「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら枕草子『かたはらいたきもの』現代語訳
かたはらいたきもの、よくも音弾きとどめぬ琴を、よくも調べで、心の限り弾きたてたる。
かたはらいたき=ク活用の形容詞「傍痛し(かたはらいたし)」の連体形、はたで見ていて苦々しい、いたたまれない。恥ずかしい、きまりが悪い。
よく=ク活用の形容詞「良し(よし)」の連用形、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
(そばにいて)いたたまれないもの、うまく弾きこなさない琴を、十分に調律もしないで、自分の思うままに弾いている様子。
客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言など言ふを、え は 制せ で聞く心地。
客人(まろうと)=名詞、客
打ち解け言(うちとけごと)=名詞、遠慮のない話、無遠慮な話、くつろいだ話。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
は=強調の係助詞、訳す際にはあまり気にしなくてもよい。
制せ=サ変動詞「制す(せいす)」の未然形、制止する、おさえとどめる。 「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
お客などと会って話をしている時に、(家族などが家の)奥の方で遠慮のない話などをするのを、制止することができないで聞いている気持ち。
思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。
いたく=ク活用の形容詞「甚し(いたし)」の連用形、(良い意味でも悪い意味でも)程度がひどい。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
愛しいと思う人がひどく酔って、同じことを繰り返ししている様子。
聞きゐたり けるを知らで、人のうへ言ひたる。
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
うへ=名詞、身の上、その人に関すること、噂(うわさ)。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
(噂の張本人が)聞いていたことを知らず、その人の噂をしている様子。
それは、何ばかりの人なら ね ど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ど=接続助詞、活用語の已然形につく。 基本的には「~けれども」などといった逆接で訳すが、「~ても」というふうに訳して、普遍的な心理を表す用法もある。
だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。
かたはらいたし=ク活用の形容詞「傍痛し(かたはらいたし)」の終止形、恥ずかしい、きまりが悪い。はたで見ていて苦々しい、いたたまれない。
それは、(噂される人が)どれほどの(高い)身分の人でなくても、使用人などでさえ、たいそういたたまれない。
旅立ち たる所にて、下衆どものざれゐ たる。
旅立ち=タ行四段動詞「旅立つ」の連用形、外泊する、自分の家を離れて宿泊滞在する。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「たる」も同じ。
下衆=名詞、身分の低い者
ざれゐ=ワ行上一段動詞「戯れ居る(ざれゐる)」の連用形、ふざけている、たわむれている。
戯る(さる)=ラ行下二段活用の動詞、ふざける、たわむれる。
居る(ゐる)=ワ行上一段活用の動詞
自宅から離れて宿泊滞在している場所で、身分の低い者たちががふざけている様子。
にくげなるちごを、おのが心地のかなしき ままに、
かなしき=形容詞「愛し(かなし)」の連体形。かわいい、いとおしい。かわいそうだ、心が痛む
ままに=~にまかせて、思うままに。~するとすぐに。(原因・理由)…なので。「まま(名詞/に(格助詞))
かわいげのない赤ん坊を、自分の気持ちでかわいいと思うのにまかせて、
うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。
うつくしみ=マ行四段動詞「うつくしむ」の連用形、かわいがる、大切にする。
かなしがり=ラ行四段動詞「愛しがる(かなしがる)」の連用形、かわいがる、愛おしく思う、かわいいと思う。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「たる」も同じ。
かわいがり、愛おしく思い、その子の声(=口調、声色など)をまねて、(その子に)言ったことなどを人に話している様子。
才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に、人の名など言ひたる。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
学識ある人の前で、学識のない人が、物知りぶった口調で、(有名な)人の名前などを言っている様子。
ことに よしともおぼえ ぬわが歌を、人に語りて、
殊に(ことに)=副詞、特に、特別に、とりわけ。その上、なお。
よし=ク活用の形容詞「良し(よし)」の終止形、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の未然形、自然に思われる、感じる、思われる。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれている。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
特に優れているとも思われない自分の歌を、人に語って、
人のほめなどし たる よし言ふも、かたはらいたし。
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
由(よし)=名詞、旨、趣旨、事情
かたはらいたし=ク活用の形容詞「傍痛し(かたはらいたし)」の終止形、はたで見ていて苦々しい、いたたまれない。恥ずかしい、きまりが悪い。
(その歌を)人が褒めなどしたということを言うのも、いたたまれない。
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