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宇治拾遺物語『保昌と袴垂』(2)解説・品詞分解

   

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

宇治拾遺物語『保昌と袴垂』まとめ

 

 

かやうに、あまたたびとざまかうざまにするに、つゆばかりも騒ぎたる けしきなし。

 

あまたたび=副詞、何度も、たびたび

あまた(数多)=副詞、たくさん、大勢

 

つゆばかり=副詞、「つゆばかり」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる。ここでは「なし」が打消語

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。

 

このように、何度もあれやこれやとするが、少しもあわてる様子がない。

 

 

希有(けう)の人かなと思ひて、十余町ばかり 具して行く。

 

かな=詠嘆の終助詞

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

具し=サ変動詞「具す(ぐす)」の連用形、引き連れる、一緒に行く、伴う。持っている。

 

珍しい人であるなあと(袴垂は)思って、十町あまりほど後をつけて行く。

 

 

さりとてあら  と思ひて、刀を抜きて走りかかりたる時に、

 

さりとて(然りとて)=接続詞、そうかといって、だからといって、それにしても

 

ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

や=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

そうかといってこのままでいられようかと思って、刀を抜いて走りかかった時に、

 

 

そのたび笛を吹きやみて、立ち返りて、「こは、何者。」と問ふに、心も失せて、我もあら、ついゐられ 

 

ぞ=強調の係助詞、あるいは終助詞

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

られ=自発の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

その時は笛を吹くのをやめて、振り返って、「お前は何者だ。」と問うので、(袴垂は)呆然として、正気も失って、膝をついて座ってしまった。

 

また、「いかなる。」と問へ、今は逃ぐともよも逃がさおぼえ けれ 

 

いかなる=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。どのようだ、どういうふうだ

 

ぞ=強調の係助詞、あるいは終助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

よも=副詞、下に打消推量の助動詞「じ」を伴って、「まさか~、よもや~、いくらなんでも~」。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ/覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

また、「どういう者だ。」と問うと、今は逃げようともよもや逃がしはするまいと思われたので、

 

 

()() 候ふ。」と言へ、「何者ぞ。」と問へ

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の終止形、丁寧語

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

「追いはぎでございます。」と言うと、「何者だ。」と問うので、

 

 

(あざな)(はかま)(だれ)なん言は 候ふ。」と答ふれ 

 

なん(なむ)=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の連体形、丁寧語。係助詞「なん(なむ)」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

答ふれ=ハ行下二段動詞「答ふ」の已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

「通称は、袴垂と言われております。」と答えると、

 

 

 いふ者ありと聞くぞ。あやふげに、希有(けう)のやつかな。」と言ひて、

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

いふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形

 

かな=詠嘆の終助詞

 

「そういう者がいると聞いているぞ。物騒で、とんでもない奴だなあ。」と言って、

 

 

「ともにまうで来。」とばかり言ひかけて、また同じやうに笛吹きて行く。

 

まうで来(こ)=カ変動詞「参で来・詣で来(まうでく)」の命令形、「来」の謙譲語

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

「一緒について参れ。」とだけ声をかけて、また同じように笛を吹いて行く。

 

 

この人のけしき、今は逃ぐともよも逃がさおぼえ けれ 

 

気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。

 

よも=副詞、下に打消推量の助動詞「じ」を伴って、「まさか~、よもや~、いくらなんでも~」。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ/覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

この人の様子は、今は逃げようともよもや逃がしはするまいと思われたので、

 

 

鬼に神取ら たるやうにて、ともに行くほどに、家に行き着き

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

鬼に魂を取られたようになって、一緒に行くうちに、家に行き着いた。

 

 

いづこぞと思へ、摂津前司保昌といふ人なり けり

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

どこかと思うと、摂津の前の国司であった藤原保昌(ふじわらのやすまさ)という人であった。

 

家のうちに呼び入れて、綿厚き衣一つを給はりて、「衣の用あら時は、参り申せ

 

給はり=ラ行四段動詞「給はる・賜はる(たまはる)」の連用形、「与ふ」の尊敬語、お与えになる、くださる。「受く・貰ふ」の謙譲語、いただく、頂戴する。

 

ん=仮定の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。訳:「(もしも)着物が必要な時は、」

 

参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語

 

申せ=サ行四段動詞「申す」の命令形、「言ふ」の謙譲語

 

家の中に呼び入れて、綿の厚い着物一着をお与えになって、「着物が必要な時は、(ここに)参って申せ。

 

 

心も知らざら 人に取りかかりて、、あやまち 。」とあり こそあさましくむくつけく、恐ろしかりしか

 

ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形

 

ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。訳:「分からない(ような)人」

 

汝(な・なんぢ・なんじ)=名詞、おまえ

 

す=サ変動詞「す」の終止形、する。

 

な=禁止の終助詞

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

あさましく=シク活用の形容詞「あさまし」の連用形、驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。あまりのことにあきれる。なさけない。

 

むくつけく=ク活用の形容詞「むくつけし」の連用形、気味が悪い、不気味だ。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

気心も分からないような人に襲いかかって、おまえ、しくじるな。」とあったのは、驚きあきれ、気味が悪く、恐ろしかった。

 

 

いみじかり 人のありさまなり。」と、()らへられて後、語りける

 

いみじかり=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

「とても立派な人の様子であった。」と、捕らえられた後、(袴垂は)語ったということだ。

 

 

宇治拾遺物語『保昌と袴垂』(1)(2)現代語訳

 

宇治拾遺物語『保昌と袴垂』まとめ

 

 

 

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