「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『夢買ふ人』(1)(2)現代語訳
その折、まき人、部屋より出て、女に言ふやう、「夢は取るといふことのあるなり。
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
なり=伝聞の助動詞「なり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。直前に四段活用の終止形or連体形が来たときの「なり」は「断定・存在・伝聞・推定」の四つの可能性があるので注意。残念ながらここは文脈判断するしかない。
その時、まき人は、部屋から出てきて、女に言うことには。「夢は取るということがあるそうだ。
この君の御夢、われらに取らせ 給へ。国守は四年過ぎぬれ ば帰り上りぬ。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給へ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の命令形、尊敬語。動作の主体である夢解きの女を敬っている。まき人からの敬意。
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
この君の御夢を、私に取らせてください。国守は四年過ぎると都に帰ってしまう。
われは国人なれ ば、いつも長らへてあらむずる上に、
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
むずる=推量の助動詞「むず」の連体形、接続は未然形。㋜㋑㋕㋕㋓の五つの意味がある「む」と同じようなものと思ってしまった方が楽。正確に言うと「推量」・「意志」・「適当、当然」の意味である。話し言葉で使われるのが「むず」、書き言葉で使われるのが「む」である。
語 |
未然形 |
連用形 |
終止形 |
連体形 |
已然形 |
命令形 |
むず |
○ |
○ |
むず |
むずる |
むずれ |
○ |
私は(この備中の)国の者なので、いつまでも長く(この国に)いるであろう上に、
郡司の子にてあれば、我をこそ大事に思はめ。」と言へば、
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
め=勧誘の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
郡司の子であるのだから、私をこそ大切に思ってはいかがか。」と言うと、
女、「のたまは む ままに 侍る べし。
のたまは=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の未然形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体であるまき人を敬っている。夢解きの女からの敬意。
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。
ままに=~にまかせて、思うままに。~するとすぐに。(原因・理由)…なので。「まま(名詞/に(格助詞)」
侍る=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連体形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手(聞き手)であるまき人を敬っている。夢解きの女からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
べし=意志の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
女は、「おっしゃるとおりにいたしましょう。
さらば、おはし つる君のごとくにして、入り給ひて、その語られ つる夢を、つゆも違はず語り給へ。」と言へば、
さらば=接続詞、それならば、それでは
おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形。もう一つの「つる」も同じ。
ごとくに=比況の助動詞「ごとくなり」の連用形
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体であるまき人を敬っている。夢解きの女からの敬意。
れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。
つゆ=「つゆ」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる重要語。ここでの否定語は「ず」。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
給へ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の命令形、尊敬語。動作の主体であるまき人を敬っている。夢解きの女からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
それでは、先ほどいらっしゃった君のようにして、お入りになって、その話された夢を、少しも違わずにお話しください。」と言うと、
まき人喜びて、かの君のおはし つる やうに、入り来て、夢語りをしたれ ば、女同じやうに言ふ。
かの(彼の)=あの、例の。「か(代名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。
おはする=サ変動詞「おはす」の連体形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である太郎君を敬っている。作者からの敬意。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形。もう一つの「やうに」も同じ。
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
まき人は喜んで、あの君が先ほどいらっしゃったのと同じように、入ってきて、夢語りをしたところ、女も同じように話す。
まき人、いとうれしく思ひて、衣を脱ぎて取らせて去りぬ。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
まき人は、たいそううれしく思って、着物を脱いで与えて立ち去った。
その後、文を習ひ読みたれ ば、ただ通りに通りて、才ある人になりぬ。
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
その後(まき人は)、漢詩文を習い読んだところ、ただもう理解が進むに進んで、学識のある者になった。
おほやけ、聞こし召して、試みらるるに、まことに才深くありけれ ば、
おほやけ(朝廷・公)=名詞、天皇、帝、天皇家、大きな屋敷。朝廷、政府。
聞こし召し=サ行四段動詞「聞こし召す(きこしめす)」の連用形。「聞く」の尊敬語。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。「食ふ・飲む・治む・行ふ」などの尊敬語でもある。
らるる=尊敬の助動詞「らる」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
天皇が、(まき人の評判を)お聞きになって、(学識を)お試しになったところ、まことに学識が深かったので、
もろこしへ、「物よくよく習へ。」とて、遣はして、
もろこし(唐土・唐)=名詞、中国
遣はし=サ行四段動詞「遣はす(つかはす)」の連用形、「遣る」・「与ふ」・「贈る」の尊敬語。派遣なさる、使いをお送りになる。お与えになる、お授けになる。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。
中国へ、「学問をしっかり学んできなさい。」とおっしゃって、派遣して、
久しくもろこしにありて、さまざまのことども習ひ伝へて帰りたり けれ ば、
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
長らく中国にいて、ざまざまなことを習い伝えて帰ってきたので、
帝、かしこき者に思し召して、次第に成し上げ給ひて、大臣までになされ に けり。
かしこき=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の連体形。恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。
思し召し=サ行四段動詞「思し召す(おぼしめす)」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。
れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である天皇を敬っている。作者からの敬意。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
天皇は、すぐれた者だとお思いになって、順々に昇進させなさって、大臣にまでなさった。
されば、夢取ることは、げに かしこきことなり。
されば=接続詞、それゆえ、それで、そうであれば、だから。そもそも、いったい。
げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。
かしこき=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の連体形。恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
それゆえに、夢を取るということは、実に恐れ多いことである。
かの夢取られ たり し備中守の子は、司もなきものにてやみに けり。
かの(彼の)=あの、例の。「か(代名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
あの夢を取られてしまった備中守の子は、官職もない者で終わってしまった。
夢を取られ ざら ましか ば、大臣までも成りな まし。
れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。
※反実仮想「AましかばBまし。」=「もしAだったならば、Bだっただろうに。」
ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
まし=反実仮想の助動詞「まし」の終止形、接続は未然形
もし夢を取られなかったならば、大臣にまでも成っただろうに。
されば、夢を人に聞かす まじき なりと、言ひ伝へける。
されば=接続詞、それゆえ、それで、そうであれば、だから。そもそも、いったい。
す=使役の助動詞「す」の終止形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
まじき=禁止の助動詞「まじ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
だから、夢を人に聞かせてはならないのだと、言い伝えたということだ。
原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『夢買ふ人』(1)(2)現代語訳