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伊勢物語『渚の院』解説・品詞分解(1)

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昔、(これ)(たかの)親王(みこ)申す親王おはしまし けり

 

申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である惟喬親王を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である惟喬親王を敬っている。作者からの敬意。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

昔、惟喬親王と申し上げる親王がいらっしゃった。

 

 

山崎のあなたに、水無瀬(みなせ)といふ所に、 あり けり

 

彼方(あなた)=名詞、あちら、向こう。過去。将来。あなた。

 

宮(みや)=名詞、皇族の住居、皇居、宮中。皇族。

 

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

山崎の向こうの、水無瀬という所に、お屋敷があった。

 

 

年ごとの桜の花盛りには、その宮へなむ おはしまし ける

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である惟喬親王を敬っている。作者からの敬意。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

毎年の桜の花盛りには、その屋敷へとお行きになった。

 

 

その時、(みぎ)(うま)(かみ)なり ける人を、常におはしまし けり

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

率(ゐ)=ワ行上一段動詞「率る(ゐる)」の連用形。率(ひき)いる、引き連れていく。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。

 

おはしまし=サ行四段動詞「おはします」の連用形。「あり・居り・行く・来」の尊敬語。「おはす」より敬意が高い言い方。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である惟喬親王を敬っている。作者からの敬意。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

その時、右の馬の頭であった人を、いつも引き連れていらっしゃった。



 

(とき)()て久しくなり  けれ 、その人の名忘れ けり

 

経(へ)=ハ行下二段動詞「経(ふ)」の連用形

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

時代を経て久しくなってまったので、その人の名前は忘れてしまった。

 

 

狩りはねむごろに 、酒をのみ飲みつつ、やまと歌にかかれ けり

 

ねむごろに=ナリ活用の形容動詞「懇ろなり(ねむごろなり)」の連用形、親切なさま、熱心なさま。

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する。

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①あるいは③の意味。

 

り=存続の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

狩りは熱心にもしないで、酒を飲んでは、和歌に熱中していた。

 

 

今狩りする(かた)()(なぎさ)の家、その(いん)の桜、ことに おもしろし

 

する=サ変動詞「す」の連体形、する。

 

ことに(殊に)=副詞、特に、とりわけ。その上、なお。

 

おもしろし=ク活用の形容詞「おもしろし」の終止形、趣深い、風流である。興味深い、心ひかれる。美しい。

 

今、狩りをする交野の渚の家、その院の桜が特に趣深い。

※院(いん)=名詞、宮殿、貴族の邸宅。上皇、法皇。上皇・法皇などの御所。

 

 

その木のもとに下りて、枝を折りてかざしにさして、上、中、下、みな歌詠みけり

 

居(ゐ)=ワ行上一動詞「居る(ゐる)」の連用形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

その木の下に(馬から)下りて座って、(その桜の木の)枝を折って髪飾りとして挿して、上、中、下(の身分を問わず)、みな歌を詠んだ。

 

 

(うま)(かみ)なり ける人の詠め

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

る=完了の助動詞「り」の連体形

 

馬の頭であった人の詠んだ(歌)。

 

 

世の中に  たえて桜の  なかり    春の心は  のどけから まし

 

なかり=ク活用の形容詞「無し」の連用形

 

せ=過去の助動詞「き」の未然形、接続は連用形。過去の助動詞「き」の未然形「せ」は反実仮想の構文のときしか使われない。

「AせばBまし。」=「もしAだったならば、Bだっただろうに。」 

「まし」は反実仮想の助動詞であり、「AましかばBまし。」とするが、「ましか」の部分を「せ」に変えて用いる場合もあるということである。

 

ば=接続助詞、直前が未然形であり、④仮定条件「もし~ならば」の意味で使われている。

 

のどけから=シク活用の形容詞「のどけし」の未然形、のどかだ。ゆったりしている、落ち着いている。

 

まし=反実仮想の助動詞「まし」の終止形、接続は未然形。

 

世の中に  たえて桜の  なかりせば  春の心は  のどけからまし

もし世の中にまったく桜がなかったならば、春の人々の心はのどかだっただろうに。



 

なむ詠みたり ける。また人の歌、

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

と詠んだ。また(別の)人の歌、

 

 

散れ こそ  いとど桜は  めでたけれ  ()き世になに  久しかる べき

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに。

 

めでたけれ=ク活用の形容詞「めでたし」の已然形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

か=反語・疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

久しかる=シク活用の形容詞「久し」の連体形

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

散ればこそ  いとど桜は  めでたけれ  憂き世になにか  久しかるべき

散るからこそ、いっそう桜はすばらしいのだ。つらいこの世にいつまでも変わらないものなどあるだろうか。(いや、ありはしない。)

 

 

とて、その木のもとは立ちて帰るに、日暮れになり 

 

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

と詠んで、その木の下からは立って帰るうちに、日暮れになってしまった。

 

 

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 伊勢物語『渚の院』現代語訳(1)(2)

 

伊勢物語『渚の院』品詞分解のみ(1)

 

 伊勢物語『渚の院』まとめ

 

 

 

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