「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら今物語『桜木の精』問題(用言・単語など)
小式部内侍、大二条殿に①おぼしめされけるころ、②久しく仰せ言③なかりける夕暮れに、④あながちに恋ひ⑤奉りて、端近く⑥ながめ⑦ゐたるに、御車の音なども⑧なくて、ふと⑨入らせ⑩給ひたりければ、待ち得て⑪夜もすがら語らひ申しける。暁方に、いささか⑫まどろみたる夢に、糸の付きたる針を御⑬直衣の袖に刺すと見て夢⑭覚めぬ。
さて⑮帰らせ給ひにける⑯あしたに、御名残を⑰思ひ出でて、例の端近くながめいたるに、前なる桜の木に糸の下がりたるを、⑱あやしと思ひて⑲見ければ、夢に、御直衣の袖に刺しつる針なりけり。いと不思議なり。
あながちに物を思ふ折には、木草なれども、⑳かやうなることの㉑侍るにや。その夜㉒御渡りあること、まことにはなかりけり。
問題1.⑤奉り、⑩給ひ、⑬直衣、㉑侍る、の漢字の読みを答えよ。
⑤たてまつ(り)
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である大二条殿を敬っている。
⑩たま(ひ)
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。
⑬のうし(現代仮名遣い)・なほし(歴史的仮名遣い)
直衣(のうし・なほし)=名詞、高貴な人の普段着
㉑はべ(る)
侍る=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連体形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。
問題2.①おぼしめす、④あながちに、⑥ながむ、⑪夜もすがら、⑫まどろむ、⑯あした、⑱あやし、⑳かやうなること、㉒御渡り、のここでの意味を答えよ。(※終止形で表記してある用言については、終止形のものとして意味を考えよ。)
①寵愛する
おぼしめさ=サ行四段動詞「おぼしめす」の未然形、「思ふ」の尊敬語。ここは、「寵愛する」の意味で訳した方が良い。動作の主体である大二条殿を敬っている。
④ひたすらに
あながちに=ナリ活用の形容動詞「あながちなり(強ちなり)」の連用形、むりやりなさま⑥
⑪物思いにふける・物思いに沈む
ながめ=マ行下二段動詞「眺む(ながむ)」の連用形、じっとみる、眺める。物思いに沈む。「詠む(ながむ)」だと詩歌などを読む、つくるといった意味もある。
⑫一晩中
「夜(よ)もすがら」=副詞、一晩中。対義語「日もすがら」。名詞ではあるが「夜一夜(よひとよ)」=「一晩中」というのもある。「夜一夜」⇔「日一日(ひひとひ)」
⑯うとうと眠る
まどろみ=マ行四段動詞「微睡む(まどろむ)」の連用形、うとうとと眠る
⑱朝・明け方
朝(あした)=名詞、朝、明け方。翌朝。
⑳このようなこと
かやうなる=ナリ活用の形容動詞の「かやうなり」の連体形。このよう、かくのごとく。
㉒(大二条殿)いらっしゃること、ご来訪
御渡り=名詞、「渡り」の尊敬語。いらっしゃること、ご来訪。場所を移動すること。
問題3.①おぼしめさ、②久しく、③なかり、④あながちに、⑤奉り、⑥ながめ、⑦ゐ、⑧なく、⑨入ら、⑩給ひ、⑫まどろみ、⑭覚め、⑮帰ら、⑰思ひ出で、⑱あやし、⑲見、⑳かやうなる、㉑侍る、の活用の種類と活用形をそれぞれ答えよ。ただし助動詞については活用形のみで良い。(解答例:㊿ハ行四段活用・連用形)
①サ行四段活用・未然形
おぼしめさ=サ行四段動詞「おぼしめす」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である大二条殿を敬っている。直後に接続が未然形の助動詞「れ」が来ているため未然形となっている。
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。
②シク活用・連用形
③ク活用・連用形
なかり=ク活用の形容詞「無し」の連用形。直後に接続が連用形の助動詞「ける」が来ているため連用形となっている。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
④ナリ活用・連用形
あながちに=ナリ活用の形容動詞「あながちなり(強ちなり)」の連用形、むりやりなさま。直後に用言(恋ひ)がきているため連用形(用言に連なる形)になっている。
⑤ラ行四段活用・連用形
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である大二条殿を敬っている。直後に接続助詞「て」が着たら連用形となる。
⑥マ行下二段活用・連用形
ながめ=マ行下二段動詞「眺む(ながむ)」の連用形、じっとみる、眺める。物思いに沈む。「詠む(ながむ)」だと詩歌などを読む、つくるといった意味もある。直後に用言(ゐ)がきているため連用形(用言に連なる形)になっている。
⑦ワ行上一段活用・連用形
ゐ=ワ行上一段動詞「居る(ゐる)」の連用形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。直後に接続が連用形の助動詞「たる」が来ているため連用形となっている。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
⑧ク活用・連用形
なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形。直後に接続助詞「て」が着たら連用形となる。
⑨ラ行四段活用・未然形
入ら=ラ行四段動詞「入る」の未然形。直後に接続が未然形の助動詞「せ」が来ているため未然形となっている。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。
⑩ハ行四段活用・連用形
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。直後に接続が連用形の助動詞「たり」が来ているため連用形となっている。
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
⑫マ行四段活用・連用形
まどろみ=マ行四段動詞「微睡む(まどろむ)」の連用形、うとうとと眠る
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
⑭マ行下二段活用・連用形
覚め=マ行下二段動詞「覚む」の連用形。直後に接続が連用形の助動詞「ぬ」が来ているため連用形となっている。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
⑮ラ行四段活用・未然形
帰ら=ラ行四段動詞「帰る」の未然形
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形
⑰ダ行下二段活用・連用形
思ひ出で=ダ行下二段動詞「思い出(い)づ」の連用形。直後に接続助詞「て」が着たら連用形となる。
⑱シク活用・終止形
あやし=シク活用の形容詞「あやし」の終止形、不思議だ、変だ。身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい
ここでの「あやし」は『「妙だ。」と思って、』となるように直後に句点「。」が省略されているので文末扱い。よって終止形。
⑲マ行上一段活用・連用形
見=マ行上一段動詞「見る」の連用形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
⑳ナリ活用・連体形
かやうなる=ナリ活用の形容動詞の「かやうなり」の連体形。このよう、かくのごとく。直後に体言(こと)がきているため連体形(体言に連なる形)になっている。
㉑ラ行変格活用・連体形
侍る=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連体形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形