青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
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傪覧レテ之ヲ驚キテ曰ハク、「君ガ才行、我知レレリ之ヲ矣。
傪之を覧て驚きて曰はく、「君が才行、我之を知れり。
※矣=置き字(断定・強調)
傪はこれ(=李徴の詩)を見て、驚いて言うことには、「君の才知と品行について、私はよく知っている。
而モ君ノ至二レル於此一ニ者、君平生得レン無レキヲ有二ル自ラ恨一ムコト乎ト。」
而も君の此に至れるは、君平生自ら恨むこと有る無きを得んや。」と。
※於=置き字(場所)
しかし君がこんなことになったのは、君が普段から自分自身で残念なことがあるのではないだろうか。」と。
虎曰ハク、「二儀ノ造レルヤ物ヲ、固ヨリ無二カラン親疎厚薄之間一。
虎曰はく、「二儀の物を造るや、固より親疎厚薄の間無からん。
※親疎厚薄=親しいことと疎遠なこと、待遇が厚いことと薄いこと。
虎が言うことには、「陰と陽の二つが万物が創造することについては、もともと親疎厚薄の隔たりなどなかったであろう。
若二キハ其ノ所レ遇フ之時、所レ遭フ之数一ノ、吾又不レル知ラ也。
其の遇ふ所の時、遭ふ所の数のごときは、吾又知らざるなり。
その出会う時代や、巡り合う運命などのようなものは、私はまた知るよしもない。
噫、顔子之不幸、冉有ノ斯ノ疾、尼父常テ深ク歎レゼリ之ヲ矣。
噫、顔子の不幸、冉有の斯の疾、尼父常て深く之を歎ぜり。
※顔回と冉有=二人とも孔子の弟子であった。
ああ、顔回の不幸(=早死)、冉有の病気などを、かつて孔子は深く嘆いたのだった。
若シ反-二求セバ其ノ所二ヲ自ラ恨一ム、則チ吾モ亦タ有レリ之レ矣。
若し其の自ら恨む所を反求せば、則ち吾も亦た之れ有り。
※「若シ ~バ」=仮定、「もし ~ならば」
もしも自分自身で悔やまれることを振り返って考えるならば、私もまた思い当たることがある。
不レラン知二ラ定メテ因一レルヲ此ニ乎。
定めて此に因るを知らざらんや。
※「 ~ (セ)ンや(哉・乎・邪など)」=反語、「 ~ (せ)んや」、「 ~ だろうか。(いや、~ない。)」
きっとそれに起因するに違いない。
吾遇二ヘバ故人一ニ、則チ無レキ所二自ラ匿一ス也。
吾故人に遇へば、則ち自ら匿す所無きなり。
私は旧友に会ったのだから、何も隠すことはない。
吾常ニ記レス之ヲ。
吾常に之を記す。
私にはずっと記憶していることがある。
於二イテ南陽ノ郊外一ニ、嘗テ私二ス一孀婦一ニ。
南陽の郊外に於いて、嘗て一孀婦に私す。
南陽の郊外で、かつて夫に先立たれたある女性と、ひそかに交際していた。
其ノ家窃カニ知レリ之ヲ、常ニ有二リ害レスル我ヲ心一。
其の家窃かに之を知り、常に我を害する心有り。
その家族がひそかにこの事を知り、いつも私の邪魔をしようと思っていた。
孀婦ハ、由レリテ是ニ不レ得二再ビ合一フヲ。
孀婦は、是に由りて再び合ふを得ず。
※「不レ得二 ~一(スル)ヲ」=不可能、「 ~(する)を得ず」、「(機会がなくて) ~できない。」
その女性は、こういうことが原因で、再び会うことができなくなった。
吾因リテ乗レジテ風ニ縦レチ火ヲ、一家数人、尽ク焚-二殺シテ之一ヲ而去ル。
吾因りて風に乗じて火を縱ち、一家数人、尽く之を焚殺して去る。
※而=置き字(順接・逆接)
私はそこで風に乗じて火を放ち、その一家数人を、全員焼き殺して立ち去った。
此ヲ為レス恨ミト爾ト。」
此を恨みと為すのみ。」と。
※「~ 爾」=限定「~ のみ」「~ だけだ」
このことが残念でならない。」と。
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