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徒然草『ある者、子を法師になして』解説・品詞分解

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原文・現代語訳のみはこちら徒然草『ある者、子を法師になして』現代語訳

 

ある者、子を法師になして、「学問して因果の(ことわり)をも知り、説経などして世渡るたづきともせよ。」と言ひけれ 

 

学問し=サ変動詞「学問す」の連用形、非難する、そしる。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

 

たづき=名詞、手段、方法

 

せよ=サ変動詞「す」の命令形、する

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

ある者が、自分の子どもを法師にして、「(仏教の)学問をして因果の道理をも知り、説教などをして、世の中を生きていく手段としなさい。」と言ったので、

 

 

教へのままに説経師にならために、まづ馬に乗りならひけり

 

む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、ここは文脈判断。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

(その子は親の)教えのとおり、説教師になるために、まず馬に乗る練習をした。

 

 

輿(こし)・車は持た身の、導師に請ぜ られ 時、

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

請ぜ=サ変動詞「請ず」の未然形、招く。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞

 

られ=受身の助動詞「らる」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

む=婉曲、または仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。

 

輿や牛車を持っていない自分が、(将来、檀家から)導師として招かれるような時に、

 

 

馬など迎へにおこせ たら に、

 

おこせ=サ行下二段動詞「遣す(おこす)」の連用形、こちらへ送ってくる、よこす

 

たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形

 

む=婉曲、または仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形

 

 

馬などを迎えによこしたような場合に、

 

 

桃尻て落ち 心憂かる べしと思ひけり

 

な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。しかし、ここは微妙なところ。

 

む=仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形

 

心憂かる=ク活用の形容詞「心憂し(こころうし)」の連体形、いやだ、不愉快だ。情けない、つらい。残念だ、気にかかる。

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

尻が安定しないで落ちてしまったとしたら、情けないことであろうと思った(からである)。

 

 

次に、仏事の後、酒など勧むることあらに、法師のむげに能なきは、

 

む=婉曲、または仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。

 

むげに=ナリ活用の形容動詞「無下なり(むげなり)」の連用形、言いようもなくひどい、どうしようもない

 

次に、法事の後で、(その家の人が)酒などを勧めることがあるような場合に、法師がどうしようもなく芸がないのは、

 

 

(だん)()すさまじく思ふべしとて、(そう)()といふ事をならひけり

 

すさまじく=シク活用の形容詞「すさまじ」の連用形、その場にそぐわず面白くない、興ざめだ。もの寂しい、寒々とした感じだ。

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

檀家の人が興ざめに思うだろうと思って、早歌というものを練習した。



 

二つのわざやうやう(さかい)に入りけれ 

 

わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会

 

やうやう=副詞、だんだん、しだいに。やっと、かろうじて

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

この二つのこと(=乗馬と早歌)が、だんだんおもしろいと感じる境地に入ったので、

 

 

いよいよ、よく  たく おぼえて、

 

よく=ク活用の形容詞「良し」の連用形

 

し=サ変動詞「す」の連用形、する

 

たく=希望の助動詞「たし」の連用形、接続は連用形

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形、自然に思われる、感じる、思われる。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれている。

 

ますます上手にしたいと思って、

 

 

たしなみけるほどに、説経習ふべき ひまなくて年より けり

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ひま(隙・暇)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

好んで練習していた間に、(本来やるべき)説教を習うはずの暇がなくなって、年をとってしまった。

 

 

この法師のみにもあら、世間の人、なべてこの事あり。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

なべて(並べて)=副詞、一般に、すべて。並ひととおり、ふつう

 

(このような例は、)この法師だけでなく、世間の人は、一般にこういった事がある。

 

 

若きほどは諸事につけて、身をたて、大きなる道をも成じ、能をもつき、学問をも と、

 

成じ=サ変動詞「成ず」の連用形、「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

若いうちはいろいろな事につけて、立身出世をし、大きな道をも成し遂げ、芸能をも身につけ、学問をもしようと、

 

 

行く末久しくあらます事ども、心にはかけながら、世をのどかに思ひてうち怠りつつ

 

行く末=名詞、将来、未来、行く先。 ※対義語は「来し方(きしかた)」で、意味は「過去、過ぎ去った時」

 

あらます=サ行四段動詞「あらます」の連体形、期待する、予期する。こうありたいと願う。

 

ながら=接続助詞、おそらく次の③の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは②または③の意味。

 

遠い将来にわたって予期するいろいろな事を、心にはかけながらも、一生をのんびりと考えて怠り続け、

 

 

まづさしあたりたる目の前のことにのみ(まぎ)て月日を送れ

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

まずさし迫っている目の前のことにばかり惑わされて月日を送るので、

 

 

ことごとなすことなくして、身は老い 

 

ことごと=名詞、別の事、他の事、違う事

 

老い=ヤ行上二段動詞「老ゆ」の連用形。ヤ行上二段活用の動詞は「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」の3つだけだと思って、受験対策に覚えておいた方がよい。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

どれもこれも成し遂げずに、年老いてしまう。

 

 

つひにものの上手にもなら、思ひ やうに身をも持た

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

結局その道の名人にもならず、(以前に)思っていたように立身出世もしない。

 

 

悔ゆれ どもとり返さるる(よわい)なら  、走りて坂を下る輪のごとくに衰へゆく。

 

悔ゆれ=ヤ行上二段動詞「悔ゆ」の已然形。ヤ行上二段活用の動詞は「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」の3つだけだと思って、受験対策に覚えておいた方がよい。

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

るる=可能の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられることが多い。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

後悔はするけれども取り返すことができる年齢ではないので、走って坂を下る車輪のように衰えてゆく。

 

 

されば一生のうち、むねとあら まほしから ことの中に、

 

されば=接続助詞、それゆえ、それで。そもそも、いったい

 

あらまほしからむこと=望んでいるようなこと、理想的なこと、望ましいこと。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

まほしから=希望・願望の助動詞「まほし」の未然形、接続は未然形

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「望んでいる(ような)こと」

 

だから一生のうちで、主として望んでいるようなことの中で、

 

 

いづれ まさると、よく思ひくらべて、第一の事を案じ定めて、そのほかは思ひ捨てて、一事を励むべし

 

か=疑問の助動詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

まさる=ラ行四段動詞「勝る・増さる(まさる)」の連体形、すぐれる、勝る。増える、強まる。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

べし=当然、または適当の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

どれがすぐれているかと、よく考え比べて、第一の事を考え定めて、その他の事は断念して、一つの事を励むべきだ。



 

一日のうち、一時のうちにも、あまたのことの来たら 中に、

 

数多(あまた)=副詞、たくさん、大勢

 

来たら=ラ行四段動詞「来たる」の未然形

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「やってくる(ような)中で」

 

一日のうち、一時のうちにも、たくさんのことがやって来るような中で、

 

 

少しも益のまさらことを営みて、そのほかをうち捨てて、大事を急ぐべき なり

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「まさっている(ような)こと」

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

少しでも価値のあるようなことを精を出して行ない、その他のことは捨てて、大事なことを急いですべきである。

 

 

いづ方をも捨てと心にとり持ちては、一事も成るべから 

 

じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形

 

べから=当然の助動詞「べし」の未然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

どれも捨てまいと心に執着していては、一つの事も成就するはずがない。

 

 

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