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源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』現代語訳(3)(4)

「黒=原文」・「青=現代語訳

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

あまりいたう泣き給へば、

 

(葵の上が)あまりにひどくお泣きになるので、

 

 

「心苦しき親たちの御ことを思し、また、かく見給ふにつけて、

 

「(娘に先立たれる)気の毒な(葵の上の)ご両親のことを(葵の上が)お思いになり、また、このように(光源氏自身を葵の上が)御覧になるにつけても、

 

 

口惜しうおぼえ給ふにや。」と思して、

 

残念にお思いになのであろうか。」と(光源氏は)お考えになって、

 

 

「何ごとも、いとかうな思し入れそ。

 

「何事も、たいそうこのように思い詰めなさるな。

 

 

さりともけしうはおはせじ。

 

いくら何でも大変なことにはならないでしょう。

 

 

いかなりとも、かならず()()あなれば、

 

どのようになっても、必ず死後に逢う機会があるということだから、

 

 

対面はありなむ。

 

きっと対面することがあるでしょう。

 

 

大臣、宮なども、深き契りある仲は、めぐりても絶えざなれば、

 

(父の)大臣、(母の)宮(=皇族)なども、深い縁のある間柄は、生まれ変わっても絶えないということだから、

 

 

あひ見るほどありなむと思せ。」と、慰め給ふに、

 

逢う時がきっとあるだろうとお考えなさい。」と、(光源氏が)慰めなさると、

 

 

「いで、あらずや。

 

(六条の御息所の生霊が乗り移った葵の上が)「いえ、違いますよ。

 

 

身の上のいと苦しきを、しばし休め給へと聞こえむとてなむ。

 

(調伏されて)体がとても苦しいので、しばらく(祈禱を)休ませてくださいと申し上げようと思って(お呼びしました)。

 

 

かく参り来むともさらに思はぬを、

 

このように参上しようとはまったく思わないのに、

 

 

もの思ふ人の魂は、げにあくがるるものになむありける。」と、なつかしげに言ひて、

 

物思いする人の魂は、本当に体から離れ出るものだったのですね。」と、親しげに言って、

 

 

嘆きわび  空に乱るる  わが(たま)を  結びとどめよ  したがひのつま

 

悲しむあまり空にさまよっている私の魂を、下前の褄を結んでつなぎとめてください。

※下交ひのつま=着物の前を合わせえた時の内側になる部分の先端。 この部分を結んでおくと魂が出て行かず、とどめられると言われていた。

 

 

とのたまふ声、けはひ、その人にもあらず、変はり給へり。

 

とおっしゃる声や、雰囲気は、葵の上その人ではなく、お変わりになっている。



(4)

 

いとあやしと思しめぐらすに、ただかの御息所なりけり。

 

たいそう不思議なことだと考えめぐらしなさると、まさにあの御息所なのであった。

 

 

あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることと、

 

驚きあきれて、人があれこれと(噂して)言うのを、ろくでもない者たちが言い出したことと、

 

 

聞きにくく思して、のたまひ消つを、目に見す見す、

 

聞きづらくお思いになって、否定していらっしゃったが、目の前にまざまざと見て、

 

 

「世には、かかることこそはありけれ。」と、うとましうなりぬ。

 

「世の中には、このようなことがあったのだなあ。」と、(光源氏は)いやな気持になった。

 

 

あな、心憂と思されて、

 

ああ、いやなことだとお思いになって、

 

 

「かくのたまへど、誰とこそ知らね。

 

「そのようにおっしゃるけれど、誰だか分からない。

 

 

たしかにのたまへ。」とのたまへば、

 

はっきりと(名前を)おっしゃりなさい。」と(光源氏が)おっしゃると、

 

 

ただそれなる御ありさまに、あさましとは世の常なり。

 

まさに御息所その人のご様子で、驚きあきれると言っては言うのもおろかな普通の表現である。

 

 

人々近う参るも、かたはらいたう思さる。

 

女房たちがおそば近くに参って来るのも、きまりが悪いお気持ちになる。

 

 

続きはこちら源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』現代語訳(5)(6)

 

源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』解説・品詞分解(3)

 

源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』解説・品詞分解(4)

 

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

 

 

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