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枕草子『大納言殿参り給ひて』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 枕草子『大納言殿参り給ひて』まとめ

 

またの夜は、夜の御殿(おとど)参ら  給ひ 

 

参ら=ラ行四段動詞「参る」の未然形、「行く」の謙譲語。動作の対象である天皇(=一条天皇)を敬っている。作者からの敬意。

 

せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

翌日の夜は、(中宮様は)天皇のご寝室に参上なさいった。

 

 

夜中ばかりに、廊に出でて人呼べ

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

(私は)夜中頃に、廊下に出て人を呼んぶと、

 

 

「下るるいで、送ら。」とのたまへ 

 

か=疑問の係助詞

 

いで=感嘆詞、(感動・驚きを表して)いやもう、ほんとに、なんとまあ、さあ。

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

のたまへ=ハ行四段動詞「宣ふ(のたまふ)」の已然形。「言ふ」の尊敬語。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

(大納言殿が)「(局=部屋に)下がるのか、では送ろう。」とおっしゃるので、

 

 

()(から)(ぎぬ)(びょう)()にうちかけて行くに、月のいみじう明かく、御直衣(のうし)のいと白う見ゆるに、

 

裳・唐衣=女性の正装

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

直衣=貴族の平服

 

見ゆる=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる、思われる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。

 

(私は)裳や唐衣は屏風にかけて行くと、月がとても明るくて、(大納言殿の)御直衣がたいそう白く見えて、

 

 

指貫(さしぬき)を長う踏みしだきて、袖をひかへて、「倒る 。」と言ひて、おはする ままに

 

指貫=貴族の平服

 

倒る=ラ行下二段動詞「倒る」の終止形

 

な=禁止の終助詞

 

おはする=サ変動詞「おはす」の連体形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

ままに=~にまかせて、思うままに。~するとすぐに。(原因・理由)…なので。「まま(名詞/に(格助詞))

 

指貫を長く踏んで、(私の)袖をつかんで、「転ぶなよ。」と言って、お歩きになりながら、

 

 

(ゆう)()なほ残りの月に行く。」と誦し 給へ 、またいみじう めでたし

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

誦し=サ変動詞「誦ず」の連用形、声に出して唱える。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

めでたし=ク活用の形容詞「めでたし」の終止形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。

 

「遊子なほ残りの月に行く(=旅人は、やはり残月の中を進んでいく。)」と(大納言殿が)吟じなさったのは、またとてもすばらしい。



 

かやうのこと、めで 給ふ。」とては、笑ひ給へ 

 

かやう=ナリ活用の形容動詞の「かやうなり」の語幹。このよう、かくのごとく。  形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語

 

めで=ダ行下二段動詞「愛づ・賞づ(めづ)」の連用形、好む、かわいがる。ほめる、賞賛する

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である作者(=清少納言)を敬っている。大納言からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である大納言を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

(大納言殿は)「このようなことで、おほめになる。」と言っては、笑いなさるけれど、

 

 

いかで なほ をかしきものを

 

いかで=副詞、どうであろうとも、なんとかして。どうして、どのようにして、どういうわけで。どうにかして。

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となるが、直後に「めで(動詞・連用形)/ざら(打消の助動詞・未然形)/む(推量の助動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

「めでざらむ」→「褒めないことがあるだろうか。(いや、褒めずにはいられない。)」

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

をかしき=シク活用の形容詞「をかし」の連体形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

どうしてか、やはりすばらしいものを(褒めないことがあるだろうか。いや、褒めずにはいられない)。

 

 

枕草子『大納言殿参り給ひて』まとめ

 

 

 

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