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平家物語『木曾の最期』(3)現代語訳

   

「黒=原文」・「青=現代語訳

解説・品詞分解はこちら平家物語『木曾の最期』(3)解説・品詞分解

 

 

今井四郎ただ一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り、(あぶみ)踏んばり立ち上がり、大音声あげて名のりけるは、

 

今井四郎はたったの一騎で、五十騎ほどの敵の中へ駆け入り、(重たい)鎧を踏ん張って立ち上がり、大声をあげて名のったことには、

 

 

「日ごろは音にも聞きつらん、今は目にも見たまへ。

 

「ふだんはうわさでも聞いていたであろう、今は(自分の)目で見なされ、

 

 

木曾殿の(おん)乳母(めのと)()、今井四郎兼平、生年三十三にまかりなる。

 

木曽殿の御乳母子、今井四郎兼平、年は三十三になり申す。

 

 

さる者ありとは鎌倉殿までも知ろし召されたるらんぞ。兼平討つて見参(げんざん)に入れよ」とて、

 

そういう者がいるということは、鎌倉殿(=頼朝)までもご存じであろうぞ。(この)兼平を討ち取って(首を鎌倉殿の)お目にかけよ。」と言って、

 

 

射残したる()(すぢ)の矢を、差しつめ引きつめ、さんざんに射る。死生は知らず、やにはに敵八騎射落とす。

 

射残した八本の矢を、とにかく矢を弓につがえて、次々に射る。生死は分からないが、たちまちに敵を八騎射落とした。

 

その後打ち物抜いて、あれに()せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて回るに、(おもて)を合はする者ぞなき。分捕りあまたしたりけり。

 

その後は刀を抜いて、あちらに馬を走らせて戦い、こちらに馬を走らせて戦い、切って回るが、面と向かって相手になる者はいない。敵の首を取ることたくさんした。

 

 

ただ、「射取れや。」とて、中に取りこめ、雨の降るやうに射けれども、

 

(敵は)ただ、「射殺せよ。」と言って、(兼平を)中に取り囲んで、雨が降るように射たけれど、

 

 

(よろい)よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。

 

鎧がよいので(矢が)鎧の裏まで通らず、(鎧の)すきまを射ないので、(兼平は)傷も負わない。

 

 

木曾殿はただ一騎、粟津の松原へ駆けたまふが、正月二十一日、入相(いりあい)ばかりのことなるに、(うす)(ごおり)張つたりけり。

 

木曽殿はたったの一騎で、粟津の松原へ馬を走らせなさるが、一月二十一日の、夕暮れ時のことであるうえに、(田の表面に)薄氷が張っていた。

 

 

(ふか)()ありとも知らずして、馬をざつと打ち入れたれば、馬の頭も見えざりけり。

 

底の深い田があるとも知らずに、馬をさっと乗り入れたので、(沈み込んで)馬の頭も見えなくなった。

 

 

あふれどもあふれども、打てども打てども働かず。

 

いくら馬の腹を蹴ってあおっても、どんなにむちで打っても(馬は)動かない。

 

 

今井が行方のおぼつかなさに、振り仰ぎたまへる(うち)(かぶと)を、三浦の(いし)(だの)()(ろう)(ため)(ひさ)、追つかかつて、よつ引いて、ひやうふつと射る。

 

(木曽殿は)今井の行方が気がかりで、振り向き見上げなさった甲の内側を、三浦の石田次郎為久が、追いついて、弓をよく引いて、ひゅうふっと射た。

 

 

痛手なれば、(まっ)(こう)を馬の頭に当ててうつぶしたまへるところに、石田が郎等二人落ち合うて、つひに木曾殿の首をば取つてんげり。

 

深い傷なので、甲の正面を馬の頭に当ててうつ伏しなさったところに、石田の家来が二人来合せて、ついに木曽殿の首を取ってしまった。

 

太刀の先に貫き、高くさし上げ、大音声をあげて、

 

(首を)太刀の先に貫いて、高くさし上げ、大声をあげて、

 

 

「この日ごろ日本国に聞こえさせたまひつる木曾殿を、三浦の石田次郎為久が討ち奉りたるぞや。」と名のりければ、

 

「このごろ日本国に名声が知れわたっていらっしゃった木曽殿を、三浦の石田次郎為久が討ち取り申し上げたぞ。」と名のったので、

 

 

今井四郎、いくさしけるが、これを聞き、「今は(たれ)をかばはんとてか、いくさをもすべき。

 

今井四郎は、戦っていたが、これを聞き、「今となっては誰をかばおうとして、いくさをする必要があろうか。(いや、ない。)

 

 

これを見たまへ、東国の殿ばら、日本一の(こう)の者の自害する手本。」とて、

 

これをご覧なされ、東国のかたがた、日本一の強者が自害する手本だぞ。」と言って、

 

 

太刀の先を口に含み、馬よりさかさまに飛び落ち、(つらぬ)かつてぞ失せにける。

 

太刀の先を口に含み、馬から逆さまに飛び落ち、(自ら首を)貫いて死んでしまった。

 

 

さてこそ粟津のいくさはなかりけれ。

 

そうして粟津のいくさは終わった。

 

 

平家物語『木曾の最期』まとめ

 

 

 

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