古文

更級日記『物語(源氏の五十余巻)』(1)解説・品詞分解 「その春、世の中~

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら更級日記『物語(源氏の五十余巻)』(1)現代語訳

 

 

その春、世の中いみじう騒がしうて、松里の渡りの月影あはれに乳母(めのと)も、三月(やよひ)一日に亡くなり

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

 

月影=名詞、月明かりに照らし出された姿。月光。

影(かげ)=名詞、姿、形。光。鏡や水などに移る姿、映像

 

あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じられる、しみじみと思う、しみじみとした情趣がある。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

その春は、伝染病が流行して世の中がひどく騒然として、松里の渡し場での月明かりに照らし出された姿をしみじみと見た乳母も、三月一日に亡くなってしまった。

 

 

せむかたなく思ひ嘆くに、物語のゆかしさおぼえ  なり 

 

せむかたなく=ク活用の形容詞「せむ方なし」の連用形、どうしようもない、仕方がない。

「せ(サ変動詞・未然形)/む(婉曲の助動詞・連体形)/方(名詞、方法)/無し(ク活用形容詞)」で、直訳すると「するような方法がない。

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。「む」は、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後にあるのが体言であれば婉曲になりがち。

 

ゆかしさ=名詞、心が引かれる感じ、憧れるという気持ち

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の未然形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)感じられ」

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

どうしようもなく思い嘆いていると、物語を読みたいという気持ちも感じられなくなってしまった。

 

 

いみじく泣き暮らして見出だしたれ 、夕日のいと華やかに差したるに、桜の花残りなく散り乱る。

 

いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

 

たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ひどく泣き暮らして、(ふと)外を見たところ、夕日がたいそう華やかに差している場所に、桜の花が余すことなく散り乱れている。



 

散る花も  また来む春は  見もやせむ  やがて別れし  人ぞ悲しき

 

来(こ)=カ変動詞「来(く)」の未然形

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

訳:「やってくる(ような)春」

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

やがて=副詞、すぐに。そのまま。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

悲しき=シク活用の形容詞「悲し」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

散る花も、また再びやってくる春には見ることもできるだろう。(しかし、)そのまま別れてしまった人(=乳母)は、もう二度と会えず、悲しいことだ。

 

 

また聞け、侍従の大納言の御(むすめ)、亡くなりたまひ  なり

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

たまひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である侍従の大納言の御女を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

なり=伝聞の助動詞「なり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「なり」には「伝聞・推定」の意味があるが近く(「なり」よりも前の位置)に音声語が無い時は伝聞の意味になる可能性が高い。直前に終止形があるので、「断定・存在」の助動詞「なり(接続は体言・連体形)」ではない。

 

また聞くところによると、侍従の大納言の姫君が、お亡くなりになったそうだ。

 

 

殿の中将の思し嘆く なるさま、わがものの悲しき なれ いみじく あはれなりと聞く。

 

思し嘆く=カ行四段動詞「思し嘆く(おぼしなげく)」の終止形、「思ひ嘆く」の尊敬語。動作の主体である殿の中将を敬っている。作者からの敬意。

 

なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。

 

折(をり)=名詞、時、場合、機会

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

 

あはれなり=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

(夫の)殿の中将が思い嘆かれるさまは、私自身も(乳母の死で)悲しんでいる時であったので、非常にお気の毒なことだと(思って)聞いた。

 

 

上り着きたり とき、「これ手本にせよ。」とて、この姫君の御手を取らせ たり を、

 

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形。もう一つの「たり」も同じ。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。もう一つの「し」も同じ。

 

手=名詞、筆跡、文字。手、手段。

 

取らせ=サ行下二段動詞「取らす」の連用形、受け取らせる、与える

 

京に上り到着したとき、(ある人が)「これを手本にしなさい。」と言って、この姫君のご筆跡を与えてくれたが、

 

 

小夜(さよ)ふけて  寝覚めざり  」など書きて、

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

せ=過去の助動詞「き」の未然形、接続は連用形。過去の助動詞「き」の未然形「せ」は反実仮想の構文のときしか使われない。

「AせばBまし。」=「もしAだったならば、Bだっただろうに。」 

「まし」は反実仮想の助動詞であり、「AましかばBまし。」とするが、「ましか」の部分を「せ」に変えて用いる場合もあるということである。

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

(それには)「もし夜が更けて目覚めなかったなら」などと書いてあって、



 

(とり)()(やま)  谷に煙の  燃え立た   はかなく 見え   われと知らなむ」と、

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

はかなく=ク活用の形容詞「はかなし」の連用形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。

 

見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なむ=願望の終助詞。接続は未然形。~てほしい、~てもらいたい。

 

(他にも)「もしも鳥部山の谷に(火葬の)煙が立ったら、弱々しく見えていた私(の火葬の煙)だと思ってほしい」と(も書いてあって)、

 

 

言ひ知ら をかしげにめでたく書きたまへ を見て、いとど涙を添へまさる

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

をかしげに=ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の連用形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。美しい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招く(をく)」が形容動詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

めでたく=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形、みごとだ、すばらしい、立派だ。魅力的だ、心惹かれる。

 

たまへ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である侍従の大納言の御女を敬っている。作者からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに。

 

添へまさる=ラ行四段動詞「添へまさる」の終止形

増さる(まさる)=ラ行四段動詞、増える、強まる。

 

何とも言えず趣深い様子で、すばらしく書いていらっしゃる歌を見て、いっそう涙をそそられる。

 

 

続きはこちら更級日記『物語(源氏の五十余巻)』(2)解説・品詞分解 「かくのみ思ひくんじたるを~

 

更級日記『物語(源氏の五十余巻)』まとめ

 

 

 

-古文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5