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宇治拾遺物語『猟師、仏を射ること』(1)解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『猟師、仏を射ること』(1)(2)現代語訳

 

 

昔、愛宕(あたご)の山に、久しく行ふ(ひじり)ありけり年ごろ行ひて、()づることなし。

 

行ふ=ハ行四段動詞「行ふ(おこなふ)」の連体形。仏道修行をする、勤行(ごんぎょう)する

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

年ごろ=名詞、長年、長年の間

 

坊(ばう)=名詞、宿坊、寺社に設けられた宿泊所

 

昔、愛宕の山に、長らく修行をしている僧がいた。長年修行して、寺を出たことがなかった。

 

 

西の方に猟師あり。この聖を(とうと)みて、つねにはまうでて、物奉りなどしけり

 

まうで=ダ行下二段動詞「詣づ/参づ(まうづ)」の連用形、「行く」の謙譲語。参る、参上する。お参りする。動作の対象である聖を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

奉り=ラ行四段動詞「奉る(たてまつる)」の連用形、「与ふ・贈る」の謙譲語。差し上げる、献上する。動作の対象である聖を敬っている。作者からの敬意。

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

西の方に猟師が住んでいた。この僧を尊敬して、常日ごろ参って、物をさし上げたりなどしていた。

 

 

久しく参ら ざり けれ ()(ぶくろ)()(いい)など入れてまうで たり

 

参ら=ラ行四段動詞「参る」の未然形、「行く」の謙譲語。動作の対象である聖を敬っている。作者からの敬意。

 

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

まうで=ダ行下二段動詞「詣づ/参づ(まうづ)」の連用形、「行く」の謙譲語。参る、参上する。お参りする。動作の対象である聖を敬っている。作者からの敬意。

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

(ある時、)長らく参らなかったので、餌袋に干し飯などを入れて(僧のもとへ)参った。

 

 

聖喜びて、日ごろのおぼつかさなどのたまふ

 

のたまふ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の終止形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である聖を敬っている。作者からの敬意。

 

僧は喜んで、(猟師と会わずに過ごした)日々の心細さなどをお話しになる。

 

その中に、居寄りてのたまふやうは、「このほどいみじく尊きことあり。

 

のたまふ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の連体形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である聖を敬っている。作者からの敬意。

 

いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても。

 

その話の中で、座って近づいておっしゃることには、「このごろ、たいへん尊いことがある。

 

 

この年ごろ()(ねん)なく経をたもち奉りてある やらん、この夜ごろ、()(げん)()(さつ)、象に乗りて見え給ふ

 

年ごろ=名詞、長年、長年の間

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。

 

験(しるし)=名詞、効き目、効能。霊験、ご利益。目印。

 

やらん=連語。「(に)やあらん」が縮んだもの。訳:「~であろうか」

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。聖からの敬意。

 

この長年の間、一心にお経を大切にして読み続け申していたご利益であろうか、このごろ毎晩、普賢菩薩が、象に乗ってお見えになる。

 

 

今宵(こよい)とどまりて(おが)給へ。」と言ひけれ 

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の命令形、尊敬語。動作の主体である猟師を敬っている。聖からの敬意。

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

今夜は(ここに)泊まって拝みなさい。」と言ったので、

 

 

この猟師、「世に尊きことにこそ 候ふ なれさらば泊まりて拝み奉ら 。」とてとどまり

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

候ふ=ハ行四段動詞「候ふ(さぶらふ)」の終止形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である聖を敬っている。猟師からの敬意。

※「候ふ(さぶらふ)・侍り(はべり)」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

 

なれ=推定の助動詞「なり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。直前に四段活用の終止形or連体形が来たときの「なり」は「断定・存在・伝聞・推定」の四つの可能性があるので注意。残念ながらここは文脈判断するしかない。この「なり」の推定は音を根拠に何かを推定するときに用いる推定。

 

さらば=接続語、それならば、それでは

 

奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。

 

む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

この猟師は、「まことに尊い事であるようです。それでは泊まって拝み申し上げましょう。」と言って泊まった。

 

 

さて、聖の使ふ(わらわ)のあるに問ふ。「聖のたまふやう、いかなること 

 

さて=接続詞、(話題を変えるときに、文頭において)さて、ところで、そこで。そのままで、そういう状態で。

 

のたまふ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の連体形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である聖を敬っている。猟師からの敬意

 

いかなる=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。どのようだ、どういうふうだ。

 

ぞ=強調の係助詞

 

や=疑問の係助詞

 

さて、(猟師は)僧が使っている少年がいたので尋ねた。「僧がおっしゃることは、どういうことなのか。

 

 

おのれもこの仏を拝み参らせ たり 。」と問へ

 

ば=係助詞。強調する意味があるが、訳す際には無視して構わない。

 

参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。動作の対象であるこの仏(普賢菩薩)を敬っている。猟師からの敬意。

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

や=疑問の係助詞

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

おまえもこの仏を拝み申し上げたのか。」と尋ねると、

 

 

童は、「五、六度奉り候ふ。」と言ふに、

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。童からの敬意。

 

候ふ=補助動詞ハ行四段「候ふ(さぶらふ)」の終止形、丁寧語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。言葉の受け手(聞き手)である猟師を敬っている。童からの敬意。

 

少年は、「五、六度拝見してございます。」と言うので、

 

 

猟師、「我も見奉ることも ある。」とて、聖の後ろに、いねもせして起きゐたり

 

奉る=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連体形、謙譲語。動作の対象である普賢菩薩を敬っている。猟師からの敬意。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ある=ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

いね=ナ行下二段動詞「寝ぬ(いぬ)」の連用形

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

猟師は、「私も拝見することもあるか。」と思って、僧の後ろで、寝もせずに起きていた。

 

 

九月二十日のことなれ 、夜も長し。

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

九月二十日のことであったので、夜も長い。

 

今や今やと待つに、夜半(よは)過ぎ らむと思ふほどに、東の山の嶺より月の出づるやうに見えて、(みね)(あらし)すさまじきに、

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」

 

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

 

すさまじき=シク活用の形容詞「すさまじ」の連体形、その場にそぐわず面白くない、興ざめだ。もの寂しい、寒々とした感じだ。ものすごい、激しい。

 

今か今かと待っていると、夜中も過ぎているだろうと思うころに、東の山の嶺から月が出るように見えて、嶺の嵐も寒々と吹く時に、

 

 

このの内、光さし入りたるやうて明くなり

 

坊=名詞、宿坊、寺社に設けられた宿泊所

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

この寺の中に、光が差し込んだように明るくなった。

 

 

見れ、普賢菩薩象に乗りてやうやう おはして、坊の前に立ち給へ 

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

やうやう=副詞、だんだん、しだいに

 

おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である普賢菩薩を敬っている。作者からの敬意。

 

り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

見ると、普賢菩薩が象に乗ってゆっくりとおいでになって、寺の前にお立ちになった。

 

 

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宇治拾遺物語『猟師、仏を射ること』(1)(2)現代語訳

 

 

 

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