古文

方丈記『日野山の閑居』解説・品詞分解(1)

作者:鴨長明(かものちょうめい)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら方丈記『日野山の閑居』現代語訳(1)

 

 

ここに六十(むそじ)(つゆ)消えがたに及びて、さらに(すえ)()宿(やど)りを結べことあり。

 

さらに=副詞、新たに、改めて。その上、さらに。下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

さて六十歳という露のように(はかない命が)消えそうな年齢に及んで、新たに(残りの人生を過ごすための)晩年の住まいを作ったことがある。

 

 

いはば、旅人の一夜の宿を作り、老い たる(かいこ)(まゆ)を営むがごとし。

 

老い=ヤ行上二段動詞「老ゆ」の連用形。ヤ行上二段活用の動詞は「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」の3つだけだと思って、受験対策に覚えておいた方がよい。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

いわば、旅人が一夜(泊まるだけ)の宿を作り、老いた蚕が繭を作るようなものだ。

 

 

これを中ごろの住みかにならぶれ 、また百分が一に及ば

 

ならぶれ=バ行下二段動詞「並ぶ(ならぶ)」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

この家を人生の中頃の住まいと比べると、やはり百分の一にも及ばない。

 

 

とかく言ふほどに、(よわい)歳々(としどし)に高く、(すみか)(おりおり)(せば)し。

 

あれこれ言ううちに、年齢は年々高くなり、住まいは(引っ越す)そのたびごとに狭くなる。

 

 

その家のありさま、世の常にも似。広さはわづかに方丈、高さは七尺がうちなり

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

その家の様子は、世間一般(の家)とは似ていない。広さはわずか一丈四方、高さは七尺以内である。

 

 

所を思ひ定めざるがゆゑに、地を()めて作ら

 

ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

(生涯住むための)場所を決めていないがために、土地を所有して(家を)作らない。

 

(つち)()を組み、打覆(うちおおい)()きて、()ぎ目ごとに掛金(かけがね)()たり

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

土台を組み、打覆いで屋根を葺いて、継ぎ目ごとに掛金を掛けてある。

※打覆=名詞、簡単な屋根

 

 

もし心にかなは ことあら、やすくほかへ移さがためなり

 

かなは=ハ行四段動詞「叶ふ・適ふ(かなふ)」の未然形。思い通りになる。ぴったりである、適合する。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

ん=意志の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

もし気に入らないことがあれば、容易に他へ引っ越そうと思うからである。

 

 

その改め作ること、いくばくのわづらひ ある

 

か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ある=ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

その(簡易な家を)建て直すことに、どれほどの面倒があるだろうか。(いや、ない。)

 

 

積むところわづかに二両、車の力を(むく)ふほかには、さらにほかの用途いら

 

さらに=副詞、新たに、改めて。その上、さらに。下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

(家の資材を)車に積んでもわずか二台分で、車の運搬に対する報酬(を払う)以外は、まったく他の費用はいらない。

 

 

今、()()(やま)の奥に跡を隠して後、東に三尺余りの(ひさし)をさして、(しば)()りくぶるよすがとす。

 

よすが=名詞、身を寄せるところ、ゆかり、縁者。頼りとするもの。便りとする手段。

 

今、日野山の奥に行方を隠してから、(この家の)東に三尺余りの庇を作って、(その下を炊事などのために)柴を折って燃やす場所とした。

 

 

南、竹の簀子(すのこ)()き、その西に閼伽(あか)(だな)を作り、北に寄せて(しょう)()(へだ)てて阿弥陀(あみだ)()(ぞう)(あん)()し、そばに()(げん)()き、前に()()(きょう)を置け

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

南は、竹の簀子を敷き、その西に閼伽棚を作り、(室内は)北に寄せて障子を隔てて阿弥陀如来の絵像を安置し、そばに()(げん)()(さつ)を描いて(飾り)、前に法華経を置いている。

 

 

東の(わらび)のほとろを敷きて、夜の床とす。西南に竹の()(だな)(かま)へて、黒き(かわ)()三合(さんごう)を置け

 

際(きわ)=名詞、家柄・身分。端。時・場合。境目。

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

東の端にワラビが成長して伸びたものを敷いて、夜の寝床とする。西南に竹の吊り棚を作って、黒い(かわ)()りの(かご)三箱を置いてある。

 

 

すなはち、和歌、管絃(かんげん)、『(おう)(じょう)(よう)(しゅう)』ごときの(しょう)(もつ)を入れたり

 

抄物(しょうもつ)=名詞、書物の一部分などを抜き書きしたもの

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

そこで、和歌の本、管弦の本、『往生要集』のような抄物を入れている。

 

 

(かたわ)らに、(こと)琵琶(びわ)おのおの(いっ)(ちょう)を立つ。いはゆる(おり)(ごと)(つぎ)琵琶(びわ)これなり。仮の(いおり)の有様、かくのごとし。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形

 

かく(斯く)=副詞、こう、このように

 

そばに、琴、琵琶それぞれ一つずつを立ててある。いわゆる折琴、継ぎ琵琶がこれである。仮の庵の様子は、このようである。

 

