古文

徒然草『高名の木登り』解説・品詞分解

成立:鎌倉時代後期

ジャンル:随筆(ずいひつ)

作者:兼好(けんこう)法師(ほうし)吉田(よしだ)兼好(けんこう)卜部(うらべ)兼好(けんこう)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら徒然草『高名の木登り』現代語訳

 

 

(こう)(みょう)の木登りといひ、人を掟てて、高き木に登せ(こずえ)を切ら に、

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。もう一つの「し」も同じ。

 

掟て=タ行下二段動詞「掟つ(おきつ)」の連用形、指図する、命令する。あらかじめ決めておく。取り扱う、取り計らう。

 

登せ=サ行下二段動詞「登す(のぼす)」の連用形、登らせる

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

木登りの名人と言われていた男が、人に指図して、高い気に登らせて梢を切らせた時に、

 

 

いと危ふく見えほどは言ふこともなくて、降るるときに、(のき)たけばかりになりて、

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

降るる=ラ行上二段動詞「降る(おる)」の連体形

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

たいそう危なく見えた辺りでは何も言わなくて、降りる時に、軒(屋根の一番低い部分)の高さぐらい(まで降りてきた所)になって、

 

 

(あやま)ちす心して降りよ。」と言葉をかけ侍り を、

 

な=禁止の終助詞

 

心し=サ変動詞「心す」の連用形、気を付ける、用心する、注意する。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ/さうらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

「失敗するな。気を付けて降りろよ。」と言葉をかけましたので、

 

 

かばかりになりては、飛び降るとも降り 

 

かばかり=副詞、これだけ、これほど、このくらい

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

「これほど(の高さ)になったなら、飛び降りようとも降りられるだろう。

 

 

いかに かく言ふ。」と申し 侍り しか 

 

いかに=副詞、どんなに、どう。

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

ぞ=強調の係助詞

 

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である高名の木登りといひし男を敬っている。作者からの敬意。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

どうしてそのようなことを言うのか。」と(木登りの名人に尋ね)申しましたところ、

 

 

「そのこと 候ふ。目くるめき、枝(あや)ふきほどは、おのれが恐れ侍れ 申さ 

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である作者を敬っている。高名の木登りといひし男からの敬意。

 

侍れ=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の已然形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である作者を敬っている。高名の木登りといひし男からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

申さ=サ行四段動詞「申す」の未然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である木に登っている人を敬っている。高名の木登りといひし男からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

「そのことでございます。目がくらくらし、枝が(高い位置にあって細く)危ないうちは、本人が恐れて(用心して)いますので、(私からは何も)申しません。

 

 

あやまちは、安き所になりて、必ずつかまつること 候ふ。」と言ふ。

 

つかまつる=ラ行四段動詞「仕奉る(つかまつる)」の連体形、(謙譲語)お仕えする、~し申し上げる、いたす。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である作者を敬っている。高名の木登りといひし男からの敬意。

 

失敗は、安心だと思う所になって、必ずいたすものでございます。」と言う。

 

 

あやしき 下臈 なれ ども、聖人の(いまし)めにかなへ 

 

あやしき=シク活用の形容詞「怪し・奇し/賤し(あやし)」の連体形、不思議だ、変だ。/身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい。

 

下臈(げろう)=名詞、身分の低い者

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

かなへ=ハ行四段動詞「叶ふ・適ふ(かなふ)」の已然形。思い通りになる。ぴったりである、適合する。

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

(その木登りの名人は)身分の低い者であるけれども、聖人の教訓に合致している。

 

 

鞠も、かたき所を蹴出だして後、安く思へ、必ず落つと侍る やらん

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

侍る=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連体形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

やらん=連語。「(に)やあらん」が縮んだもの。訳:「~であろうか」

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

(蹴鞠の)鞠も、難しいところを蹴り出した後、安心だと思うと、必ず落とすと(その道の人が言うことに)ございますのだとか。

 

 

徒然草『高名の木登り』現代語訳

 

 

 

 

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