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源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(3)(4)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 解説・品詞分解はこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(3)

 

かの紫のゆかり(たず)ね取り(たま)へりし折思(おりおぼ)し出づるに、

 

(光源氏は)あの紫のゆかり(=紫の上)を探し引き取りなさった時のことをお思い出しになると、

 

 

かれはされて言ふかひありしを、これは、いといはけなくのみ見え給へば、

 

あの人(=紫の上)は気が利いて話のしがいがあったが、こちら(=女三の宮)は、たいそう子供っぽくのみお見えになるので、

 

 

よかめり、憎げにおし立ちたることなどはあるまじかめりと思すものから、

 

(それはそれで)良いようだ、憎らしげに我を張ることなどはあるまいだろうとお思いになるものの、

 

 

いとあまりものの栄えなき御さまかなと見(たてまつ)り給ふ。

 

たいそうあまり見栄えがしないご様子だなあと拝見なさる。

 

 

三日がほどは、()()れなく渡り給ふを、年ごろさもならひ給はぬ心地に、

 

三日間(=婚礼の儀が行われる三日間)は、(光源氏が女三の宮のもとへ)毎晩欠かさず通いなさるのを、(紫の上は)長年そのようなことにも慣れていらっしゃらない気持ちで、

 

 

忍ぶれど、なほ ものあはれなり。

 

耐え忍ぶけれど、やはりなんとなく悲しい様子である。

 

 

御衣どもなど、いよいよたきしめさせ給ふものから、

 

(光源氏の)お着物などに、いっそう香をたきしめさせなさるものの、

 

 

うちながめてものし給ふ()(しき)、いみじくらうたげにをかし。

 

物思いにふけっていらっしゃる様子は、とても可愛らしい様子で趣がある。

 



(4)

 

 

などて、よろづのことありとも、また人をば並べて見るべきぞ、

 

(光源氏は)どうして、いろいろな事情があるとしても、他に妻を迎えなければならないのか、

 

 

あだあだしく、心弱くなりおきにけるわが怠りに、かかることも出で来るぞかし。

 

浮気っぽく、気弱になってしまっていた自身の過ちから、このようなこと(=光源氏と女三の宮の結婚)も起こってくるのだよ。

 

 

若けれど、中納言をばえ思しかけずなりぬめりしをと、

 

若いけれど、中納言(=夕霧;光源氏と葵の上の子)を(女三の宮の婿にしようと朱雀院は)お考えにならなかったようなのにと、

 

 

我ながらつらく思し続けらるるに、涙ぐまれて、

 

(光源氏は)我ながら心苦しくお思い続けずにはいられなくていると、自然と涙ぐんで、

 

 

今宵(こよい)ばかりは、(ことわり)と許し給ひてむな。

 

「(婚礼の儀の最終日である)今夜だけは、(女三の宮のもとへ通うことを)当然のことだときっとお許しくださるでしょうね。

 

 

これより後のとだえあらむこそ、身ながらも心づきなかるべけれ。

 

これから後にここに来なくなるようなことがあったとしたら、我ながら愛想が尽きることでしょう。

 

 

また、さりとて、かの院に聞こし召さむことよ。」と、

 

また、そうかといって、あの院(=朱雀院)には何とお聞きになるようなこと(も気がかりだ)よ。」と、

 

 

思ひ乱れ給へる御心のうち、苦しげなり。

 

思い悩んでいらっしゃるお心の中は、苦しそうな様子である。

 

 

少しほほ笑みて、「自らの御心ながらだに、え定め給ふまじかなるを、まして(ことわり)も何も。

 

(紫の上は)少しほほ笑んで、「ご自身のお心でさえ、お決めになれないようであるのに、まして(私には)道理も何も(決めかねます)。

 

 

いづこにとまるべきにか。」と、

 

(最終的には)どこに決まるのでしょうか。」と、

 

 

言ふかひなげにとりなし給へば、恥づかしうさへおぼえ給ひて、

 

取り付く島もない様子であしらいなさるので、(光源氏は)きまりが悪いとまでにお思いになって、

 

 

(ほお)(づえ)をつき給ひて、寄り()し給へれば、(すずり)を引き寄せて、

 

頬杖をおつきになって、寄りかかって横になっていらっしゃるので、(紫の上は)硯を引き寄せて、



 

目に近く  移れば変はる  世の中を  行く末遠く  頼みけるかな

 

すぐ目の前のことでも時がたてば(このように)変わる夫婦の仲を、行く末長く頼みに思っていたことですよ。

 

 

古言など書きまぜ給ふを、取りて見給ひて、はかなき言なれど、げに、と理にて、

 

古歌などを交えて書きなさるのを、(光源氏は)手に取って御覧になって、何ということもない歌であるけれど、なるほど、ともっともだと思って、(次の和歌を詠んだ)

 

 

命こそ  ()ゆとも絶えめ  定めなき  世の常ならぬ  仲の契りを

 

命というものは絶えることもあろうけれど、こんな無情な世とは異なる二人の間の縁なのですよ。(=二人の仲が変わることはありませんよ。)

 

 

とみにもえ渡り給はぬを、「いとかたはらいたきわざかな。」と、

 

(光源氏が女三の宮のもとへ)すぐにはお通いにならないのを、「たいそうきまりが悪いことですよ。」と、

 

 

そそのかし聞こえ給へば、なよよかにをかしきほどに、

 

(紫の上が)促し申し上げなさると、(光源氏が)柔らかく美しい着物で、

 

 

えならず匂ひて渡り給ふを、見出だし給ふも、いとただにはあらずかし。

 

言いようがないほど良い匂いをさせてお出かけになるのを、(紫の上が)見送りなさるのにつけても、とても平静ではないよ。

 

 

続きはこちら源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(5)(6)(7)

 

 源氏物語『女三の宮の降嫁』解説・品詞分解(3)

 

 源氏物語『女三の宮の降嫁』現代語訳(1)(2)

 

 源氏物語『女三の宮の降嫁』まとめ

 

 

 

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