古文

土佐日記『羽根』解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら土佐日記『羽根』現代語訳

 

 

十一日。(あかつき)に船を出だして、(むろ)()を追ふ。

 

十一日。夜明けの少し前に船を出して、室津を目指す。

 

 

人みなまだ寝たれ 、海のありやうも見え。ただ月を見て、西東を知りける

 

たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ば=係助詞。強調する意味があるが、訳す際には無視して構わない。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

人々は皆まだ寝ているので、海の様子も見えない。ただ月を見て、(方角の)西東を知った。

 

 

かかる間に、みな、夜明けて、手洗ひ、のことどもして、昼になり

 

かかる=連体詞、あるいはラ変動詞「かかり」の連体形。このような、こういう。

 

例=名詞、いつもの事、普段。当たり前の事、普通。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

こうしているうちに、人々は皆、夜が明けて、顔や手を洗い、いつものこと(=礼拝や食事などの朝の用事)をいろいろとして、昼になった。

 

 

、羽根といふ所に来。わかき(わらわ)、この所の名を聞きて、「羽根といふ所は、鳥の羽のやう  ある。」と言ふ。

 

し=強調の副助詞

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ある=ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

ちょうど今、羽根という所に来た。幼い子供が、この(羽根という)土地の名を聞いて、「羽根という所は、鳥の羽のようであるのか。」と言う。

 

 

まだをさなき童の言なれ 、人々笑ふときに、ありける女童なむ、この歌をよめ

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

まだ幼い子供の言葉なので、人々が笑うときに、その場にいた女の子が、この歌を詠んだ。

 

 

まことにて  名に聞くところ  羽なら   飛ぶがごとくに  都にもがな

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

ごとく=比況の助動詞「ごとし」の連用形

 

もがな=願望の終助詞、「~があればなあ、~であってほしいものだ」

 

まことにて  名に聞くところ  羽ならば  飛ぶがごとくに  都にもがな

本当に、(その羽根という土地の)名に聞くところの羽であるならば、飛ぶように(早く)都へ帰りたいものだなあ。

 

言へ。男も女も、いかで とく京へもがなと思ふ心あれ

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

いかで=副詞、(疑問・反語で)どうして、どのようにして、どういうわけで。どうにかして。どうであろうとも、なんとかして。

 

とく(疾く)=副詞、早く、すぐに。すでに、とっくに。

 

もがな=願望の終助詞、「~があればなあ、~であってほしいものだ」

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

と言った。男も女も、なんとかして早く都の京へ帰りたいと思う気持ちがあるので、

 

 

この歌、よしはあら げにと思ひて、人々忘れ

 

よし=ク活用の形容詞「良し」の終止形

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

この歌は、優れているというわけではないけれど、本当にその通りだと思って、人々は(この歌を)忘れない。

 

 

この羽根といふ所問ふ童のついで、また昔へ人を思ひ出でて、いづれの時に 忘るる

 

ついで(序)=名詞、おり、機会。物事の順序、次第。

 

ぞ=強調の係助詞

 

か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

忘るる=ラ行下二段動詞「忘る」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

この羽根という所について尋ねる子供をきっかけに、また亡くなった人(=作者である紀貫之の娘)を思い出して、いつになったら忘れるのか。(いや、忘れることはない。)

 

 

今日はまして、母の悲しがらるることは。

 

るる=尊敬の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。

 

今日はいつにもまして、母(=亡くなった娘の母であり、紀貫之の妻)が悲しがっていらっしゃることだ。

 

 

下りときの人の数足ら 

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

(京から土佐に)下ったときの人数に足らないので、

※娘が亡くなっているために、京から土佐に来た時よりも、土佐から京へ帰る時の方が人数が少なくなっている。

 

古歌に「数は足ら 帰るべらなる」ということを思ひ出でて、人のよめ

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

べらなる=推量の助動詞「べらなり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

古歌に、「数は足らでぞ帰るべらなる」というのがあることを思い出して、ある人(=紀貫之)が詠んだ歌、

※古今集にある「北へ行く  雁ぞ鳴くなる  連れて来し  数は足らでぞ  帰るべらなる」という歌のこと。

訳:北の方へ帰る雁が(悲しげに)鳴いているようだ。連れ立って来た時の数とは足りなくなって帰るのだろう。

ついでに、この歌の「鳴くなる」の「なる」の部分だけ文法解説を。

なる=推定の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。近くに音声語(音や声などを表す言葉)が有る場合には「推定」、無い場合には「伝聞」の意味になりがち。なぜなら、この「なり」の推定は音を根拠に何かを推定するときに用いる推定だからである。

 

 

世の中に  思ひやれども  子を恋ふる  思ひにまさる  思ひなきかな

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

かな=詠嘆の終助詞

 

世の中に  思ひやれども  子を恋ふる  思ひにまさる  思ひなきかな

この世の中で、いろいろと思いやるけれども、子を恋しく思う思いにまさる思いはないことだよ

 

 

と言ひつつ なむ

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」の意味。

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「思ひ嘆く(カ行四段動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

 

と言っては思い嘆いていた。

 

 

土佐日記『羽根』現代語訳

 

目次:『土佐日記』

 

 

 

-古文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5