「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(3)(4)
などて、よろづのことありとも、また人をば並べて見るべき ぞ、
などて=副詞、どうして、なぜ
万(よろづ)=名詞、すべてのこと、あらゆること。
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
ぞ=強調の係助詞
(光源氏は)どうして、いろいろな事情があるとしても、他に妻を迎えなければならないのか、
あだあだしく、心弱くなりおきに けるわが怠りに、かかることも出で来る ぞ かし。
あだあだしく=シク活用の形容詞「あだあだし」の連用形、誠実でない、浮気だ。うわついている。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう。
出で来る=カ変動詞「出で来(いでく)」の連体形
ぞ=強調の係助詞
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
浮気っぽく、気弱になってしまっていた自身の過ちから、このようなこと(=光源氏と女三の宮の結婚)も起こってくるのだよ。
若けれど、中納言をば え 思しかけ ずなりぬ めり しをと、
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
思しかけ=カ行下二段動詞「思しかく」の未然形。「思ひかく」の尊敬語。動作の主体である朱雀院を敬っている。作者からの敬意。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
めり=推定の助動詞「めり」の連用形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
若いけれど、中納言(=夕霧;光源氏と葵の上の子)を(女三の宮の婿にしようと朱雀院は)お考えにならなかったようなのにと、
我ながら つらく 思し続け らるるに、涙ぐまれて、
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
つらく=ク活用の形容詞「つらし」の連用形、薄情だ、思いやりがない。耐えがたい、心苦しい。
思し続け=カ行下二段動詞「思し続く(おぼしつづく)」の未然形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
らるる=自発の助動詞「らる」の連体形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。
自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形
(光源氏は)我ながら心苦しくお思い続けずにはいられなくていると、自然と涙ぐんで、
「今宵ばかりは、理と許し給ひ て む な。
ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
な=念押しの終助詞
「(婚礼の儀の最終日である)今夜だけは、(女三の宮のもとへ通うことを)当然のことだときっとお許しくださるでしょうね。
これより後のとだえあらむ こそ、身ながらも心づきなかる べけれ。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
む=仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。訳:「(もしも)恋いしんでしまったら、」
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
心づきなかる=ク活用の形容詞「心づきなし」の連体形。気に食わない、不愉快だ、心が引かれない。愛想がない、好意が持てない。
べけれ=推量の助動詞「べし」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。基本的に文脈判断。
これから後にここに来なくなるようなことがあったとしたら、我ながら愛想が尽きることでしょう。
また、さりとて、かの 院に聞こし召さ むことよ。」と、
さりとて=接続詞、そうかといって、それにしても
彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する
院=名詞、上皇・法皇・女院。または左記の者達の御所。貴族等の邸宅
聞こし召さ=サ行四段動詞「聞こし召す(きこしめす)」の未然形。「聞く」の尊敬語。動作の主体である朱雀院を敬っている。作者からの敬意。「食ふ・飲む・治む・行ふ」などの尊敬語でもある。
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現のこと。
訳:「お聞きになる(ような)こと」
よ=間投助詞
また、そうかといって、あの院(=朱雀院)には何とお聞きになるようなこと(も気がかりだ)よ。」と、
思ひ乱れ給へ る御心のうち、苦しげなり。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
思い悩んでいらっしゃるお心の中は、苦しそうな様子である。
少しほほ笑みて、「自らの御心ながら だに、え定め給ふ まじか なるを、まして理も何も。
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。紫の上からの敬意。
まじか=打消推量の助動詞「まじ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「まじかるなる」→「まじかんなる」(音便化)→「まじかなる」(無表記)と変化していった。
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
理(ことわり)=名詞、すじみち、ものの道理、理論、もっともであること、当然であること
