フロンティア古典教室

鴻門之会(史記)(4)原文・書き下し文・現代語訳

      2018/07/31

【樊噲目を瞋らして項王を視る。】

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

  史記『鴻門之会』まとめ

 

イテ張良至軍門、見樊噲

(ここ)()いて(ちょう)(りょう)(ぐん)(もん)(いた)り、(はん)(かい)()る。

※「於イテ」=そこで・こうして

そこで張良(=沛公の参謀)は軍門に行き、樊噲(=沛公の家来)と会った。

 

 

樊噲曰ハク、「今日之事何。」

(はん)(かい)()はく、「(こん)(にち)(こと)何如(いかん)」と。

※何如=疑問・反語、「何如(いかん)」、「~はどうであるか。

樊噲が言うことには、「今日の様子はどうであるか。」と。

 

 

良曰ハク、「甚ナリ()()項荘抜キテ。其意常沛公(なり)。」

(りょう)()はく、「(はなは)(きゅう)なり。()()(こう)(そう)(けん)()きて()ふ。()()(つね)(はい)(こう)()るなり。」と。

 

張良言うことには、「大変に(事態が)切迫している。今、項荘が剣を抜いて舞っている。その狙いは沛公(を殺すこと)にある。」と。

 

 

噲曰ハク、「此レリ矣。臣請、入リテ()之同ジクセント。」

(かい)()はく、「()(せま)れり。(しん)()ふ、()りて(これ)(めい)(おな)じくせん」と。

※「請 ~」=願望、「どうか ~ させてください、どうか ~ してください」

樊噲が言うことには、「それは(事態が)切迫している。どうか宴席に入って沛公と命をともにさせていただきたい。」と。

 

 

噲即シテ軍門

(かい)(すなわ)(けん)()(たて)(よう)して(ぐん)(もん)()る。

 

樊噲はすぐに剣を携え盾を抱えて軍門に入った。

 

 

交戟()衛士、欲メテ()一レラント

(こう)(げき)(えい)()(とど)めて()れざらんと(ほっ)す。

 

戟を十字に交えて立っていた門番の兵士は、止めて中に入らせまいとした。

 

 

樊噲側テテ、以。衛士仆

(はん)(かい)()(たて)(そばだ)てて、(もっ)(えい)()()く。()(たお)る。

 

(しかし、)樊噲は持っていた盾を傾けて、門番の兵士を突いた。すると兵士は地面に倒れた。

 

 

噲遂、披キテ西嚮シテ、瞋ラシテ項王

(かい)(つい)()り、()(ひら)きて西(せい)(きょう)して()ち、()(いか)らして(こう)(おう)()る。

 

樊噲はそのまま中に入り、幕を押し開き西を向いて立ち、目を大きく開いて項王を見た。

 

 

頭髪上指、目眦尽

(とう)(はつ)(じょう)()し、(もく)()(ことごと)()く。

 

髪の毛は逆立ち、まなじりは完全に裂けている。

 

 

項王按ジテ而跽キテハク、「客何為。」

(こう)(おう)(けん)(あん)じて(ひざまず)きて()はく、「(かく)(なん)()(もの)ぞ。」と。

※而=置き字(順接・逆接)

項王は剣に手をかけて、片膝を立てて身構えて、「おまえは何者だ。」と言った



張良曰ハク、「沛公()参乗樊噲トイフ(なり)。」

(ちょう)(りょう)()はく、「(はい)(こう)(さん)(じょう)(はん)(かい)といふ(もの)なり。」と。

 

張良は、「沛公の同乗者、樊噲という者です。」と言った。

 

 

項王曰ハク、「壮士ナリ。賜ヘト卮酒。」

(こう)(おう)()はく、「(そう)()なり。(これ)()(しゅ)(たま)へ。」と。

 

項王は、「壮士である。大杯の酒を与えよ。」と言った。

 

 

斗卮酒。噲拝謝シテ、立チナガラニシテ而飲

(すなわ)()()(しゅ)(あた)ふ。(かい)(はい)(しゃ)して()ち、()ちながらにして(これ)()む。

 

そこで大杯の酒を与えた。樊噲は慎んで礼を言って立ち上がり、立ったままでこれを飲んだ。

 

 

項王曰ハク、「賜ヘト彘肩。」

(こう)(おう)()はく、「(これ)(てい)(けん)(たま)へ。」と。

 

項王は、「この者に豚の肩肉を与えよ。」と言った。

 

 

生彘肩

(すなわ)(いつ)(せい)(てい)(けん)(あた)ふ。

 

そこで一塊の生の豚の肩肉を与えた。

 

 

樊噲覆於地、加彘肩、抜リテ而啗ラフ

(はん)(かい)()(たて)()()せ、(てい)(けん)(うえ)(くわ)へ、(けん)()()りて(これ)(くら)らふ。

 

樊噲は盾を地面にふせ、豚の肩肉をその上にのせ、剣を抜いてそれを切ってむさぼり食った。

 

 

項王曰ハク、「壮士ナリ。能()。」

(こう)(おう)()はく、「(そう)()なり。()()()むか」と。

()=能く~できる

※「 ~ や・か(哉・乎・邪など)」=疑問、「 ~ か。」

項王は、「壮士である。まだ飲めるか。」と言った。

 

 

