「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『明石の姫君の入内』現代語訳(2)(3)(4)
「御参りの儀式、人の目おどろく ばかりのことはせ じ。」と思しつつめ ど、
おどろく=カ行四段動詞「驚く(おどろく)」の連体形、目を覚ます、起きる。はっと気づく。驚く。
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
せ=サ変動詞「す」の未然形、する。
じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
思しつつめ=マ行四段動詞「思し包む(おぼしつつむ)」の已然形、ご遠慮なさる。「思ひ包む」の尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
「(明石の姫君の)御入内の儀式には、人目を驚かすようなことはするまい。」と(光源氏は)ご遠慮なさるが、
おのづから世の常のさまに ぞ あら ぬ や。
おのづから=副詞、自然に、ひとりでに。まれに、たまたま。もしかして。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
や=間投助詞
自然と世間一般のものではなかったことだよ。
限りもなくかしづき 据ゑ 奉り 給ひて、
かしづき=カ行四段動詞「かしづく」の連用形、大切にする、大切に養い育てる、大切にお世話する
据ゑ=ワ行下二段動詞「据う(すう)」の連用形、据える、置く。ワ行下二段活用の動詞は「植う(うう)」・「飢う(うう)」・「据う(すう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である明石の姫君を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
(紫の上は明石の姫君を)この上もなく大切にお世話申し上げなさって、
上は、「まことにあはれに うつくし。」と思ひ聞こえ 給ふにつけても、
あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じられる、しみじみと思う、しみじみとした情趣がある
うつくし=シク活用の形容詞「うつくし」の終止形、かわいらしい、いとおしい。美しい、きれい。
聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である明石の姫君を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
紫の上は、「(明石の姫君のことを)本当にしみじみとかわいい。」と思い申し上げなさるにつけても、
「人に譲るまじう、まことにかかることもあら ましか ば。」と思す。
まじう=打消意志の助動詞「まじ」の連用形が音便化したもの。接続は終止形(ラ変なら連体形)
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。
ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」である。ちなみに、直前が已然形ならば①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかである。
思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の終止形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
「他人に渡したくなく、本当にこのようなこと(=実の子が入内する)があったとしたら(どんなに良いだろうか)。」と思いなさる。
※紫の上と光源氏との間に子供をできておらず、明石の君と光源氏との間にできた女の子(=明石の姫君)を紫の上が代わりに育てている。
大臣も宰相の君も、ただこのこと一つをなむ、「飽かぬことかな。」と、思し ける。
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
飽かぬ=満足しない、物足りない。飽きない。
飽か=カ行四段動詞「飽く」の未然形、満足する。飽きる。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
かな=詠嘆の終助詞
思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である光源氏と夕霧を敬っている。作者からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。
太政大臣(=光源氏)も宰相の君(=夕霧)も、ただこのこと一つだけを、「不満なことだなあ。」と、思いなさった。
※夕霧(ゆうぎり)=光源氏と葵上との間にできた子供。葵上は夕霧を生んでまもなく亡くなっている。
三日過ごしてぞ、上はまかで させ 給ふ。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
まかで=ダ行下二段動詞「罷づ(まかづ)」の未然形、謙譲語。退出する。参る。おそらく動作の対象である天皇を敬っている。作者からの敬意。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
(結婚の儀を)三日間過ごして、紫の上はご退出なさる。
たちかはりて参り 給ふ夜、御対面あり。
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語、おそらく動作の対象である天皇を敬っている。作者からの敬意
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である明石の君を敬っている。作者からの敬意。
(紫の上と)入れ替わって(明石の君が)参内なさる夜、(紫の上と明石の君との)ご対面がある。
「かく おとなび 給ふけぢめになむ、年月のほども知られ 侍れ ば、
斯く(かく)=副詞、こう、このように。
おとなび=バ行上二段動詞「大人ぶ(おとなぶ)」の連用形、大人になる。大人びる、大人らしくなる。年長である。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である明石の姫君を敬っている。紫の上からの敬意。
なむ=強調の係助詞
れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。
自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
