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伊勢物語『渚の院』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 伊勢物語『渚の院』まとめ

 

御供なる人、酒をもたて、野より 出で来 たり

 

なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

 

より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。

 

出で来=カ変動詞「来(く)」の連用形

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

お供の者が、酒を(従者に)持たせて、野(の方)から出て来た。

 

 

この酒を飲み とて、よき所を求め行くに、(あま)(がわ)といふ所に至り

 

て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

よき=ク活用の形容詞「良し(よし)」の連体形、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

この酒を飲んでしまおうといって、よい場所を求めて行くと、天の川という所についた。

 

 

()()(むま)(かみ)(おお)()()参る。親王ののたまひ ける

 

参る=ラ行四段動詞「参る(まいる)」の終止形、謙譲語。動作の対象である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

のたまひ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の連用形。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

親王に馬の頭が、お酒をさしあげる。親王がおっしゃったことには

 

 

(かた)()を狩りて(あま)(がわ)のほとりに(いた)るを題にて、歌詠みて(さかずき)させ。」

 

させ=サ行四段動詞「注す・点す(さす)」の命令形、(酒を)つぐ。(明かりを)ともす。

 

「交野で狩りをして、天の川のほとりにだとり着いたことをお題にして、歌を詠んで杯をつぎなさい。」

 

 

のたまう けれ かの馬の頭、詠みて奉り ける

 

のたまう=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の連用形が音便化したもの。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

とおっしゃったので、あの馬の頭は、詠んで申し上げた(歌)。

 

 

狩り暮らし  たなばたつめに  宿(やど)から   (あま)河原(かわら)に  我は  けり

 

たなばたつめ(棚機つ女・織女)=名詞、機織り(はたおり)の女、織姫(おりひめ)。

「つ」=格助詞。連体修飾語を作る役割をする。

「棚機つ女」→「機織りの女」

 

から=ラ行四段動詞「借る」の未然形

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断。

 

狩り暮らし  たなばたつめに  宿(やど)からむ  (あま)河原(かわら)に  我は来にけり

一日中狩りをして(日が暮れたので)、織姫に宿を借りよう。天の河原に私は来てしまったことだから。



 

親王、歌を返す返す誦じ 給うて、返し  給は 

 

誦じ=サ変動詞「誦ず(ずず)」の連用形、声に出して唱える。  「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

給う=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形が音便化したもの、尊敬語。動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する。

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

親王は、歌を何度も繰り返し口ずさみなさって、返歌をなさることができない。

 

 

(きの)(あり)(つね)()(とも)仕うまつれ 。それが返し、

 

仕うまつれ=ラ行四段動詞「仕うまつる(つかうまつる)」の已然形、謙譲語。お仕えする。お仕え申し上げる。動作の対象である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

紀有常も、お供としてお仕えしていた。その者(=紀有常)の返歌。

 

 

ひととせに  ひとたび ます  君待て  宿かす人も  あら  思ふ

 

ひととせ=名詞、一年。

 

来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形

 

ます=補助動詞サ行四段「ます」の連体形、尊敬語。動作の主体である君(=彦星)を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

かす=サ行四段動詞「貸す」の連体形

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

ひととせに  ひとたび来ます  君待てば  宿かす人も  あらじとぞ思ふ

(織姫は)一年に一度いらっしゃる君(=彦星)を待っているのだから、宿を貸す人もあるまいと思う

 

 

帰りてに入ら 給ひ 

 

宮(みや)=名詞、皇族の住居、皇居、宮中。皇族。

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

(親王は)帰ってお屋敷にお入りになった。

 

 

更くるまで酒飲み、物語して、あるじの親王、酔ひて入り給ひ  

 

更くる=カ行下二段動詞「更く(ふく)」の連体形

 

物語し=サ変動詞「物語す」の連用形、雑談をする、お話をする。  「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

す=サ変動詞「す」の終止形、する。

 

夜が更けるまで酒を飲み、お話をして、主人である親王は、酔って(寝床に)お入りになろうとする。

 

 

十一日の月も隠れ すれ かの馬の頭の詠め

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

すれ=サ変動詞「す」の已然形、する。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

彼の(かの)=あの、例の。「か(名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続は連用形

 

(ちょうど)十一日の月も(山に)隠れようとしているので、あの馬頭が詠んだ(歌)。

 

 

飽か なくに  まだきも月の  隠るる  山の()逃げて  入れあら なむ

 

あか=カ行四段動詞「飽く(あく)」の未然形、満足する、飽き飽きする

 

なく=連語。「な」+「く」。

「な」=打消の助動詞「ず」の古い未然形、接続は未然形

「く」=名詞形を作る接尾語

 

まだき=副詞、早くも、もはや、もうすでに

 

か=詠嘆の終助詞

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

なむ=願望の終助詞。接続は未然形。~てほしい、~てもらいたい。

 

飽かなくに  まだきも月の  隠るるか  山の()逃げて  入れずもあらなむ

(ずっと眺めていても)飽きないのに早くも月は隠れるのだなあ。山の端が逃げて月を入れないでおいてほしい。



 

親王にかはり奉りて、(きの)(あり)(つね)

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である惟喬の親王を敬っている。作者からの敬意。

 

親王に代わり申し上げて、紀有常(が詠んだ歌)、

 

 

おしなべて  (みね)も平らに  なり  なむ  山の()なく   月も入ら 

 

おしなべて=副詞、すべて、一様に、ふつう、ありきたり。

 

なり=ラ行四段動詞「成る(なる)」の連用形

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形

 

なむ=願望の終助詞。接続は未然形。~てほしい、~てもらいたい。

 

なく=ク活用の形容詞「無し」の連用形

※形容詞の連用形「~く」 + は=仮定条件「もし~ならば」という意味になる。もう一つ同類のものとして、

打消の助動詞「ず」の連用形 + は =仮定条件「もし~ならば」というものがある。なので、「~ずは」・「~くは」とあれば、仮定条件と言うことに気をつけるべき。この「は」は接続助詞「ば」からきているので、「ば」のまま使われるときもある。

 

は=係助詞

 

じ=打消推量の助動詞「じ」の連体形、接続は未然形

 

を=間投助詞

 

おしなべて  (みね)も平らに  なりななむ  山の()なくは  月も入らじを

すべて一様に、峰が平らになってほしい。山の端がなければ、月も入らないだろうよ。

 

 

 伊勢物語『渚の院』まとめ

 

 

 

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