樊噲曰ハク、「臣死スラ。卮酒安クンゾランスルニ

(はん)(かい)()はく、「(しん)()すら()()けず。()(しゅ)(いず)くんぞ()するに()らん。

※「AスラB。C安クンゾ(セ)ン」=抑揚、「Aすら且(か)つB。C安くんぞD(せ)ん」、「AでさえBだ。ましてCはどうしてDするだろうか。(いや、ない。)」

樊噲が言うことには、「私は死さえ避けようとはしません。まして大杯の酒くらい、どうして断りましょうか。

 

 

秦王有虎狼()

()(しん)(おう)()(ろう)(こころ)()り。

 

そもそも秦王には虎狼の(ように残忍な)心がありました。

 

 

スコト(ごと)()ルガグル、刑スルコトルルガ()ルヲ

(ひと)(ころ)すこと()ぐる(あた)はざるがごとく、(ひと)(けい)すること()へざるを(おそ)るるがごとし。

※「()(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)(あた)はず」(能力がなくて) ~Aできない」

(その秦王は)人を殺すこと、多すぎて数え上げることができないほどであり、人を刑に処すること、あまりに多くて処刑しきれないのを恐れるほどです。



天下皆叛

(てん)()(みな)(これ)(そむ)く。

 

(だから、)天下の人々は皆秦にそむいてしまったのです。

 

 

懐王()諸将シテハク、『先リテ咸陽トセント。』

(かい)(おう)(しょ)(しょう)(やく)して()はく、『()(しん)(やぶ)りて(かん)(よう)()(もの)(これ)(おう)とせん。』と。

 

懐王は諸将と約束して、『先に秦を破って咸陽に入った者を王としよう。』と言いました。

 

 

今沛公先リテ咸陽

(いま)(はい)(こう)()(しん)(やぶ)りて(かん)(よう)()る。

 

今、沛公は先に秦を破って咸陽に入りました。

 

 

毫毛シテヘテ一レヅクル

(ごう)(もう)()へて(ちか)づくる(ところ)()らずして、

※「不ヘテ ~(せ)」=「しいて(無理に) ~しようとはしない。/ ~するようなことはしない」

(それなのに王としてふるまうことなく)ほんの少しも自分から(財産などに)近づこうとはしないで、

 

 

宮室、還リテシテ覇上、以ツテテリ大王タルヲ

(きゅう)(しつ)(ふう)(へい)し、(かえ)りて()(じょう)(ぐん)し、()って(だい)(おう)()たるを()てり。

 

宮室を封鎖し、引き返して覇上に軍を置き、そうして大王(=項王)が来られるを待ったのです。

 

 

ハシラシメシ、備ヘシ他盗出入()非常(なり)

(ことさら)(しょう)(つか)はし(かん)(まも)らしめし(もの)は、()(とう)(しゅつ)(にゅう)()(じょう)とに(そな)へしなり。

 

わざわざ将兵を派遣し函谷関を守らせたのは、他国の盗賊の出入りと非常事態に備えてのことなのです。

 

 

労苦ダシクシテ而功高キコト(ごと)クノ

(ろう)(はなは)だしくして(こう)(たか)きこと()くのごとし。

 

(沛公の)苦労は相当なもので、功績が大きいことはこのようであります。

 

 

(いま/ず)封侯()

(いま)(ほう)(こう)(しょう)()らず。

※「(いま/ざ) ~ (セ)」=再読文字、「未だ ~(せ)ず」、「まだ ~(し)ない」

(それにもかかわらず、)まだ諸侯に封じるとの恩賞がありません。

 

 

ルニキテ細説、欲セント有功()

(しか)るに(さい)(せつ)()きて、(ゆう)(こう)(ひと)(ちゅう)せんと(ほっ)す。

 

しかし、(大王は)つまらない者の言うことを聞いて、功績のある人を罰して殺そうとしています。



亡秦()(のみ)。窃カニ大王()(なり)。」

()(ぼう)(しん)(ぞく)のみ。(ひそ)かに(だい)(おう)(ため)()らざるなり」と。

※「~ 耳」=限定「~ のみ」「~ だけだ」

これは滅びた秦の二の舞としか言えません。恐縮ですが、大王のために賛成しないのであります。」と。

 

 

項王(いま/ず)ツテフルコト

(こう)(おう)(いま)()って(こた)ふること()らず。

※「(いま/ざ) ~ (セ)」=再読文字、「未だ ~(せ)ず」、「まだ ~(し)ない」

項王はまだ返答しない。

 

 

ハク、「坐セヨト。」

()はく、「()せよ」と。

 

(そして項王は、)「座れ。」と言った。

 

 

樊噲従ヒテ

(はん)(かい)(りょう)(したが)ひて()す。

 

樊噲は張良の隣に座った。

 

 

スルコト須臾ニシテ、沛公起チテ、因リテキテ樊噲

()すること(しゅ)()にして、(はい)(こう)()ちて(かわや)()き、()りて(はん)(かい)(まね)きて()ず。

 

座ってしばらくすると、沛公は立ち上がって便所へ行き、そこで樊噲を招いて外に出た。

 

 

続きはこちら鴻門之会(史記)(5)原文・書き下し文・現代語訳 「沛公已に出づ。項王都尉陳平をして沛公を召さしむ。~」

 

  史記『鴻門之会』まとめ

 

 

 

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