「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
まだ=副詞
さる=連体詞、あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
ほど=名詞
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
も=係助詞
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
と=格助詞
皆人=名詞
も=係助詞
たゆみ=マ行四段動詞「弛む(たゆむ)」の連用形、ゆるむ。油断する、心がゆるむ。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である皆人を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
に=接続助詞
まださるべきほどにもあらずと、皆人もたゆみ給へるに、
まだそうであるはずの時(=出産の時)ではないと、皆が油断なさっていると、
にはかに=ナリ活用の形容動詞「にはかなり」の連用形、急なさま、突然だ。
御気色=名詞
気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
て=接続助詞
悩み=マ行四段動詞「悩む」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
にはかに御気色ありて、悩み給へば、
急に産気づかれて、お苦しみになるので、
いとどしき=シク活用の形容詞「いとどし」の連体形、ますます激しい、いよいよ甚だしい。
御祈禱(いのり)=名詞
数=名詞
を=格助詞
尽くし=サ行四段動詞「尽くす」の連用形
て=接続助詞
せ=サ変動詞「す」の未然形、する。
させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。作者からの敬意。
れ=存続の助動詞「り」の已然形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
いとどしき御祈禱、数を尽くしてせさせ給へれど、
さらに強力な御祈禱を、数を尽くしてさせなさるけれど、
例=名詞
の=格助詞
執念き=ク活用の形容詞「執念し」の連体形、執念深い、しつこい。頑固だ、強情だ。
御物の怪(もののけ)=名詞
一つ=名詞
さらに=副詞、下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。ここでは「ず」が打消語
動か=カ行四段動詞「動く」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
やむごとなき=ク活用の形容詞「やむごとなし」の終止形、捨てておけない。格別だ。尊い。大切である、貴重だ。
験者ども=名詞
験者(げんざ)=名詞、修験者
めづらかなり=ナリ活用の形容動詞「めづらかなり(めづらかなり)」の終止形、珍しい、普通とは違う
と=格助詞
もてなやむ=マ行四段動詞「もて悩む」の終止形、もてあます、処置に困る、困惑する。
例の執念き御物の怪一つ、さらに動かず、やむごとなき験者ども、めづらかなりともてなやむ。
例の執念深い物の怪の一つが、まったく動かず、尊い修験者たちは、珍しいことだと処置に困る。
さすがに=副詞、そうはいうもののやはり、そうはいってもやはり
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
調ぜ=サ変動詞「調ず(ちょうず)」の未然形、(悪霊などを)追い払う、調伏する。作る。料理する。
られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
て=接続助詞
心苦しげに=ナリ活用の形容動詞「心苦しげなり」の連用形
泣きわび=バ行上二段動詞「泣き侘ぶ」の連用形
侘ぶ(わぶ)=バ行上二段動詞、困る、つらいと思う、寂しいと思う。
て=接続助詞
さすがに、いみじう調ぜられて、心苦しげに泣きわびて、
そうはいってもやはり、ひどく調伏されて、(物の怪は)つらそうに泣き苦しんで、
すこし=副詞
ゆるべ=バ行下二段動詞「緩ぶ・弛ぶ(ゆるぶ)」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の命令形、尊敬語。動作の主体である験者どもを敬っている。物の怪(=六条の御息所)からの敬意。
や=間投助詞。用法は呼びかけ。
大将=名詞
に=格助詞
聞こゆ=ヤ行下二動詞「聞こゆ」の終止形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である大将(=光源氏)を敬っている。物の怪(=六条の御息所)からの敬意。
べき=意志の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
こと=名詞
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
と=格助詞
のたまふ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の終止形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である物の怪(=六条の御息所)を敬っている。作者からの敬意。
「すこしゆるべ給へや。大将に聞こゆべきことあり。」とのたまふ。
「(祈禱を)少しおゆるめください。大将に申し上げたい事がある。」と(物の怪は)おっしゃる。
さればよ=接続詞、はたしてそうだ、思った通りだ。「され(ラ変動詞・已然形)/ば(接続助詞)/よ(間投助詞)」
ある=ラ変動詞「あり」の連体形
やう(様)=名詞、わけ、理由。様式、手本。形、姿。方法。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
て=接続助詞
近き=ク活用の形容詞「近し」の連体形
御几帳(みきちょう)=名詞
の=格助詞
もと=名詞
に=格助詞
入れ=ラ行下二段動詞「入る」の連用形
たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
「さればよ。あるやうあらむ。」とて、近き御几帳のもとに入れたてまつりたり。
「思った通りだ。何かわけがあるのだろう。」と(その場に居た者は)言って、近くの御几帳のところに(光源氏を)お入れ申し上げた。
むげに=ナリ活用の形容動詞「無下なり(むげなり)」の連用形、言いようもなくひどい、どうしようもない
限り=名詞
の=格助詞
さま=名詞
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ものし=サ変動詞「物す(ものす)」の連用形、代動詞、「~する」、ある、いる、行く、来る、生まれる、などいろいろな動詞の代わりに使う。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。
を=接続助詞
むげに限りのさまにものし給ふを、
どうしようもなく(生命の)末期の状態でいらっしゃるので、
聞こえ置か=四段動詞「聞こえ置く」の未然形、「言ひ置く(言い残す)」の謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
まほしき=希望・願望の助動詞「まほし」の連体形、接続は未然形
こと=名詞
も=係助詞
おはする=サ変動詞「おはす」の連体形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
や=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あら(ラ変・未然形)む(推量の助動詞・連体形)」が省略されていると考えられる。係り結びの省略。
訳:「にや(あらむ)」→「であろうか」
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
と=格助詞
て=接続助詞
聞こえ置かまほしきこともおはするにやとて、
(葵の上は最後に光源氏に)申し上げておきたいことでもおありになるのであろうかと思って、
大臣(おとど)=名詞
も=係助詞
宮(みや)=名詞
も=係助詞
すこし=副詞
退き=カ行四段動詞「退く」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である大臣と宮を敬っている。作者からの敬意。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
大臣も宮もすこし退き給へり。
(気を遣って)大臣も宮も少しお退きになった。
加持(かじ)=名詞
の=格助詞
僧ども=名詞
声=名詞
静め=マ行下二段動詞「静む」の連用形
て=接続助詞
法華経(ほけきょう)=名詞
を=格助詞
誦み=マ行四段動詞「誦む(よむ)」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。
尊し=ク活用の形容詞「尊し」の終止形
加持の僧ども、声静めて法華経を誦みたる、いみじう尊し。
加持の僧たちが、声を静かにして法華経を読んでいる様子は、たいそう尊い。
続きはこちら源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』品詞分解のみ(2)御几帳の帷子引き上げて見たてまつり給へば、~