「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
①武士道とは、お金を失くしても友人を疑わないこと。
原文・現代語訳のみはこちら西鶴諸国ばなし『大晦日は合はぬ算用』(1)(2)現代語訳
榧・かち栗・神の松・やま草の売り声もせはしく、餅つく宿の隣に、煤をも払はず、二十八日まで髭もそらず、朱鞘の反りを返して、
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。もう一つの「ず」も同じ。
榧、かち栗、神の松、やま草の売り声も忙しく、餅をつく家の隣で、煤払い(などの大掃除)もせず、二十八日まで髭もそらず、朱塗りの鞘の刀の反りを返して、
「春まで待てと言ふに、是非に待たぬ か。」と、米屋の若い者をにらみつけて、直なる今の世を、横に渡る男あり。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
か=疑問の係助詞
「(支払いは)春まで待てと言うのに、どうして待たないのか。」と、(代金を取り立てにきた)米屋の若い者をにらみつけて、まっすぐな(正しい)政治が行われている今の世を、世間に迷惑をかけて暮らす男がいる。
※対句:「直なる」⇔「横にわたる」
名は原田内助と申して、かくれもなき浪人。
名は原田内助と申して、よく知られた浪人(である)。
広き江戸にさへ住みかね、この四、五年、品川の藤茶屋のあたりに棚借りて、朝の薪にことを欠き、夕べの油火をも見ず。
さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
広い江戸にさえ住めなくなり、この四、五年は、品川の藤茶屋の辺りに借家を借りて、朝の(炊事用の)薪にも不自由し、夜の灯火の油もない。
これはかなしき年の暮れに、女房の兄、半井清庵と申して、神田の明神の横町に薬師あり。
こんなかなしい年の暮れに、(原田内助には)女房の兄で、半井清庵と申して、神田明神の横町に(住んでいる)医者がいた。
このもとへ、無心の状を遣はし けるに、たびたび迷惑ながら、見捨てがたく、
遣はし=サ行四段動詞「遣はす(つかはす)」の連用形、「遣る」・「与ふ」・「贈る」の尊敬語。派遣する、使いを送る。(物を)お与えになる。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
(原田内助は)この(義理の兄である医者の半井清庵)もとへ、金品をねだる手紙を送ったところ、(半井清庵にとっては)たびたびのことで迷惑ではあるけれども、見捨てにくく、
金子十両包みて、上書きに、「貧病の妙薬、金用丸、よろづによし。」と記して、内儀の方へおくられ ける。
よろづ(万)=名詞、すべてのこと、あらゆること。
内儀(ないぎ)=名詞、他人の妻の敬称
れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
金子十両を包んで、上書きに、「貧乏という病に効く妙薬、金用丸、あらゆる病気に効く。」と記して、(原田内助の)妻のところへ送った。
内助喜び、日ごろ別して語る浪人仲間へ、「酒一つ盛らん。」と、呼びに遣はし、
ん=勧誘の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
遣はし=サ行四段動詞「遣はす(つかはす)」の連用形、「遣る」・「与ふ」・「贈る」の尊敬語。派遣する、使いを送る。(物を)お与えになる。
内助は喜び、ふだん特に親しくしている浪人仲間へ、「酒をちょっと盛ろう。」と、呼びにやり、
幸ひ雪の夜のおもしろさ、今までは崩れ次第の柴の戸を開けて、「さあ、これへ。」と言ふ。
幸い雪の夜で趣(もあり)、今までは崩れたままになっていた柴の戸を開けて、「さあ、こちらに。」と言う。
以上七人の客、いづれも紙子の袖をつらね、時なら ぬ一重羽織、どこやら昔を忘れず。
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
全員で七人の客は、いずれも紙子(=粗末な着物)を着て、季節外れの一重羽織(であるが)、どことなく昔(のたしなみ)を忘れていない。
常の礼儀すぎてから、亭主まかり出でて、「私、仕合はせの合力を請けて、思ひままの正月をつかまつる。」と申せ ば、
まかり出で=ダ行下二段動詞「まかり出づ」の連用形
罷る(まかる)=ラ行四段動詞、謙譲語。退出する。参る。
合力(こうりょく)=名詞、金銭などの援助
つかまつる=ラ行四段動詞「仕奉る(つかまつる)」の終止形、(謙譲語)お仕えする、~し申し上げる、いたす。
申せ=サ行四段動詞「申す」の已然形、「言ふ」の謙譲語
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
型どおりのあいさつが済んでから、亭主(=原田内助)が参上して、「私は、運の良い援助を受けて、思い通りの正月をいたします。」と申すと、
おのおの、「それは、あやかりもの。」と言ふ。
それぞれ、「それは(良いことだ)、あやかりたいものだ。」と言う。
「それにつき、上書きに一作あり。」と、くだんの小判を出だせば、
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
(原田内助が、)「それについて、この上書きに(おもしろい)一作があります。」と(言って)、例の小判を出すと、
「さても軽口なる御事。」と、見て回せば、杯も数かさなりて、
さても=感動詞、なんともまあ、それにしてもまあ。副詞、そういう状態でも、それにしても、そのままでも、そうであっても。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
(客たちは、)「なんともまあ、軽妙な事。」と、見て回すうちに、杯の数も重なって、
「よい年忘れ、ことに長座。」と、千秋楽を謡ひ出し、燗鍋・塩辛壺を手ぐりにしてあげさせ、
させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
「よい年忘れで、ことさらに長居(をしてしまった)。」と、千秋楽の句をうたい出し、燗鍋や塩辛の壺を手渡しして片付けさせ、
※千秋楽=謡曲「高砂」の終わりの部分。宴会などの終わりのあいさつとしてうたわれたりする。
「小判もまづ、御しまひ候へ。」と集むるに、十両ありしうち、一両足らず。
候へ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さうらふ)」の命令形、丁寧語
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
「小判もまず、おしまいください。」と(言って、)集めたところ、十両あったうち、一両が足りない。
座中居直り、袖などふるひ、前後を見れども、いよいよないに極まりける。
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
その場の皆座り直し、袖などをふるい、前後を見るけれども、いよいよ無いという結論になった。
続きはこちら西鶴諸国ばなし『大晦日は合はぬ算用』(2)解説・品詞分解