青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
趙ノ恵文王、嘗テ得二タリ楚ノ和氏ノ璧一ヲ。秦ノ昭王、請下フ以二ツテ十五城一ヲ易上レヘンコトヲ之ニ。
趙の恵文王、嘗て楚の和氏の璧を得たり。秦の昭王、十五城を以つて之に易へんことを請ふ。
趙の恵文王は、かつて楚の和氏が山中で発見したという宝玉を手に入れた。秦の昭王は、十五の城(=町)とその宝玉とを交換してもらいたいと申し入れた。
欲レスレバ不レラント与ヘ、畏二レ秦ノ強一キヲ、欲レスレバ与ヘント、恐レル見レンコトヲ欺カ。
与へざらんと欲すれば、秦の強きを畏れ、与へんと欲すれば、欺かれんことを恐る。
※見=受身「見二A(セ)一/見二ルA(セ)一」→「A(せ)る/A(せ)らる」→「Aされる」
与えないようにすれば、秦の強いことが恐ろしく、与えようとすれば、(宝玉だけ取られて)だまされることが心配であった。
藺相如願二フ奉レジテ璧ヲ往一カント。
藺相如璧を奉じて往かんと願ふ。
藺相如が宝玉を(秦に)捧げに行くことを願い出た。
曰ハク、「城不レンバ入ラ、則チ臣請フ、完レウシテ璧ヲ而帰ラント。」
曰はく、「城入らずんば、則ち臣請ふ、璧を完うして帰らん。」と。
※「請フ ~」=願望、「どうか ~ させてください、どうか ~ してください」
藺相如が言うことには、「もし城(=町)が手に入らなければ、私は宝玉を完全なままで持ち帰りましょう。」と。
既ニシテ至ル。秦王無レシ意レ償レフニ城ヲ。
既にして至る。秦王城を償ふに意無し。
やがて(藺相如は秦に)到着した。秦王には町を代償として渡す意志が見えなかった。
相如乃チ紿キテ取レリ璧ヲ、怒髪指レシ冠ヲ、卻-二立シテ柱下一ニ曰ハク、
相如乃ち紿きて璧を取り、怒髪冠を指し、柱下に卻立して曰はく、
そこで藺相如はあざむいて宝玉を取り返し、怒りで髪の毛が冠を突き上げるほどで、柱の下もとまで後ずさりし立ちはだかって言うことには、
「臣ノ頭与レ璧倶ニ砕ケント。」
「臣の頭璧と倶に砕けん。」と。
「私の頭は、この宝玉といっしょに砕けるでしょう。」と。
遣二メ従者ヲシテ懐レキテ璧ヲ、間行シテ先ヅ帰一ラ、身ハ待二ツ命ヲ於秦一ニ。秦ノ昭王賢トシテ而帰レス之ヲ。
従者をして璧を懐きて間行して先づ帰らしめ、身は命を秦に待つ。秦の昭王賢として之を帰す。
※遣=使役「遣二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
従者に宝玉を持たせて、抜け道を通って先に帰らせ、自分は秦王の命令を待った。秦の昭王は賢人だとして藺相如を帰国させた。
続きはこちら『完璧而帰(璧を完うして帰る)』(2)原文・書き下し文・現代語訳