その所のさまを言は、南に(けん)()あり。岩を立てて水をためたり

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

その(庵のある)場所の様子を言うならば、南に懸樋がある。岩を組み立てて水をためている。

 

 

林の木近けれ(つま)()を拾ふに(とも)しから。名を(おと)()(やま)といふ。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

林の木が近くにあるので、薪にする小枝を拾うのに不自由しない。(この場所の)名を音羽山という。

 

 

まさきの(かずら)、跡埋め。谷しげけれ、西晴れたり

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

まさきの蔓が、(人が通った)跡を埋めている。谷は(草木が)茂っているけれど、西の方は(見晴らしが良く)開けている。

 

 

観念のたよりなき しもあら

 

たより(便り・頼り)=名詞、良い機会、事のついで。手紙、消息。頼り所、縁故。便宜、手段。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は連用形

 

しも=強意の副助詞。強意なので訳す際には気にしなくても良い。「し」=強意の副助詞  「も」=強調の係助詞

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

西方の極楽浄土を念じる便宜がないわけではない。

 

 

春は藤波(ふじなみ)を見る。()(うん)のごとくして、西方ににほふ

 

にほふ=ハ行四段動詞「匂ふ(にほふ)」の終止形、美しく映える、美しく咲く。赤く色づく。匂いがする。嗅覚ではなく視覚的なことを意味しているので注意。

 

春は藤の花が波のように風に吹かれて揺れる様子を見る。(その様子は)紫雲のようで、西の方に美しく()える。

※紫雲(しうん)=名詞、阿弥陀仏が死者を迎えに行く時に乗る紫の雲

 

 

夏は郭公(ほととぎす)を聞く。語らふごとに、死出(しで)(やま)()契る

 

契る=ラ行四段動詞「契る(ちぎる)」の終止形、約束する。男女が関係を持つ。結婚する。

 

夏はホトトギスの鳴き声を聞く。(ホトトギスが話しかけてくるかのように)鳴くたびに、死出の旅路(の案内)を約束する。

※ホトトギス=名詞、死出の田長(しでのたをさ)とも呼ばれる鳥。人が死後に行く冥途(めいど)にあるという死出の山(しでのやま)から飛んでくる鳥。作者はこの鳥に、死んだ後の道案内を頼もうとしている。

 

 

秋はひぐらしの声、耳に満て空蝉(うつせみ)の世を悲しむほど聞こゆ。

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

秋はひぐらしの鳴き声が、耳に満ちあふれる。(その鳴き声は)はかないこの世を悲しむように聞こえる。

 

 

冬は雪をあはれぶ。積もり消ゆるさま、(ざい)(しょう)にたとへ べし

 

あはれぶ=バ行四段動詞「哀れぶ・憐れぶ(あはれぶ)」の終止形、しみじみと感じて賞美する。あわれむ。

 

つ=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

べし=可能の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

冬は雪をしみじみと賞美する。(雪が)積もっては消える様子は、罪障(が積もったり消えたりする様子)にたとえることができる。

※罪障(ざいしょう)=名詞、極楽往生・成仏の妨げとなる罪深い行い。

 

もし念仏もの憂く()(きょう)まめなら 時は、自ら休み、自ら(おこた)る。

 

もの憂く=ク活用の形容詞「もの憂し(ものうし)」の連用形、なんとなくいやだ、にくい、気に食わない、つらい。 「もの」は接頭語で「なんとなく」と言った意味がある。

 

まめなら=ナリ活用の形容動詞「忠実なり・実なり(まめなり)」の未然形、実用的だ。真面目だ、誠実だ。熱心だ、やる気がある。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は連体形

 

もし念仏(を唱えるの)が面倒で、読経をまじめにできない時は、自分の意志で休み、自分の意志で(なま)ける。

 

 

(さまた)ぐる人もなく、また、恥づべき人もなし。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

(それを)妨げる人もなく、また、恥ずかしいと思う人もいない。

 

 

ことさらに無言を ざれ ども、独りをれ ()(ごう)(おさ) べし

 

ことさらに=ナリ活用の形容動詞「殊更なり」の連用形、事を改めてするさま、わざわざ

 

せ=サ変動詞「す」の未然形

 

ざれ=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

をれ=ラ変動詞「居り(をり)」の已然形。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

つ=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

べし=可能の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

わざわざ無言の行をするのではないけれども、独りでいるので、言葉による罪を防ぐことができる。

※口業=名詞、口のわざわいによるの罪。口は災いのもと的なアレ。

 

 

必ず禁戒(きんかい)を守るとしもなくとも、境界なけれ、何につけて(やぶ)

 

しも=強意の副助詞。強意なので訳す際には気にしなくても良い。「し」=強意の副助詞  「も」=強調の係助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

か=反語の助動詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

必ず禁戒を守ろうとしなくても、(心を惑わす)環境がないので、何によって破るだろうか。(いや、破ることはない。)

※禁戒(きんかい)=名詞、仏道修行者が守るべき戒め。仏の禁じている戒め。

 

 

続きはこちら方丈記『日野山の閑居』解説・品詞分解(2)

 

原文・現代語訳のみはこちら方丈記『日野山の閑居』現代語訳(1)

 

方丈記『日野山の閑居』まとめ

 

 

 

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