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源氏物語『桐壺(藤壺の入内)』(2)解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『桐壺(藤壺の入内)』(1)(2)現代語訳

 

 

(はは)(きさき)あな恐ろし春宮(とうぐう)(にょう)()のいとさがなくて、

 

あな=感動詞、ああ、あら、まあ

 

や=間投助詞

 

さがなく=ク活用の形容詞「さがなし」の連用形、性質がよくない、意地が悪い、たちが悪い

 

母后は、ああ恐ろしいことよ。春宮の母女御(=弘徽殿の女御)がひどく意地悪で、

※春宮(とうぐう)=名詞、東宮、皇太子

 

 

桐壺の更衣のあらはに はかなく もてなさ    ためしゆゆしうと、思し慎みて、

 

あらはに=ナリ活用の形容動詞「露なり・顕なり(あらはなり)」の連用形、まる見えだ、露骨だ。明らかだ、はっきりしている。

 

はかなく=ク活用の形容詞「はかなし」の連用形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。

 

もてなさ=サ行四段動詞「もてなす」の未然形、取り扱う、処置する、ふるまう

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

例(ためし)=名詞、例、先例。試み。

 

ゆゆしう=シク活用の形容詞「忌々し(ゆゆし)」の連用形が音便化したもの、触れてはならない神聖なことが原義。おそれ多い。不吉だ、忌まわしい。(良くも悪くも)程度がはなはだしい。

 

思し慎み=マ行四段動詞「思し慎む(おぼしつつむ)」の連用形。「思ひ慎む(おもひつつむ)」の尊敬語。動作の主体である母后を敬っている。作者からの敬意。

つつむ=マ行四段動詞「慎む・包む(つつむ)」、気兼ねする、遠慮する、つつしむ。隠す。包む。

 

桐壺の更衣が露骨に粗末に扱われた例も忌まわしいとご用心なさって、

 

 

すがすがしうも思し立たざり けるほどに、后も失せ 給ひ 

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

失せ=サ行下二段動詞「失す(うす)」の連用形。ここでは「死ぬ」と言う意味で使われている。現代語でもそうだが、古典において「死ぬ」という言葉を直接使うことは避けるべきこととされており、「亡くなる・消ゆ・隠る・徒(いたずら)になる」などと言ってにごす。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である母后を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

きっぱりと(入内させる)ご決心もつかなかったうちに、母后もお亡くなりになった。

 

 

心細きさまおはしますに、「ただ、わが女御子(みこ)たちの同じに思ひ聞こえ 。」と、

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

おはします=サ行四段動詞「おはします」の連体形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

つら(列・連)=名詞、列、行列。仲間、同類。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の未然形、謙譲語。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。桐壺帝からの敬意。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

(四の宮が)心細い様子でいらっしゃるところに、「ただ、私の皇女たちと同列に思い申し上げよう。」と、

 

 

いとねむごろに 聞こえ させ 給ふ

 

ねむごろに=ナリ活用の形容動詞「懇ろなり(ねむごろなり)」の連用形、手厚い、親切だ、丁寧だ。親密だ。熱心だ、一途だ。

 

聞こえ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である桐壺帝を敬っている。作者からの敬意。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語

 

(桐壺帝が)たいそう心をこめて申し上げなさる。

 

 

候ふ人々、御(うしろ)()たち、御(しょうと)(ひょう)()(きょう)()()など、かく心細くておはしまさ  よりは、内裏住みせ させ 給ひて、御心も慰むべくなど思しなりて、

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の連体形、謙譲語。お仕えする、(貴人の)お側にお仕えする。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

おはしまさ=サ行四段動詞「おはします」の未然形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。ここでは直後に体言が来ていないが文脈判断で婉曲である。

 

より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。

 

内裏住みせ=サ変動詞「内裏住みす(うちずみす)」の未然形。内裏に住む

内裏(うち・だいり)=名詞、天皇。宮中、内裏(だいり)。  宮中の主要な場所としては紫宸殿(ししんでん:重要な儀式を行う場所)や清涼殿(せいりょうでん:天皇が普段の生活を行う場所)などがある。

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語

 

