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平家物語『忠度の都落ち』現代語訳(3)(4)

「黒=原文」・「青=現代語訳

 解説・品詞分解はこちら平家物語『忠度の都落ち』解説・品詞分解(3)

 

三位これを開けて見て、「かかる忘れ形見を(たまは)りおき候ひぬる上は、

 

三位俊成卿はこれを開けて見て、「このような忘れ形見をいただきました以上は、

 

 

ゆめゆめ疎略を存ずまじう候ふ。御疑ひあるべからず。

 

決しておろそかに思わないつもりです。お疑いなってはならない。

 

 

さても、ただ今の御渡りこそ、情けもすぐれて深う、あはれもことに思ひ知られて、感涙おさへがたう候へ。」

 

それにしてもただ今のご来訪は、風流な心も特別に深く、しみじみとした情趣も格別に自然と感じられて、感涙を抑えがたいです。」

 

 

とのたまへば、薩摩守喜びて、

 

とおっしゃると、薩摩守は喜んで、

 

 

「今は西海の波の底に沈まば沈め、山野にかばねをさらさばさらせ。浮き世に思ひ置くこと候はず。

 

「(もはや)今となっては、西海の波の底に沈むならば沈んでもよい、山野にかばねをさらすならばさらしてもよい。はかないこの世に思い残すことはございません。

 

 

さらばいとま申して」とて、

 

それではお別れを申して(行きます)。」と言って、

 

 

馬にうち乗り、(かぶと)()()め、西をさいてぞ、歩ませ給ふ。

 

馬に乗り、甲の緒を締め、西を目指して(馬を)歩ませなさる。

 

 

三位後ろをはるかに見送つて立たれたれば、忠度の声とおぼしくて、

 

三位俊成卿は(忠度の)後ろ姿を遠くまで見送って立っていらっしゃると、忠度の声と思われて、

 

 

前途(せんど)程遠し、思ひを雁山(がんさん)の夕べの雲に()す。」と高らかに口ずさみ給へば、

 

「これからの旅路は遠い。(途中で越える)雁山にかかる夕方の雲に思いを馳せる(と、別れの悲しいことです)。」と、(忠度が)高らかに吟じなさるので、

 

 

俊成卿いとど名残り惜しうおぼえて、涙をおさへてぞ入り給ふ。

 

俊成卿は、ますます名残惜しく思われて、涙を抑えて(屋敷へ)お入りになる。



(4)

 

その後、世静まつて、千載集を撰ぜられけるに、

 

その後、世が静まって、(俊成卿は)『千載集』をお選びになった時に、

 

 

忠度のありさま、言ひ置きし言の葉、今さら思ひ出でてあはれなりければ、

 

忠度の生前の様子や、言い残した言葉を、今さらになって思い出してしみじみと感じられたので、

 

 

かの巻物のうちに、さりぬべき歌いくらもありけれども、

 

(忠度が最期に託した)例の巻物の中に、ふさわしい歌はいくらでもあったけれども、

 

 

勅勘の人なれば、名字をばあらはされず、

 

(忠度は)天皇のおとがめを受けた人なので、姓名をお出しにならず、

 

 

「故郷の花」といふ題にて詠まれたりける歌一首ぞ、「よみ人しらず」と入れられける。

 

「故郷の花」という題でお詠みになった歌一首を、「よみ人しらず」として(千載集に)お入れになった。

 

 

 

さざ波や  志賀の都は  荒れにしを  昔ながらの  山桜かな

 

(昔の都であった)志賀の都は、今は荒れてしまったが、昔のままに美しく咲いている長等山の山桜であるよ。

 

 

 

その身朝敵となりにし上は、子細に及ばずといひながら、

 

(忠度は)その身が、朝敵となってしまった以上は、あれこれ言い立てることではないと言うけれど、

 

 

恨めしかりしことどもなり。

 

残念なことではある。

 

 

 解説・品詞分解はこちら平家物語『忠度の都落ち』解説・品詞分解(3)

 

平家物語『忠度の都落ち』現代語訳(1)(2)

 

平家物語『忠度の都落ち』まとめ

 

平家物語のあらすじ 受験に備えて軽く知っておこう

 

 

 

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