青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
無為の治=無為による政治
不レレバ尚レバ賢ヲ、使二ム民ヲシテ不一レラ争ハ。
賢を尚ばざれば、民をして争はざらしむ。
※使=使役「使二ムAヲシテB一(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」
賢者を尊重しなければ、(賢くなろうと)民衆に争わなくさせることになる。
不レレバ貴二バ難レキ得之貨一ヲ、使二ム民ヲシテ不一レラ為レサ盗ヲ。
得難きの貨を貴ばざれば、民をして盗を為さざらしむ。
手に入れにくい財宝を貴重なものとしなければ、民衆に盗みをしなくさせることになる。
不レレバ見レサ可レキヲ欲ス、使二ム民ノ心ヲシテ不一レラ乱レ。
欲すべきを見さざれば、民の心をして乱れざらしむ。
欲しがるものを示さなければ、民衆の心に混乱しなくさせることになる。
是ヲ以ツテ聖人之治ハ、虚二シクシテ其ノ心一ヲ、実二タシ其ノ腹一ヲ、弱二クシテ其ノ志一ヲ、強二クスシ其ノ骨一ヲ、
是を以つて聖人の治は、其の心を虚しくして、その腹を実たし、その志を弱くして、その骨を強くし、
※是以=「是ヲ以ツテ」「是を以つて」、「こういうわけで、それで」 (注意)以是=「以レツテ是レヲ」「是れを以つて」、「このことによって、このことから」
こういうわけで、徳の高い人の政治は、人々の心をからっぽにして、その腹を満足させ、その向上心を弱くして、その体を強くし、
常ニ使二メ民ヲシテ無知無欲一ナラ、使三ムル夫ノ智者ヲシテ不二ラ敢ヘテ為一サ也。
常に民をして無知無欲ならしめ、夫の智者をして敢えて為さざらしむるなり。
※「不二敢ヘテ ~一(せ)」=しいて(無理に) ~しようとはしない。 ~するようなことはしない
常に民衆に無知無欲でいさせ、世間でいう知恵のある者に行動するようなことはさせない。
為二セバ無為一ヲ、即チ無レシ不レルコト治マラ。
無為を為せば、則ち治まらざること無し。
無為の政治を行えば、世の中がおさまらないということはない。