「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら大鏡『競べ弓(弓争い・競射)』(導入・締めくくり)解説・品詞分解
本編はこちら大鏡『競べ弓(弓争い・競射)』(本編)現代語訳
『導入』
世間の光にておはします殿の、一年ばかり、ものを安からず思し召したりしよ。
世間の光でいらっしゃる殿(=藤原道長)が、一年ほど、(伊周よりも出世が遅れて)心中穏やかでなくお思いでいらっしゃったよ。
いかに天道御覧じけむ。
(このことを)どのように天帝はご覧になったのでしょうか。
さりながらも、いささか逼気し、御心やは倒させ給へりし。
しかしながら、(道長は)少しでも卑屈になったり、悲観なさったりしたでしょうか。(いや、そのようなことはありませんでした。)
朝廷ざまの公事・作法ばかりにはあるべきほどにふるまひ、時違ふことなく勤めさせ給ひて、
朝廷の公務や儀式だけには分相応にふるまい、時間を間違えることなくお勤めになって、
内々には、所も置き聞こえさせ給はざりしぞかし。
(一方)私生活では、全くご遠慮申し上げたりはなさいませんでしたよ。
『締めくくり』
今日に見ゆべきことならねど、人の御さまの、言ひ出で給ふことの趣より、
今日ただちに実現するはずのことではないけれど、人(=道長)のご様子や、言い出しなさったことの内容から、
かたへは臆せられ給ふなんめり。
そばにいる人は自然と気おくれなさったことであるようだ。