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宇治拾遺物語『夢買ふ人』(1)解説・品詞分解

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原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『夢買ふ人』(1)(2)現代語訳

 

 

昔、備中国に郡司ありけり。それが子に、ひのきまき人といふありけり

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。もう一つの「けり」も同じ。

 

昔、備中の国に郡司がいた。その人の子供に、ひきのまき人という人がいた。

 

 

若き男てありけるとき、夢を見たり けれ 、合はせさせ とて、夢解きの女のもとに行て、

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

させ=使役の助動詞「さす」の未然形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

(まき人が)若者であった時、夢を見たので、夢合わせ(=夢占い)をさせようと思って、夢解きの女のもとに行って、

 

 

夢合はせて後、物語してゐたる程に、人々あまた声して来なり

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢

 

なり=推定の助動詞「なり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。近くに音声語(音や声などを表す言葉)が有る場合には「推定」、無い場合には「伝聞」の意味になりがち。なぜなら、この「なり」の推定は音を根拠に何かを推定するときに用いる推定だからである。

 

夢合わせをした後、雑談をしている時に、人々が大勢話をしながらやって来るようである。

 

国守の御子の太郎君のおはする なり けり。年は十七、八ばかりの男おはし けり

 

おはする=サ変動詞「おはす」の連体形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である太郎君を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。もう一つの「けり」も同じ。

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。動作の主体である太郎君を敬っている。作者からの敬意。

 

国守の御子のご長男がいらっしゃるのだった。年は十七、八ぐらいの若者でいらっしゃった。

 

 

心ばへは知らかたち清げなり。人四、五人ばかり 具し たり

 

心ばへ=名詞、心の様子、心づかい。趣向、趣。趣意、意味

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

かたち(容貌)=名詞、姿、容貌、外形、顔つき

 

清げに=ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連用形、さっぱりとして美しい、きちんとしている

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

具し=サ変動詞「具す(ぐす)」の連用形、引き連れる、一緒に行く、伴う。持っている。

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

気立ては分からないが、容姿はきれいである。(お供の)人を四、五人ほど連れている。

 

 

「これ夢解きの女のもと。」と問へ、御供の侍、「これ候ふ。」と言ひて来れ 

 

や=疑問の係助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である太郎君を敬っている。御供の侍からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

来れ(くれ)=カ変動詞「来(く)」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

(太郎君が、)「ここが夢解きの女のところか。」と尋ねると、お供の侍が、「ここでございます。」と言ってやって来るので、

 

 

まき人は上の方のうちに入りて、部屋のあるに入りて、穴よりのぞきて見れ

 

より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

まき人は奥の方の中に入って、部屋のあるところに入って、穴からのぞいて見ると、

 

 

この君、入り給ひて、「夢をしかじか見つる なりいかなる 。」とて、語り聞か

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である太郎君を敬っている。作者からの敬意。

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

いかなる=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。どのようだ、どういうふうだ。

 

ぞ=強調の係助詞

 

す=使役の助動詞「す」の終止形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

この君が、お入りになって、「夢をこれこれのように見たのだ。どういうものか。」と言って、語って聞かせる。

 

女、聞きて、「よに いみじきなり。必ず大臣まで成り上がり給ふ べき なり

 

よに=副詞、実に、非常に、はなはだ。下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。

 

いみじき=シク活用の形容詞「いみじ」の連体形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形。もう一つの「なり」も同じ。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

女は(その話を)聞いて、「実にすばらしい夢です。必ず大臣にまで出世なさるはずです。

 

 

返す返す、めでたく 御覧じ候ふ

 

めでたく=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。

 

御覧じ=サ変動詞「御覧ず(ごらんず)」の連用形、ご覧になる。動作の主体である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。

 

返す返す、すばらしく(夢を)ご覧になりました。

 

 

あなかしこあなかしこ、人に語り給ふ 。」と申し けれ 

 

あなかしこ=「ああ、恐れ多い」。ここでは「決して」などと訳すとよい。

あな+形容詞の語幹=感動文「ああ、~」

かしこ=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の語幹。恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である太郎君を敬っている。夢解きの女からの敬意。

 

な=禁止の終助詞

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である太郎君を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

決して決して、(この夢のことを)人にお話しなさいますな。」と申したので、

 

 

この君、うれしげにて、衣を脱ぎて、女に取らせて、帰り

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

この君は、うれしそうな様子で、着物を脱いで、女に与えて、帰った。

 

 

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