古文

大鏡『雲林院の菩提講』解説・品詞分解(3)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら大鏡『雲林院の菩提講』現代語訳(3)

 

(しげ)()と名のるが方ざまに見やりて、

 

見やり=ラ行四段動詞「見遣る(みやる)」の連用形、遠くを(望み)見る、その方を見る。

 

(侍が)繁樹と名乗る(老人の)方に目を向けて、

 

 

「『いくつといふこと覚え。』と言ふめり

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

「(あなたは)『何歳かということは覚えていない。』と言ったようですね。

 

 

この(おきな)どもは覚えたぶ 。」と問へ

 

たぶ=補助動詞バ行四段「給ぶ・賜ぶ(たぶ)」の終止形、尊敬語。

 

や=疑問の係助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

こちらのご老人は覚えていらっしゃいますか。」と尋ねると、

 

 

さらにもあら。一百九十歳に、今年はなり 侍り ぬる

 

さらに=下に打消語を伴って、「まったく~ない、決して~ない」。ここでは「ず」が打消語

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

「言うまでもありません。百九十歳に、今年なりました。

 

 

されば、繁樹は百八十におよびてこそ さぶらふ らめ やさしく 申す なり

 

されば=接続助詞、それゆえ、それで、そうであれば、だから。そもそも、いったい

 

こそ=強調の係助詞。結びは已然形となるが、係り結びの消滅が起こっている。本来の結びは「らめ」の部分であるが、接続助詞「ど」が来ているため、結びの部分が消滅してしまっている。これを「係り結びの消滅(流れ)」と言う。「らめ」は已然形だが、これは「ど」を受けてのものである。

 

さぶらふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さぶらふ)」の終止形、丁寧語。

 

らめ=現在推量の助動詞「らむ」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

やさしく=シク活用の形容詞「やさし」の連用形、優雅だ、風流だ、上品だ。身が痩せる細るようだ、つらい。けなげだ、感心だ。

 

申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

そうすると、繁樹は百八十歳になっているのでしょうけれど、上品に(覚えていないと)申しているのです。

 

 

おのれは水尾(みずのお)(みかど)おり おはします年の、()(つき)(もち)の日生まれて侍れ 

 

おり=ラ行上二段動詞「下る(おり)」の連用形

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の連体形、尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。

 

侍れ=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の已然形、丁寧語。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

私は水尾の帝が退位なさる年の、正月の望の日(=十五日)に生まれましたので、

 

 

十三代にあひたてまつり侍る なり

 

たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。

 

侍る=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連体形、丁寧語。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

十三代の天皇にお会い申し上げています。

 

 

けしうさぶらは なり 。まことと人思さ 

 

けしう=シク活用の形容詞「怪し(けし)」の連用形が音便化したもの、悪い、異常だ、異様だ。変だ、不思議だ。

 

さぶらは=補助動詞ハ行四段「候ふ(さぶらふ)」の未然形、丁寧語。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

な=詠嘆の終助詞

 

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形。「思ふ」の尊敬語。

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

悪くはない年ですよ。本当のことだとは誰も思わないでしょう。



 

されど、父が(なま)(がく)(しょう)に使は たいまつりて、

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

たいまつり=補助動詞ラ行四段「奉る(たいまつる)」の連用形、謙譲語。

 

しかし、父が大学寮の若い学生に使われておりましたので、

 

 

下﨟 なれ ども都ほとり』といふことなれ 、目を見給へて、

 

下臈(げろう)=名詞、身分の低い者

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

給へ=補助動詞ハ行下二段「給ふ」の連用形、謙譲語。

※「給ふ(たまふ)」は四段活用と下二段活用の二つのタイプがある。四段活用のときは『尊敬語』、下二段活用のときは『謙譲語』となるので注意。下二段活用のときには終止形と命令形にならないため、活用形から判断できる。四段と下二段のそれぞれに本動詞・補助動詞としての意味がある。

※ここでは直後に接続助詞の「て」が来ていることから連用形だと判断し、下二段だと分かる。

 

『身分の低い者でも都の近く(に住む者は見聞が広い)』ということなので、文字が読めまして、

 

 

(うぶ)(ぎぬ)に書き置きて侍り ける、いまだ侍り(ひのえ)(さる)の年 侍り。」

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の終止形、「あり・居り」の丁寧語。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の終止形、丁寧語。

 

産衣に(私が生まれた日を)書き置いてありますのが、いまだにございます。丙申の年でございます。」

 

 

と言ふも、げに聞こゆ

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

聞こゆ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形。聞こえる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「聞こゆ」には多くの意味がある。ここでは「思われる」の意味。

 

と言うのも、なるほどと思われます。

 

 

 大鏡『雲林院の菩提講』現代語訳(3)

 

 大鏡『雲林院の菩提講』まとめ

 

 

 

-古文