(紫の上は)少しほほ笑んで、「ご自身のお心でさえ、お決めになれないようであるのに、まして(私には)道理も何も(決めかねます)。
いづこにとまるべき に か。」と、
いづこ=代名詞、どこ、どちら
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
か=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」などが省略されていると考えられる。「訳:~であるのだろうか」
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
(最終的には)どこに決まるのでしょうか。」と、
言ふかひなげにとりなし給へ ば、恥づかしうさへ おぼえ 給ひて、
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われ」
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
取り付く島もない様子であしらいなさるので、(光源氏は)きまりが悪いとまでにお思いになって、
頬杖をつき給ひて、寄り臥し給へ れ ば、硯を引き寄せて、
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
れ=存続の助動詞「り」の已然形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
頬杖をおつきになって、寄りかかって横になっていらっしゃるので、(紫の上は)硯を引き寄せて、
目に近く 移れば変はる 世の中を 行く末遠く 頼みけるかな
移れ=ら行四段動詞「移る(うつる)」の已然形、移動する。色あせる、衰える。色が変わる。時間が過ぎる。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
行く末=名詞、将来、未来、行く先。 ※対義語は「来し方(きしかた)」で、意味は「過去、過ぎ去った時」
頼み=マ行四段動詞「頼む(たのむ)」の連用形。頼みに思う、あてにする。
※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わり、「頼みに思わせる、あてにさせる」といった意味になる。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
かな=詠嘆の終助詞
すぐ目の前のことでも時がたてば(このように)変わる夫婦の仲を、行く末長く頼みに思っていたことですよ。
古言など書きまぜ給ふを、取りて見給ひて、はかなき言なれ ど、げに、と理にて、
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
はかなき=ク活用の形容詞「はかなし」の連体形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。
理に=ナリ活用の形容動詞「理なり(ことわりなり)」の連用形、当然である、もっともだ。
古歌などを交えて書きなさるのを、(光源氏は)手に取って御覧になって、何ということもない歌であるけれど、なるほど、ともっともだと思って、(次の和歌を詠んだ)
命こそ 絶ゆとも絶えめ 定めなき 世の常ならぬ 仲の契りを
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。ここでは逆接強調法。
逆接強調法「こそ ~ 已然形、」→「~だけれど、(しかし)」
普通の係り結びは結び(文末)が已然形となるため、「こそ ~ 已然形。」となるが、
逆接強調法のときは「こそ ~ 已然形、」となり、「、(読点)」があるので特徴的で分かりやすい。
絶ゆ=ヤ行下二段動詞「絶ゆ」の終止形、絶える、とだえる、息が絶える、死ぬ。もう一つの「絶え」は未然形
め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
契り(ちぎり)=名詞、約束、ご縁
命というものは絶えることもあろうけれど、こんな無情な世とは異なる二人の間の縁なのですよ。(=二人の仲が変わることはありませんよ。)
とみにもえ渡り給は ぬを、「いとかたはらいたき わざ かな。」と、
とみに=副詞、急に、突然。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
かたはらいたき=ク活用の形容詞「傍痛し(かたはらいたし)」の連体形、恥ずかしい、きまりが悪い。はたで見ていて苦々しい、いたたまれない。
わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会
かな=詠嘆の終助詞
(光源氏が女三の宮のもとへ)すぐにはお通いにならないのを、「たいそうきまりが悪いことですよ。」と、
そそのかし聞こえ 給へ ば、なよよかにをかしきほどに、
聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
をかしき=シク活用の形容詞「をかし」の連体形、趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
(紫の上が)促し申し上げなさると、(光源氏が)柔らかく美しい着物で、
えならず匂ひて渡り給ふを、見出だし給ふも、いとただにはあらず かし。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。
ただに=ナリ活用の形容動詞「直なり・徒なり(ただなり)」の連用形、普通だ、当たり前だ。直接だ、まっすぐだ。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
言いようがないほど良い匂いをさせてお出かけになるのを、(紫の上が)見送りなさるのにつけても、とても平静ではないよ。
続きはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(5)