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平家物語『忠度の都落ち』解説・品詞分解(4)

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  原文・現代語訳のみはこちら平家物語『忠度の都落ち』現代語訳(3)(4)

 

その後、世静まつて、千載集を撰ぜられ けるに、

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である五条三位俊成卿を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

その後、世が静まって、(俊成卿は)『千載集』をお選びになった時に、

 

 

忠度のありさま、言ひ置き言の葉、今さら思ひ出でてあはれなり けれ 

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

あはれなり=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じる、しみじみとした情趣がある

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

忠度の生前の様子や、言い残した言葉を、今さらになって思い出してしみじみと感じられたので、

 

 

かの巻物のうちに、さり  べき歌いくらもありけれ ども

 

かの(彼の)=あの、例の。「か(代名詞)/の(格助詞)」と品詞分解する

 

さり=ラ変動詞「然り(さり)」の連用形、適切である、ふさわしい、しかるべきだ。そうだ、そうである。

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

 

べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

(忠度が最期に託した)例の巻物の中に、ふさわしい歌はいくらでもあったけれども、

 

 

勅勘の人なれ 、名字をあらはさ 

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である五条三位俊成卿を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

(忠度は)天皇のおとがめを受けた人なので、姓名をお出しにならず、

 

 

「故郷の花」といふ題にて詠ま たり ける歌一首、「よみ人しら」と入れられ ける

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。動作の主体である薩摩守忠度を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。動作の主体である五条三位俊成卿を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

「故郷の花」という題でお詠みになった歌一首を、「よみ人しらず」として(千載集に)お入れになった。



 

さざ波や  志賀の都は  荒れにしを  昔ながらの  山桜かな

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

かな=詠嘆の終助詞

 

※枕詞…特定の語の上にかかって修飾したり、口調を整えるのに用いることば。5文字以下で、それ自体に意味がほとんどないなどという点で序詞とは大きく異なる。

さざ波や=枕詞、「志賀」の他に「大津」「長良山」などに掛かる。志賀には琵琶湖があるからその波だと考えとけばよい。

 

※掛詞…同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。読者に意味を一つに限定されない配慮としてひらがなとして書かれることが多い。

ながら=昔ながらの「ながら」と長良山の「長等(ながら)」が掛けられている

 

(昔の都であった)志賀の都は、今は荒れてしまったが、昔のままに美しく咲いている長等山の山桜であるよ。

 

 

 

その身朝敵となり 上は、子細に及ばといひながら

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

ながら=接続助詞、次の③逆接「~でも・~けれども」の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

(忠度は)その身が、朝敵となってしまった以上は、あれこれ言い立てることではないと言うけれど、

 

 

恨めしかり ことどもなり

 

恨めしかり=シク活用の形容詞「恨めし」の連用形、残念だ、心残りだ、恨めしい。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

残念なことではある。

 

 

平家物語『忠度の都落ち』まとめ

 

平家物語のあらすじ 受験に備えて軽く知っておこう

 

 

 

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