青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
於レイテ是ニ、項王乃チ上レリテ馬ニ騎ス。
是に於いて、項王乃ち馬に上りて騎す。
※「於レイテ是ニ」=そこで。こうして。
そこで、項王は馬にまたがった。
麾下ノ壮士、騎シテ従フ者百余人ナリ。
麾下の壮士、騎して従ふ者八百余人なり。
直属の部下の兵士で、馬に乗って(項王に)従う者は八百人余りであった。
直チニ夜潰レヤシ囲ミヲ、南ニ出デテ馳走ス。
直ちに夜囲みを潰やし、南に出でて馳走す。
(項王は)すぐにその夜、敵の囲みを破り、南に出て馬を走らせた。
平明、漢軍乃チ覚レリ之ヲ、令下ム騎将灌嬰ヲシテ以二ヰテ五千騎一ヲ追上レハ之ヲ。
平明、漢軍乃ち之を覚り、騎将灌嬰をして五千騎を以ゐて之を追はしむ。
※令=使役「令二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
夜明けに、漢軍はやっとこれに気づき、騎将灌嬰に命じて五千騎を率いて項王を追わせた。
項王渡レル淮ヲ。騎ノ能ク属スル者、百余人耳。
項王淮を渡る。騎の能く属する者、百余人のみ。
※能ク= ~できる
※「~ 耳」=限定「~ のみ」「~ だけだ」
項王は淮水を渡った。騎兵の中でついて来ることができた者は、百人余りだけであった。
項王至二リ陰陵一ニ、迷ヒテ失レフ道ヲ。問二フ一田父一ニ。
項王陰陵に至り、迷ひて道を失ふ。一田父に問ふ。
項王は陰陵にまでやって来たところで、迷って道がわからなくなった。(そこで、)一人の農夫に道を尋ねた。
田父紿キテ曰ハク、「左セヨト。」
田父紿きて曰はく、「左せよ。」と。
農夫は嘘をついて、「左に行きなさい。」と言った。
左ス。乃チ陥二ル大沢中一ニ。
左す。乃ち大沢中に陥る。
(項王は)左へ進んだ。そこでなんと広い湿地帯の中に入り込んでしまった。
以レテ故ヲ漢追ヒテ及レブ之ニ。
故を以て漢追ひて之に及ぶ。
そういう理由で漢軍は項王の軍に追いついた。
項王乃チ復タ引レキテ兵ヲ而東シ、至二ル東城一ニ。
項王乃ち復た兵を引きて東し、東城に至る。
※而=置き字(順接・逆接)
項王はそこで再び兵を率いて東に進み、東城に到着した。
乃チ有二リ二十八騎一。漢騎ノ追フ者数千人ナリ。
乃ち二十八騎有り。漢騎の追ふ者数千人なり。
そこで(残った項王の軍)は二十八騎だった。漢軍の騎兵で追ってくる者は数千人であった。
続きはこちら項王の最期(3)原文・書き下し文・現代語訳「項王自ら脱することを得ざるを度り、其の騎に謂ひて曰はく、~」