古文

源氏物語『須磨』(その日は、女君に御物語~)解説・品詞分解

『須磨・心づくしの秋風』(須磨へ出発直前に紫の上と惜別)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『須磨』(その日は、女君に御物語~)現代語訳

 

 

その日は、女君に御物語のどかに聞こえ暮らし給ひて、 、夜深く出で給ふ

 

聞こえ=ヤ行下二動詞「聞こゆ」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である女君(紫の上)を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。「給ふ」も同様。

 

例=名詞、いつもの事、普段。当たり前の事、普通。旅行などの出発は夜明け前が通例であった。

 

の=連用格の格助詞、「~のように」と訳す。

散文の場合は「例の+用言」と言う使い方で「いつものように~」と訳す。

韻文(和歌など)の場合は2句と3句の末尾に「の」来て、連用格として使われることがよくある。また、その場合序詞となる。

 

その日(光源氏が須磨に出発する当日)は、女君(紫の上)にお話をゆったりとし申し上げ、日が暮れるまでお過ごしなさって、いつものように、夜深くに出発なさる。

 

 

狩の御衣など、旅の御よそひ、いたくやつし 給ひて、

 

やつし=サ行四段動詞「やつす」の連用形、目立たない姿になる、みすぼらしくする

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

狩の御衣など、旅のご装束を、たいそう目立たない姿になさって、

 

 

「月出で けり なほすこし出でて、見だに送り給へ し。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

な=念押し・詠嘆の終助詞

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

だに=副助詞、強調(せめて~だけでも)。類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の命令形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。光源氏からの敬意。

 

かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。

 

もう月がでてしまったなあ。やはり(見送りの際に顔が見えるように)少し端に出て、せめて見送りなさってくださいね。



 

いかに 聞こゆ べきこと多くつもり  けりとおぼえ らむ

 

いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。

 

聞こゆ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形。「言ふ」の謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。光源氏からの敬意。

 

べき=意志の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

つもり=ラ行四段動詞「積もる」の連用形、

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

す=サ変動詞「す」の終止形、する

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)

 

(私が須磨に行ってしまったら)どんなに申し上げたいことがたくさん積もってしまったことよと思われるでしょう。

 

 

一日、二日たまさかに隔つる折だにあやしう いぶせき心地するものを。」とて、

 

たまさかに=ナリ活用の形容動詞「たまさかなり」の連用形、偶然だ、たまたまだ。(連用形で)まれに、偶然に、たまたま。(連用形で)もしも、万が一

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。

 

あやしう=シク活用の形容詞「あやし」の連用形が音便化したもの、不思議だ、変だ。身分が低い、卑しい。見苦しい、みすぼらしい

 

いぶせき=ク活用の形容詞「いぶせし」の連体形、鬱陶しい、気分が晴れない。気がかりだ。不愉快だ。

 

ものを=詠嘆の終助詞

 

一日、二日、たまたま離れている時でさえ、不思議と気の晴れない気持ちがするのになあ。」と(光源氏は)言って

 

 

御簾(みす)巻き上げて、端に誘ひ聞こえ 給へ 、女君、泣き沈み給へ 

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、の謙譲語。動作の対象である女君(紫の上)を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である女君(紫の上)を敬っている。作者からの敬意。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

御簾を巻き上げて、(月明かりで顔を見るために)端にお誘い申し上げなさると、女君は、泣き沈んでいらしゃるが、

 

 

ためらひて、ゐざり出で給へ 月影に、いみじう をかしげに 給へ 

 

ためらひ=ハ行四段動詞「ためらふ」の連用形、(感情・心・病気などを)静める、落ち着かせる。ためらう、躊躇する

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である女君(紫の上)を敬っている。作者からの敬意。もう一つの「給へ」も同様。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

月影=名詞、月の光、月明かり。月の光に照らされた物の姿。

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

 

をかしげに=ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の連用形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。美しい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

ゐ=ワ行上一動詞「居(ゐ)る」の連用形、上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

心を静めて、膝をついたまま出ていらっしゃった(女君は)、月の光に(お顔が映えて)、とても美しい様子で座っていらっしゃる。

 

 

