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土佐日記『白波・黒鳥のもと・かしらの雪』解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

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二十一日(はつかあまりひとひ)()の時ばかりに船()だす。みな人々の船出づ。

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

(一月)二十一日。午前六時ごろに船を出す。人々の船はみな出航した。

 

 

これを見れ、春の海に秋の木の葉しも散れ やうに ありける

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

しも=強意の副助詞。強意なので訳す際には気にしなくても良い。「し」=強意の副助詞  「も」=強調の係助詞

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

このようすを見ると、春の海に秋の木の葉が散っているようだったよ。

 

 

おぼろけの願によりて あら、風も吹か、よき日出で来て、()ぎ行く。

 

おぼろけ=ナリ活用の形容動詞「おぼろけなり」の語幹、並ひととおりだ、普通だ。並ひととおりでない、普通でない、格別だ。(下に打消しの語を伴って)並ひととおりでない、普通でない、格別だ。 形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

並々ならぬ祈願のおかげであろうか、風も吹かず、良い天気になって、(船を)漕いで行く。

 

 

この間に、使は とて、つきて来る(わらわ)あり。それが歌ふ(ふな)(うた)

 

れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

この間に、(ある人(=紀貫之)に)使われようとして、(土佐から)ついてきた子どもがいる。その子が歌う船唄、

ある人=紀貫之のこと。紀貫之は、この日記を女性が書いたものとして作成しているため、自分のことを第三者のように「ある人」として表記している。

 

 

なほ こそ国の  方は見やら るれ  わが父母  ありと思へ  帰ら

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

こそ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

見やら=ラ行四段動詞「見遣る(みやる)」の未然形、遠くを(望み)見る、その方を見る。

 

るれ=自発の助動詞「る」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

し=強意の副助詞。訳す際には気にしなくて良い。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

や=間投助詞

 

なほこそ国の  方は見やらるれ  わが父母  ありとし思へば  帰らや

やはり故郷(=土佐)の方を自然と眺めてしまうよ。自分の父母がいると思うと、帰ろうよ。

 

 

と歌ふ あはれなるかく歌ふを聞きつつ漕ぎ来るに、黒鳥といふ鳥、岩の上に集まり居り

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

あはれなる=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある。

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

居り=ラ変動詞「居り(おり)」の終止形

 

と歌うのがしみじみと心にしみる。このように歌うのを聞きながら(船を)漕いで来ると、黒鳥という鳥が、岩の上に集まっている。

 

 

その岩のもとに、波白く打ち寄す。(かじ)取りの言ふやう、「黒鳥(くろとり)のもとに、白き波を寄す。」と 言ふ

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

その岩の下に、波が白く打ち寄せる。船頭が言うことには、「黒鳥のところに、白い波が打ち寄せている。」と言う。

 

 

この言葉、何とはなけれども物言ふ やうに 聞こえたる

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

物言ふ=ハ行四段動詞「物言ふ」の連体形、気の利いたことを言う、しゃれたことを言う。口を利く。

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

この言葉は、なんということではないけれども、しゃれたことを言うように聞こえた。

 

 

人のほどに合は 、とがむるなり

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

船頭という身分に似合わないので、心にとまったのである。

 

 

かく言ひつつ行くに、船君なる人、波を見て、

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは③並行「~しながら」の意味。

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

このように言いながら行くと、船の主人(=紀貫之)が、波を見て、

 

 

「国より始めて、海賊(むく)いせと言ふなることを思ふ上に、海のまた恐ろしけれ、頭もみな白け

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「なり」には「伝聞・推定」の意味があるが近くに音声語が無い時は伝聞の意味になる可能性が高い。「断定・存在」の助動詞「なり」は接続が体言・連体形なため、こちらにも注意が必要である。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

「(土佐の)国から出発して、海賊が報復をするだろうと(人々が)言っているとかいうことを心配する上に、海が(荒れて)また恐ろしので、頭(の毛)もすっかり白くなってしまった。

※作者である紀貫之は、土佐守の任期中に瀬戸内海の海賊の取り締まりを行っていたため、その海賊たちの報復を恐れた。

 

 

(なな)()ぢ、八十(やそ)ぢは、海にあるものなり けり

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

七十歳、八十歳(のように髪の毛が白くなる原因)は、海にあるものであったのだなあ。

 

 

わが髪の  雪と(いそ)()の  白波と  いづれまされ   沖島守

 

まされ=ラ行四段動詞「まさる(勝る/優る)」の已然形、まさる、すぐれる

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

つ=格助詞。連体修飾語を作る役割をする。

「沖島守」→「沖島の番人」

 

わが髪の  雪と(いそ)()の  白波と  いづれまされり  沖つ島守(しまもり)

私の髪の雪(=白髪)と磯辺の白波とでは、どちらが白さでまさっているだろうか。沖の島の番人よ。

 

 

楫取り、言へ。」

 

船頭よ、答えておくれ。」

※「黒鳥のもとに、白き波を寄す。」としゃれたようなことを船頭が言ったことから、そのような船頭なら良い返しをしてくれるものと期待して、沖の島の番人の代わりに答えておくれと船の主人(=紀貫之)が船頭に対して問いかけている。

 

 

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目次:『土佐日記』

 

 

 

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