「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら土佐日記『亡児』現代語訳
二十七日。大津より浦戸をさして漕ぎ出づ。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
二十七日。大津から浦戸を目指して漕ぎ出す。
かくあるうちに、京にて生まれたり し女子、国にてにはかに 失せ に しか ば、
かく(斯く)=副詞、こう、このように
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
にはかに=ナリ活用の形容動詞「にはかなり」の連用形、急なさま、突然だ。
失せ=サ行下二段動詞「失す(うす)」の連用形。ここでは「死ぬ」と言う意味で使われている。現代語でもそうだが、古典において「死ぬ」という言葉を直接使うことは避けるべきこととされており、「亡くなる・消ゆ・隠る・徒(いたずら)になる」などと言ってにごす。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
こうしたことがあるうちに、京で生まれた女の子が、(土佐の)国で突然に亡くなってしまったので、
※京にて生まれたりし女子=京で生まれた紀貫之の子供。紀貫之が土佐へ赴任する際に一緒に連れて行った。
このごろの出で立ちいそぎを見れど、何ごとも言はず、
出で立ちいそぎ=名詞、出発の準備
いそぎ(急ぎ)=名詞、準備、支度。急ぐこと。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
近頃の出発の準備を見るけれど、何も言わず、
京へ帰るに女子のなきのみぞ、悲しび恋ふる。ある人々もえ 堪へ ず。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
恋ふる=ハ行上二段動詞「恋ふ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
堪へ=ハ行下二段動詞「堪ふ・耐ふ(たふ)」の未然形、耐える、我慢する。すぐれている。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
京に帰るのに(紀貫之の)女の子がいないことだけが、悲しく恋しい。その場にいる人々も(悲しみに)耐えられない。
この間に、ある人の書きて出だせる歌、
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
こうしている間に、ある人(=紀貫之)が書いて出した歌、
※ある人=紀貫之のこと。紀貫之は、この日記を女性が書いたものとして作成しているため、自分のことを第三者のように「ある人」として表記している。
都へと 思ふをものの 悲しきは 帰らぬ人の あれば なり けり
「思ふをものの悲しきは」の読点(、)の位置は、「思うを、ものの悲しきは、」
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
都へと 思ふをものの 悲しきは 帰らぬ人の あればなりけり
(ようやく)都へ帰るのだと思うけれども、なんとなく悲しいのは、(一緒に)帰らない人(=亡くなった紀貫之の娘)がいるからなのだなあ。
また、あるときには、
また、あるときには、(次のように歌を詠んだ、)
あるものと 忘れつつ なほ なき人を いづらと問ふぞ 悲しかりける
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」の意味。
なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。
いづら=代名詞、どこ
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
あるものと 忘れつつなほ なき人を いづらと問ふぞ 悲しかりける
(娘が)生きているものと(思って、死んでしまったことを)忘れては、やはり亡くなった娘を、どこにいるのかと尋ねてしまうのが悲しいことであるよ。