「わが身かくはかなき世を別れ 

 

斯く(かく)=副詞、このように、こう

 

はかなき=ク活用の形容詞「はかなし」の終止形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。ここを「強意」ととらえる説もある。

 

ば=接続助詞、直前が未然形なので④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

 

「私がこのようにはかない世と別れてしまったならば、

 

 

いかなるさまにさすらへ給は 。」

 

いかなる=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。どのようだ、どういうふうだ

 

さすらへ=ハ行下二段動詞「さすらふ」の連用形、さまよう、放浪する、落ちぶれる

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ」の未然形、尊敬語。動作の主体である女君(紫の上)を敬っている。光源氏からの敬意。

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

(女君は)どのような様子で頼る所もなく生きて行かれるだろう。」

 

 

と、うしろめたく悲しけれ、思し入りたるに、いとどしかる べけれ 

 

うしろめたく=ク活用の形容詞「うしろめたし」の連用形、心配だ、気がかりだ、不安だ

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

いとどしかる=シク活用の形容詞「いとどし」の連体形、ますます激しい、いよいよ甚だしい

 

べけれ=推量の助動詞「べし」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

と(光源氏は思って)、心配で悲しいけれど、(紫の上は)思い詰めていらっしゃるので、(何か言葉をかけると)ますます悲しくなりそうなので、

 

 

「生ける世の  別れを知らで  契りつつ  命を人に  限りけるかな

 

生く=カ行四段動詞「生く」の已然形、生きる。「生く」はタ行下二段動詞でもあり、その時は「生かす、生存させる」という意味になる

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

契り=ラ行四段動詞「契る(ちぎる)」の連用形、約束する。男女が関係を持つ。結婚する。

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①並行「~しながら」の意味。

 

ける=過去・詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

かな=詠嘆の終助詞

 

生きているこの世に別れがあることも知らないで、命のある限りあなたと一緒にいると何度も約束したことだよ。

 

 

はかなし。」など、あさはかに聞こえなし 給へ 

 

はかなし=ク活用の形容詞「はかなし」の連用形、頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした

 

聞こえなし=サ行四段動詞「聞こえなす」の連用形、「言ひなす」の謙譲語。取りつくろって申し上げる。動作の対象である女君(紫の上)を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

あてにならないものだ。」などと、(光源氏がわざと)あっさり申し上げなさると、(紫の上が詠んだ歌は、)

 

 

惜しからぬ  命に代へて  目の前の  別れをしばし  とどめてしかな

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

てしかな=願望の終助詞、~たいなあ

 

惜しくはないこの命に代えて、目の前のあなたとの別れをしばらくとどめたいものですよ。



 

げに  思さ  らむ。」と、

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である女君(紫の上)を敬っている。光源氏からの敬意。

 

る=尊敬の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断。動作の主体である女君(紫の上)を敬っている。光源氏からの敬意。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

「本当に、そのようにお思いになっているだろう。」と(光源氏は思い)、

 

 

いと見捨てがたけれど、明け果て はしたなかる べきにより、急ぎ出で給ひ 

 

な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。ここを「強意」ととらえる説もある。

 

ば=接続助詞、直前が未然形なので④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

 

はしたなかる=ク活用の形容詞「はしたなし」の連体形、体裁が悪い、みっともない。中途半端だ。

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

たいへん見捨てがたいけれど、夜が明けてしまったならば、体裁が悪いだろうから、急いで出発なさった。

※当時は夜明け前に旅立つのが通例であった。

 

 

道すがら、面影につと添ひて、胸もふたがり ながら、御舟に乗り給ひ 

 

道すがら=名詞、道中

すがら=~の間中、ずっと。~の途中。ただ~だけ。

 

つと=副詞、じっと、ずっと、つくづく。さっと、急に。

 

ふたがり=ラ行四段動詞「ふたがる」の連用形、ふさがる、詰まる。

 

ながら=接続助詞、次の①の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

道中、(紫の上の)面影が浮かび、ぴったり身に添って(いるように感じられて)、胸も詰まる思いのまま、お船にお乗りになった。

 

源氏物語『須磨・心づくしの秋風』まとめ

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