「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら方丈記『養和の飢饉』(1)(2)(3)現代語訳
また養和のころとか、久しくなりて覚えず。
か=疑問の係助詞
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
また養和の頃であったか、長い時を経てしまったので覚えていない。
二年が間、世の中飢渇して、あさましき事侍り き。
あさましき=シク活用の形容詞「あさまし」の連体形。なさけない、嘆かわしい。驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。あまりのことにあきれる。
侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。
※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形
二年間、世間では飢饉が起こって、驚きあきれるようなひどい事がありました。
※飢饉(ききん)=農作物が十分に実らず、食料不足となること。
あるいは春・夏、日照り、あるいは秋、大風・洪水など、よから ぬ事どもうち続きて、五穀ことごとくならず。
よから=ク活用の形容詞「良し」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
ある年は春・夏に干ばつ、ある年は秋に大風・洪水などと、悪いことが続いて、穀物はまったく実らない。
むなしく春かへし、夏植うる営みありて、秋刈り、冬収むるそめきはなし。
むなしく=シク活用の形容詞「空し・虚し(むなし)」の連用形、無駄だ、かいがない。何もない、空っぽである。はかない。
植うる=ワ行下二動詞「植う(うう)」の連体形、ワ行下二段活用の動詞は「植う(うう)」・「飢う(うう)」・「据う(すう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
むなしく春に(田畑を)耕し、夏に(苗を)植える仕事があっても、秋に刈り取り、冬に収納するというにぎわいはない。
これによりて国々の民、あるいは地を捨てて境を出で、あるいは家を忘れて山に住む。
このために国々の民は、ある者は土地を捨てて国境を越え、ある者は家を捨てて山に住んだ。
さまざまの御祈りはじまりて、なべて なら ぬ法ども行はるれ ど、さらにその験なし。
なべて(並べて)=副詞、一般に、すべて、並ひととおり、ふつう
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
るれ=受身の助動詞「る」の已然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
さらに=下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。ここでは「なし」が打消語
験(しるし)=名詞、効き目、効能。霊験、ご利益。目印。
(朝廷では)さまざまな御祈祷が始まって、並々でない修法などが行われるけれど、まったくその効果はない。
京のならひ、何わざにつけても、みな、もとは田舎をこそ 頼め る に、
何わざ=名詞
わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会
こそ=強調の係助詞。結びは已然形となるが、係り結びの消滅が起こっている。本来の結びは「る(存続の助動詞)」の部分であるが、接続助詞「に」が来ているため、結びの部分が消滅してしまっている(=文末ではなくなっている)。これを「係り結びの消滅(流れ)」と言う。
たのめ=マ行四段動詞「頼む」の已然形。頼みに思う、あてにする。 直後に完了・存続の助動詞「り」が来ていることから已然形であり、四段活用だと判断する。
※四段活用と下二段活用の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わ、「頼みに思わせる、あてにさせる」といった意味になる。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。本来なら「こそ」を受けて已然形になるはずだったが、接続助詞「に」があるために連体形となっている。係り結びの消滅(流れ)。
に=接続助詞
京の町の習慣は、何事につけても、全て、(生活の)根本は地方を頼りにしているのに、
絶えて上るものなければ、さのみや は操もつくりあへん。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
さ=副詞、そう、その通りに、そのように。
や=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
(地方から京へ)全く上がってくるものがないので、(京の人達も)そのようにばかり体裁を保っていられようか。(いや、いられない。)
念じわび つつ、さまざまの財物かたはしより捨つるがごとくすれども、さらに目見立つる人なし。
念じわび=バ行上二段動詞「念じ侘ぶ(ねんじわぶ)」の連用形
念ず=サ変動詞、我慢する、耐え忍ぶ。 「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
侘ぶ(わぶ)=バ行上二段動詞、困る、つらいと思う、寂しいと思う。
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」の意味。
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
さらに=下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。ここでは「なし」が打消語
なし=ク活用の形容詞「無し」の終止形
がまんできなくなっては、さまざまな財物を片っ端から捨てるかのように(食料と交換しようと)するけれども、まったく目をとめる人もいない。
たまたま換ふるものは、金を軽くし、粟を重くす。乞食、路のほとりに多く、憂へ悲しむ声耳に満てり。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
たまたま交換する者は、財物を軽んじ、穀物を重んじる。乞食は、道ばたに多く、嘆き悲しむ声がいたるところから聞こえた。
続きはこちら方丈記『養和の飢饉』(2)解説・品詞分解