

 

めれ=推定の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

「このように(光源氏には)だれかれと大勢いらっしゃるようですが、

 

 

御心にかなひて、今めかしく すぐれ たる  もあらと、

 

かなひ=ハ行四段動詞「叶ふ・適ふ(かなふ)」の連用形。思い通りになる。

 

今めかしく=シク活用の形容詞「今めかし」の連用形、現代風である

 

すぐれ=ラ行下二段動詞「優る/勝る(すぐる)」の連用形、すぐれる、他よりまさる。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

際(きわ)=名詞、家柄・身分。端。時・場合。境目。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

(光源氏の)お心にかなって、現代風で優れた身分でもないと、

 

 

目馴れてさうざうしく 思し たり つるに、この宮のかく渡り給へ  こそ めやすけれ

 

さうざうしく=シク活用の形容詞「さうざうし」の連用形、なんとなく物足りない、心寂しい。

 

思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。紫の上からの敬意。

 

たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である女三の宮を敬っている。紫の上からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

めやすけれ=ク活用の形容詞「目安し(めやすし)」の已然形、見苦しくない、無難だ、感じがよい。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

見慣れて物足りなくお思いになっていたところに、この宮がこのようにお越しになったのは良いことです。

 

 

なほ童心の失せ  あら、我もむつび 聞こえあらまほしきを、

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

むつび=バ行上二段動詞「睦ぶ(むつぶ)」の連用形、むつまじくする、親しくする、仲良くする。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である女三の宮を敬っている。紫の上からの敬意。

 

あらまほしき=シク活用の形容詞「あらまほし」の連体形、そうありたい、望ましい。理想的である、申し分ない。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

まほしき=希望・願望の助動詞「まほし」の連体形、接続は未然形

 

やはり子供心が抜けないのでしょうか、私も親しくさせていただきたいのですが、

 

 

あいなく隔てあるさまに人びと とりなさ  らむ

 

あいなく=ク活用の形容詞「あいなし」の連用形、わけもなく。つまらない。気に食わない。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

とりなさ=サ行四段動詞「取り成す(とりなす)」の未然形、うまく取り繕う、調子を合わせる。手に取って変化させる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

す=サ変動詞「す」の終止形、する。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」

 

困ったことに(女三の宮と私との間に)隔てがあるように人々が取り沙汰しようとしているのでしょうか。

 

等しきほど、劣りざまなど思ふ人にこそただなら  耳立つことも、おのづから 出で来る わざ なれ

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

ただなら=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の未然形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。

 

耳立つ=タ行四段動詞「耳立つ」の連体形、聞いて心にとめる、聞いて注意が向く。

 

おのづから=副詞、自然に、ひとりでに。まれに、たまたま。もしかして。

 

出で来る=カ変動詞「出で来(いでく)」の連体形

 

わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

(自分と身分が)同等だったり、劣っているなどと思う人に対しては、平気でいられず聞き捨てならないことも、自然と出て来るものです、

 

 

かたじけなく 心苦しき御こと めれ 

 

かたじけなく=ク活用の形容詞「かたじけなし」の連用形、恐れ多い、もったいない。恥ずかしい、面目ない

 

心苦しき=シク活用の形容詞「心苦し」の連体形、気の毒だ。心配だ。

 

な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形

 

めれ=婉曲の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

(女三の宮が光源氏のもとに嫁ぐことになったのには、)恐れ多く気の毒な御事情がおありのようなので、

 

 

いかで心置か 奉ら なむ 思ふ。」

 

いかで=副詞、どうして、どのようにして、どういうわけで。どうであろうとも、なんとかして。どうにかして。

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象である女三の宮を敬っている。紫の上からの敬意。

 

じ=打消意志の助動詞「じ」の連体形、接続は未然形。「いかで」の「か(疑問の係助詞)」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

どうにかして気兼ねされ申し上げないようにしようと思うのです。」

 

 

などのたまへ (なか)(つかさ)・中将の君などやうの人々、目をくはせつつ

 

のたまへ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の已然形。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

つつ=接続助詞、①反復「~ては~」②継続「~し続けて」③並行「~ながら」④(和歌で)詠嘆「~なことだ」。ここでは③並行の意味。

 

などとおっしゃるので、中務・中将の君などといった女房たちは、目くばせしながら、

 

 

あまりなる御思ひやりかな。」など言ふべし

 

あまりなる=ナリ活用の形容動詞「あまりなり」の連体形、あんまりだ、ひどい

 

かな=詠嘆の終助詞

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

「あんまりな(お優しい)お心づかいですよ。」などと言うだろう。

 

 

昔は、ただなら さま、使ひならし給ひ 人どもなれ 

 

ただなら=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の未然形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

昔は、普通とは違った様子で、(光源氏が)親しく使っていらっしゃった女房たちであるけれど、

 

 

年ごろはこの御方に候ひて、皆心寄せ聞こえ たる  めり

 

年ごろ=名詞、長年、数年間、長い間

 

候ひ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連用形、謙譲語。お仕えする、(貴人の)お側にお仕えする。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形

 

めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

ここ何年かはこの御方(=紫の上)にお仕えして、皆お味方申し上げているようである。

 

異御方々よりも、「いかに 思す らむ。もとより思ひ離れたる人びとは、なかなか心安きを。」など、

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。

 

思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の終止形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。異御方々からの敬意。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ。

 

他の御方々からも、「(紫の上は)どのように思っていらっしゃるのでしょうか。初めから(光源氏のご寵愛を)あきらめている私たちは、かえって気楽ではありますが。」などと、

 

 

おもむけつつ訪ひ 聞こえ 給ふもあるを、

 

つつ=接続助詞、①反復「~ては~」②継続「~し続けて」③並行「~ながら」④(和歌で)詠嘆「~なことだ」。ここでは③並行の意味。

 

とぶらひ=ラ行四段動詞「訪ふ(とぶらふ)」の連用形、見舞う、訪れる。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体であるお見舞いに来た人を敬っている。作者からの敬意。

 

(紫の上に)いたわる心を示しつつ、お見舞い申し上げなさる方もいるが、

 

 

かく推し量る人こそなかなか 苦しけれ

 

斯く(かく)=副詞、こう、このように。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ。

 

苦しけれ=シク活用の形容詞「苦し」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

(紫の上は、)「このように推測する人こそ、かえって苦しいのです。

 

 

世の中もいと常なきものを、などて   のみは思ひ悩まむ。」など思す

 

などて=副詞、どうして、なぜ

 

か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

のみ=限定・強意の副助詞。ここでは強意の意味。

 

む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の終止形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

世の中もたいそう無常なものであるのに、どうしてそんなにばかり思い悩んでいられようか。(いや、いられない。)」などとお思いになる。

 

 

続きはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(7)

 

 源氏物語『女三の宮の降嫁』まとめ

 

 

 

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