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源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』解説・品詞分解(6)

   

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

かの()(やす)(どころ)は、かかる御ありさまを聞き給ひても、ただなら 

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。

 

かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

ただなら=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の未然形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

あの御息所は、このようなご様子をお聞きになっても、心穏やかでない。

 

 

かねては、いと危ふく聞こえを、たひらかにもはた。」と、うち思し けり

 

かねて=副詞、以前から、前もって。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

はた=副詞、また、それもやはり。あるいは、ひょっとしたら。

 

思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。「うち」は接頭語。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

「以前には、たいそう危ういと聞いていたのに、無事であったとは。」と、お思いになった。

 

 

あやしう、我もあら御心地を思し続くるに、

 

あやしう=シク活用の形容詞「あやし」の連用形が音便化したもの、不思議だ、変だ。身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

思し続くる=カ行下二段動詞「思し続く(おぼしつづく)」の連体形、「思ひ続く」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。「うち」は接頭語。

 

不思議なことに、自分が自分でないようなお気持ちを考え続けなさると、

 

 

(おん)()なども、ただ芥子の香に染み返りたるあやしさに、御ゆする 参り、御衣着替へなど 給ひて、試み給へ 

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

泔(ゆする)=名詞、湯水を用いて洗髪や整髪をすること。洗髪や整髪に使う湯水。

 

参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、尊敬語。なさる、おやりになる。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

お着物なども、ただ芥子の香が染みついている奇妙さに、髪をお洗いになり、お着物を着替えなどしなさって、お試しになるけれど、

※芥子の香=加持祈祷の際にたく香。葵の上のもとでたかれていた香の匂いが、六条の御息所の着物に染みているということであり、御息所の生霊が葵の上の所にいたことを暗示している。

 

 

なほ同じやうにのみあれ 

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

あれ=ラ変動詞「あり」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

それでもやはり同じように(芥子の香のにおいが)あるので、

 

 

わが身ながら だに うとましう 思さ るるに、

 

ながら=接続助詞、次の①、あるいは③の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。

 

うとましう=シク活用の形容詞「疎まし(うとまし)」の連用形が音便化したもの、いやだ。気味が悪い。

 

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

自分自身のことながらでさえ気味悪くお思いにならずにはいられないのに、

 

 

まして、人の言ひ思はことなど、人にのたまふ べきことなら  

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

訳:「考えたりする(ような)こと」

 

のたまふ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の終止形。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

まして、他人が(生霊の事を噂して)言ったり考えたりするようなことなど、人にお話しになれるはずのことではないので、

 

 

心ひとつに思し嘆くに、いとど御心変はりもまさりゆく

 

思し嘆く=カ行四段動詞「思し嘆く(おぼしなげく)」の連体形、「思ひ嘆く」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに

 

増さる・勝る(まさる)=ラ行四段動詞、増える、強まる。すぐれる、勝る。

ゆく=補助動詞カ行四段「行く(ゆく)」の終止形、だんだんと~する、~していく。ずっと~する。

 

自分一人の心の中で思い嘆いていらっしゃると、ますますお心が変になっていく。

 

 

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

 

 

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