侍れ=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の已然形、丁寧語。言葉の受け手である明石の君を敬っている。紫の上からの敬意。
※「候(さぶら)ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
(紫の上は、)「このように(明石の姫君が)大人らしく成長なさった節目に、(姫君を預かった長い)年月のほども知られますので、
うとうとしき隔ては、残るまじく や。」と、
うとうとしき=シク活用の形容詞「疎疎し(うとうとし)」の連体形、よそよそしい。疎遠だ。
まじく=打消意志の助動詞「まじ」の連用形。接続は終止形(ラ変なら連体形)
や=間投助詞
よそよそしい隔たりは、残らないでしょうね。」と、
なつかしう のたまひて、物語などし 給ふ。
懐かしう=シク活用の形容詞「懐かし(なつかし)」の連用形が音便化したもの。親しみが感じられる、親しみやすい。心惹かれる様子だ、慕わしい。
のたまひ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の連用形。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である堀河殿(=藤原兼通)を敬っている。作者からの敬意。
し=サ変動詞「す」の連用形、する
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
親しみやすくおっしゃって、お話などをなさる。
これもうちとけぬる初めな めり。
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。
これも仲よくなった始めのようである。
ものなどうち言ひたる けはひなど、「むべ こそは」と、めざましう見給ふ。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
気配(けはひ)=名詞、様子、風情、雰囲気
むべ=副詞、なるほど、どうりで、もっとも
こそ=強調の係助詞
めざましう=シク活用の形容詞「めざまし」の連用形が音便化したもの。心外で気にくわない、あきれたものだ。すばらしい、立派だ。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
(明石の君が)何かちょっとしゃべっている様子など、「なるほど(明石の君が光源氏の寵愛を受けるはずだ)。」と、すばらしいと(紫の上は)御覧になる。
また、いと気高う盛りなる御けしきを、かたみに めでたしと見て、
気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。
互(かたみ)に=副詞、互いに、かわるがわる、交互に
めでたし=ク活用の形容詞「めでたし」の終止形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。
また、(明石の君の方でも紫の上の)たいそう気品高く女盛りであるご様子を、お互いに素晴らしいと見て、
「そこらの御中にもすぐれ たる 御心ざしにて、並びなきさまに定まり給ひ けるも、いとことわり。」と思ひ知らるるに、
そこら=副詞、多く、たくさん。たいそう、非常に、とても。
すぐれ=ラ行下二段動詞「優る/勝る(すぐる)」の連用形、すぐれる、他よりまさる。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
心ざし=名詞、誠意、物を送ること、贈り物
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。明石の君からの敬意。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ことわり=ナリ活用の形容動詞「理なり(ことわりなり)」の語幹、当然である、もっともだ。
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。
自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
「大勢の御方々の中でも誰よりも勝っているご寵愛を(光源氏から紫の上は)受けて、並ぶ者がいない地位に(紫の上が)おさまりになったのも、まことにもっともなことだ。」と納得せずにはいられないが、
「かうまで立ち並び聞こゆる 契り、おろかなり や は。」と思ふものから、
斯う(かう)=副詞、こう、このように。 「斯く(かく)」が音便化したもの。
聞こゆる=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連体形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。明石の君からの敬意。
契り(ちぎり)=名詞、約束、ご縁
おろかなり=ナリ活用の形容動詞「疎かなり/愚かなり(おろかなり)」の終止形、おろそかだ、いいかげんだ。馬鹿だ、間抜けだ。並々だ、普通だ。
や=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
ものから=逆接の接続助詞。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接、たまに順接・詠嘆の時がある。
(明石の君は、)「(自分も)これ(=紫の上の地位)ほどまで立ち並び申し上げる宿縁も、いいかげんなものであろうか。(いや、いいかげんなものではない。)」と思うものの、
出で給ふ儀式のいとことに よそほしく、御輦車など許され 給ひて、
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ことに=ナリ活用の形容動詞「異なり(ことなり)」の連用形、(普通とは)異なる、違っている。特別に優れている、格別だ。
よそほしく=シク活用の形容詞「装し(よそほし)」の連用形、整って立派である、厳めしく美しい
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
(紫の上が宮中から)ご退出になる儀式がたいそう格別に厳めしく美しく、御輦車などを許されなさって、
女御の御ありさまにことなら ぬを、思ひ比ぶるに、さすがなる身のほどなり。
女御(にょうご)=天皇が囲っている女性、高位の女官、更衣よりも上
ことなら=ナリ活用の形容動詞「異なり(ことなり)」の未然形、(普通とは)異なる、違っている。特別に優れている、格別だ。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
女御のご様子と異ならないのを、(明石の君自身と)思い比べると、やはり異なる身のほどである。
続きはこちら源氏物語『明石の姫君の入内』解説・品詞分解(3)