べく=推量、もしくは適当の助動詞「べし」の連用形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

思しなり=サ行四段動詞「思し成る(おぼしなる)」の連用形、「思ひ成る」の尊敬語。動作の主体である候ふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王などを敬っている。作者からの敬意。

 

(四の宮に)お仕えしている女房、ご後見の方々、御兄上の兵部卿の親王などは、こうして心細そうにしていらっしゃるよりは、宮中にお住みになって、お心も慰められるなどとお考えになって、

 

 

参ら  奉り 給へ 

 

参ら=ラ行四段動詞「参る」の未然形、「行く」の謙譲語。動作の対象である桐壺帝を敬っている。作者からの敬意。

 

せ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である候ふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王などを敬っている。作者からの敬意。

 

り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

(四の宮を)入内させ申し上げなさった。

 

 

藤壺と聞こゆげに御容貌・ありさま、あやしきまで おぼえ 給へ 

 

聞こゆ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

御容貌(かたち)=名詞、姿、容貌、外形、顔つき

 

あやしき=シク活用の形容詞「怪し・奇し/賤し(あやし)」の連体形、不思議だ、変だ。/身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。似る、おもかげがある。感じる、思われる。思い出される。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

(この四の宮のお名前は)藤壺と申し上げる。実に、お顔立ち・お姿が、不思議なまでに(桐壺の更衣に)似ていらっしゃる。

 

 

これは、人の御際 まさりて、思ひなし めでたく、人も貶め聞こえ 給は  

 

際(きわ)=名詞、家柄・身分。端。時・場合。境目。

 

まさり=ラ行四段動詞「まさる(勝る/優る)」の連用形、まさる、すぐれる

 

思ひ為し(おもひなし)=名詞、心構え、気のせい。思い込み、評判。

 

めでたく=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である四の宮(=藤壺)を敬っている。作者からの敬意。

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。おそらく動作の主体である桐壺帝の周りにいる女御・更衣の女性たちを敬っている。作者からの敬意。

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

この方は、ご身分が高くて、そう思うせいか魅力もあり、誰も見下し申し上げることがおできにならないので、

 

 

受けばり飽か ことなし。

 

受けばり=ラ行四段動詞「受け張る(うけばる)」の連用形、人に遠慮することなくふるまう、我が物顔にふるまう。

 

飽か=カ行四段動詞「飽く(あく)」の未然形、満足する、飽き飽きする

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

誰かに遠慮することもなく振る舞って何も不足はない。

 

 

かれは、人の許し聞こえ ざり に、御心ざし あやにくなり   かし

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の未然形、謙譲語。動作の対象であるかれ(=桐壺の更衣)を敬っている。作者からの敬意。

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。もう一つの「し」も同じ。

 

心ざし=名詞、心を向けるところ、心の指すところ。愛情、誠意。

 

あやにくなり=ナリ活用の形容動詞「生憎なり(あやにくなり)」の連用形、厳しい、意地が悪い、憎らしいほどひどい。都合が悪い、あいにくだ。はなはだしい。

 

ぞ=強調の係助詞

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

桐壺の更衣は、誰もお認め申し上げなかったのに、帝の桐壺の更衣への愛情があいにくにも深かったのであるよ。

 

 

思し紛るとはなけれおのづから御心移ろひて、こよなう思し慰むやうなるも、あはれなる わざ なり けり

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

おのづから=副詞、自然に、ひとりでに。まれに、たまたま。もしかして、ひょっとして。

 

こよなう=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形が音便化したもの、(優劣にかかわらず)違いがはなはだしいこと、この上なく

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

あはれなる=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある。

 

わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会。

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

(桐壺の更衣への)お気持ちが紛れることはないけれど、自然と(帝の)お心が(藤壺へと)移って、この上なく慰められるようであるのも、しみじみと思われることであるよ。

 

 

続きはこちら源氏物語『藤壺の入内』解説・品詞分解(1)「源氏の君は、御あたり去り給はぬを、~」

 

源氏物語『桐壺(藤壺の入内)』(1)(2)現代語訳

 

源氏物語『桐壺(藤壺の入内)』(1)解説・品詞分解

 

源氏物語『桐壺』まとめ

 

 

 

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