「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら伊勢物語『通ひ路の関守』解説・品詞分解
昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。
昔、ある男がいた。東の五条のあたり(に住んでいる女のもと)に、たいそう人目を忍んで通っていた。
みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、
ひそかに通う所なので、(堂々と)門からは入ることができず、
童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり。
子供たちが踏みあけた築地(=泥を固めて造った土塀)の崩れたところから通っていた。
人しげくもあらねど、たび重なりければ、
人目は多くなかったけれど、(男が女のもとへ通うことが)たび重なったので、
あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人を据ゑて守らせければ、
(女の家の)主人が聞きつけて、その(男が)通う道に、毎晩人を配置して見張らせたので、
行けどもえあはで帰りけり。さて詠める。
(男は)行っても会うことができなくて帰ってきたのだった。そこで詠んだ(歌)。
人知れぬ わが通ひ路の 関守は 宵々ごとに うちも寝ななむ
人に知られることなく私が通う道の番人は、毎晩毎晩少しでも眠っていて欲しいものだ。
と詠めりければ、いといたう心やみけり。あるじ許してけり。
と詠んだので、(女は)たいそうひどく心を痛めた。(なので、)主人は(男が通うのを)許したのだった。
二条の后に忍びて参りけるを、世の聞こえありければ、
(この話は、男が)二条の后のもとに人目を忍んで参上していたのを、世間で噂になったので、
せうとたちの守らせ給ひけるとぞ。
(后の)兄たちが、見張らせなさったということだ。