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『人虎伝』(3)原文・書き下し文・現代語訳

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

まとめはこちら『人虎伝』まとめ

 

虎曰ハク、「我前身客タリ呉楚

(とら)()はく、「()(ぜん)(しん)()()(かく)たり。

 

虎が言うことには、「私は以前呉や楚で旅をしている者であった。

 

 

去歳方ラントシテ、道汝墳、忽リテ発狂

(きょ)(さい)(まさ)(かえ)らんとして、(みち)(じょ)(ふん)(やど)り、(たちま)(やまい)(かか)りて(はっ)(きょう)す。

 

去年家に帰ろうとして、道中で汝墳に宿泊したところ、突然病気になって発狂した。

 

 

夜聞戸外ルヲ、遂ジテ而出、走山谷

(よる)()(がい)()()()(もの)()るを()き、(つい)(こえ)(おう)じて()で、(さん)(こく)(あいだ)(はし)る。

※而=置き字(順接・逆接)

夜に外で私の名前を呼ぶ者があるのを聞いて、そのままその声に応じて外に出て、山や谷の間を走り回った。

 

 

()、以ツテ左右ミテ而歩()心愈狠、力愈倍セルヲ

(おぼ)えず、()(ゆう)()()()(つか)みて(あゆ)む。()れより(こころ)(いよいよ)(こん)(ちから)(いよいよ)(ばい)せるを(おぼ)ゆ。

 

訳も分からず、左右の手で地面をつかんで歩いていた。この時から心はますます残忍になり、力もますます強くなるのを感じた。

 

 

ビテハルニ肱髀、則ゼル焉。心シム

()(こう)()()るに(およ)びては、(すなわ)()(しょう)ぜる()り。(こころ)(はなは)(これ)(あや)しむ。

※焉=置き字(断定・強調)

自分のひじやももを見ると、毛が生えていた。心の中で非常に不思議に思った。

 

 

ニシテ而臨ミテラセバ、已レリ矣。悲慟スルコト良久

(すで)にして(たに)(のぞ)みて(かげ)()らせば、(すで)(とら)()れり。()(どう)すること(やや)(ひさ)し。

※矣=置き字(断定・強調)

谷川に面したところまで来て自分の姿を照らすと、すでに虎となっていた。しばらくの間、悲しんで声をあげて泣いた。



ドモ()ミテ生物ラフニ(なり)

(しか)れども()(せい)(ぶつ)(つか)みて()らふるに(しの)びざるなり。

 

しかし、やはり生き物を捕まえて食べるのは、(まだ人として)耐えられないことだった。

 

 

シクシテヱテ()()カラ、遂リテ山中鹿豕獐兎

(すで)(ひさ)しくして()(しの)ぶべからず、(つい)(さん)(ちゅう)鹿(ろく)()(しょう)()()りて(しょく)()つ。

 

しばらくして腹が減って我慢できなくなり、そのまま山の中にいるシカやイノシシ、ノロジカ、ウサギなどの野獣を捕まえて食べた。

 

 

又久シクシテ諸獣皆遠、無益甚ダシ

(また)(ひさ)しくして(しょ)(じゅう)(みな)(とお)()け、()(ところ)()()(ますます)(はなは)だし。

 

またしばらくすると、獣たちは皆私を遠ざけるようになり、捕まえられる獣がいなくなり、飢えはますますひどくなった。

 

 

一日有婦人、従山下

(いち)(じつ)()(じん)()り、(さん)()より()ぐ。

 

ある日夫人が、山のふもとを通りかかった。

 

 

、徘徊スルコト数四、()ズルコト、遂リテ而食ラフ。殊甘美ナルヲ

(とき)(まさ)()(せま)り、(はい)(かい)すること(すう)()(みずか)(きん)ずること(あた)はず、(つい)()りて()らふ。(こと)(かん)()なるを(おぼ)ゆ。

※「不(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)(あた)はず」(能力がなくて) ~Aできない」

その時ちょうど飢えが限界まで来て、しばしば歩き回って(我慢しようとしたが)、自分を抑えることができず、そのまま捕まえて食べてしまった。特別おいしく感じた。

 

 

今其首飾、猶巖石()(なり)

(いま)()(しゅ)(しょく)()(がん)(せき)(もと)()るなり。

 

今でもその夫人の髪飾りは、岩の下にある。

 

 

()レバシテ而乗者、徒シテ而行者、負ヒテ而趨者、翼アリテ而翔ケル者、毛アリテ而馳スル、力()、悉リテ而阻、立チドコロニクスヲツテ

()より(べん)して()(もの)()して()(もの)()ひて(はし)(もの)(つばさ)ありて()ける(もの)()ありて()する(もの)()れば、(ちから)(およ)(ところ)(ことごと)()りて(これ)(はば)み、()ちどころに()くすを、(おおむ)()つて(つね)()す。

 

これ以来、冠をつけて乗り物で行く者(=貴人)、歩いて行く者(=旅人)、荷物を背負って走って行く者(=行商人)、翼があって空を飛ぶもの、毛があって地面を駆けるもの、力の及ぶ限り、すべて捕まえて動きを封じて、すぐに食べ尽くしてしまうのが、ほぼいつものことになっている。



()ルニ妻孥、思朋友

(さい)()(おも)ひ、(ほう)(ゆう)(おも)はざるに(あら)ず。

 

妻子や友人のことを思わないわけではない。

 

 

ツテケルヲ神祇、一旦化シテ異獣、有ヅル於人

()(おこな)(しん)()(そむ)けるを()て、(いっ)(たん)()して()(じゅう)()り、(ひと)()づる()り。

※於=置き字(対象・目的)

ただ(自分の)行いが天地の神にそむいたことで、一旦異獣となってしまったからには、人に対して恥ずかしいばかりだ。

 

 

トシテ。」因リテ呼吟咨嗟、殆()シテ

(ゆえ)(ぶん)として(まみ)えず。」と。()りて()(きん)()()(ほとん)(みずか)()へずして、(つい)()く。

 

だから獣の分際として会うことはできない。」と。そこで、叫び声をあげ、ため息をついて嘆き、我慢できなくなって、そのまま泣いた。

 

 

続きはこちら『人虎伝』(3.5)原文・書き下し文・現代語訳

 

『人虎伝』まとめ

 

 

 

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